安奈編 第十八通 勉強会
雅之と楽しんだ文化祭も終わり、もう中間テストの季節になった。
私の高校では皆、テスト期間と言うのにのん気にお喋りや携帯をいじって遊んでおり、緊張感が全く無い。
たぶん、授業をちゃんと聞いて予習復習してるから、テスト期間でもこんな余裕をもっていられるのだろう。
一方で、全く余裕の持てない人物も……。
「安奈〜っ。たすけて〜っ」
「久美ちゃん。テスト前になると、いつもそれだね……」
「お願いします。安奈様。お助けください」
両手を合わせ、必死に頭を下げる久美子に、私は断る事は出来なかった。
放課後、久美子と私の部屋で勉強をする事になったが、いつの間にか和美と冷夏まで一緒になっていた。まぁ、和美と冷夏が居れば、きっと私も久美子に教えるのが楽になりそうだ。
「皆オレンジジュースでいい?」
「私は、何でも良いよ。おまけにおやつとかあれば――」
その直後、久美子は頭を思いっきり和美に叩かれた。頭を押さえる久美子を見ながら、腕組みをする和美は呆れた様な声で言う。
「あんた。勉強しにきたのに、何図々しい事言ってんのよ」
「そうですわ。中学の時と何にも変わってないんですのね」
「だって……。お菓子があれば勉強も楽しく出来るでしょ?」
和美と冷夏の言葉に、無駄な抵抗だと分かっているのに久美子はそう言う。その直後、また頭を叩かれた。コップにオレンジジュースを注ぎながら、私はその光景を見て笑っていた。と、言うか久美子は中学時冷夏の家で勉強を教わっていたんだと思った。
その後、四人でテーブルに並んで勉強会が始まった。始めは皆真面目に取り組んでいたが、徐々に皆集中力が途切れ始める。
「安奈。あのメル友とはどうなってんの?」
「へっ? どうしたの急に」
いきなりの質問に焦り苦笑いを浮かべる私。三人の視線が私に集まり、私は表情を引き攣らせる。何だか、三人とも私と雅之の事が気になるようで、目をキラキラと輝かせている。何とかこの場を切り抜けようと、私は必死に考え言葉を発言する。
「は、早く勉強しなきゃ、明日のテストに間に合わないよ」
「大丈夫ですわ。明日のテストで危ないのは久美子さんだけですもの。それよりも、あなたの恋の行方が気になりますわ」
「そうよ。明日のテストで危ないのは、私だけ――……って、ちょっと待て! 私だけなの、明日危ないの」
自分の置かれた状況に気付いたのか、久美子が大声で叫ぶ。だが、和美も冷夏もそんな事無視して私に詰め寄る。その目は、『早く言った方が楽になるわよ』と、言っている様だった。少しずつ後退する私はタンスに背中をぶつけ、逃げ場を失った。
不適に笑みを浮かべる和美と冷夏は、逃げ場を失った私に言う。
「さぁ。早く教えなさい。あのメル友とはどうなったわけ?」
「べ、別にどうもなってないよ」
「あら? あれから、発展がないと言う訳ですの?」
「そうだよ。あれから、全く発展はないよ」
「な〜んだ。つまんないな〜」
和美と冷夏は、私が雅之と発展が無いと言う事を聞くと、残念そうな表情で自分の座っていた場所に戻る。ホッとする私は、ふいに携帯を手にしていた。
そして、雅之にメールを送っていた。雅之達の学校もテスト期間中だと何と無く分かっていたが、メールを送っていた。
その後は、静かに勉強会が進み、私は中々返ってこないメールの返事に不安になり、隙を見て何度も雅之にメールを送っていた。
勉強会が終わり、私は後片付けをしながら雅之にもう一度メールを送った。これで、返事が来なかったら今日はもうメールをしないつもりで。
『おーい。マサー。寝てるのかー? 起きてたら返事、返してね〜』
殆ど諦め気味で送ったそのメールに、暫くして返事が返ってくる。
『ご、ごめん。もうすぐ中間テストが近いからさ。僕の家で勉強会してたんだ。だから、メール届いているの気付かなかったんだ』
そのメールを見て、私は『マサも私と同じ様に勉強会してたんだ』と、思い何だか嬉しかった。
でも、私はこのメールである事を思い出した。それは、一学期の期末テストの事だ。確か、あの時は私とのメールが原因で補習になったのだ。
そう思った私はすぐにメールを送った。
『な〜んだ。そうだったの。私こそごめんね。そんな事とは知らないで、何通もメール送って……。もしかして、今も勉強中だった? だったらごめんね』
『別に、安奈が謝る事ないよ。すぐに返事を返さなかった僕が悪いんだから』
私のメールに対してすぐに返事が届く。この内容を見ていると、雅之の表情が何と無く私の頭の中に浮かんだ。無邪気に笑いながらこんなことを言うんだろうなって、感じる。
そんな一人妄想を張り巡らせながら、私は雅之にメールを送る。
『それじゃあ。私はマサの勉強の邪魔しないように、今日は静かに読書をしたいと思います。と、言う訳で、今日のところはおやすみなさい。勉強頑張ってね』
雅之にそう応援メールを送り、私はテーブルの上を片付ける。片付けを終え、時計を見た時、ふと雅之の勉強する姿が頭の中を過ぎる。机にうつ伏せになり眠りこける姿が。
私は、雅之が本当にそうなってるんじゃないかと思い、すぐにメールを送った。
『マサ! まだ、寝ちゃ駄目だよ。確り勉強して赤点から脱出だ。ガンバ』
雅之が本当に寝ていたか分からないが、何だか雅之の力になれた気がして嬉しかった。その後、私も教科書を読み直し暫くしてベッドに入った。




