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安奈編 第十六通 文化祭で出会った意外な人物

 昨夜、最終の電車で実家に戻ってきた私は、今、とある高校前にいた。

 雅之は初めて会ったあの駅から差ほど離れていない所に住んでいると前に話していたので、高校もこの付近だと推理したのだ。

 そして、この付近の高校で今日、文化祭が行われているのは、この高校しかない。校門の前に立ち暫し喜びに胸を躍らせる。多くの人が立ち並ぶ出店に足を止める中、私は雅之にメールを送る事にした。


『実は今、マサの学校らしき所に来てまーす。アレからメールの返信が無かったから、結構探すの苦労したよ(泣) それでさ、マサの教室ってどこかな?』


 雅之を驚かせようと悪戯っぽくメールを送ったが、メールの返事は中々返ってこなかった。その為、私は校門前で雅之からの返事をずっと待ち続けた。目の前を通り過ぎるカップルが、美味しそうにソフトクリームを食べているのが見え、私も雅之と一緒にソフトクリーム食べたいなと、思った。

 壁にもたれて空を見上げる私は、メールの返事が返ってこない事にため息を吐く。その時、聞き覚えのある声が――。


「あっ、鈴木じゃないか!」


 その声が私に向けられたものだと気付かずボーッとしていると、背丈の高い顔立ちの言い男が近付いてくる。なぜ、私の方に来るのか分からず、首を傾げる私にその男が、問う。


「なぁ、君、鈴木 安奈だよな」

「そ、そうだけど……」


 いきなり変な人に声を掛けられたと思った私は、とっさに身を縮め男と距離をとる。向こうは私を知っているようだけど、私は全く誰なのか分からなかった。

 警戒する私に、明るく笑みを浮かべる男は優しい口調で言う。


「何、警戒してるんだ? あっ、もしかしてお前俺の事忘れたんじゃないか?」

「忘れた? って、言うか誰?」

「ハァ〜ッ。やっぱりか……。同じ中学で、しかも三年連続同じクラス。それに、生徒会長と副生徒会長で一緒に頑張ってきただろ……」


 同じ中学?

 三年連続同じクラス?

 生徒会長と副生徒会長?

 この三つの言葉で私は少しずつ中学の記憶が蘇って来る。そして、その記憶の奥底で彼の顔を思い出した。


「アーッ! 和彦君! エッ、エェッ! うわーっ、凄い久し振りだね」

「いやいや、相変わらず男には興味が無いって感じだな」

「エーッ、そんな事無いよ。もしかして、私が女に興味があるんじゃないかって、思ってるんじゃないでしょうね?」

「中学の時、告白してきた同級生の男子を全員振っておいて、よく言うよ。卒業式前には噂になってたぞ、鈴木は女に興味があるって」

「ンーッ。そんな噂があったんだ。知らなかった」


 腕組みをしながら私は笑う。

 和彦のフルネームは白羽 和彦。

 確かに同じ中学でしかも、三年連続同じクラスになった事がある。あと、三年の時には和彦が生徒会長で私が副生徒会長を勤めていた。そのおかげで和彦とはよく話をした覚えがある。

 和彦は見た目もよく、勉強もスポーツも出来るまさしく非の打ち所の無い存在。確か、中学の時に彼女が居て、高校が離れ離れになると彼女が大騒ぎをしていたのを強く印象に残っている。

 その後、彼女とどうなったのか、気になった私はとりあえず聞いてみる事に。


「ねぇ。その後、彼女とはどうなったの?」

「彼女? アァーッ、春奈の事か」


 そう言って笑う和彦は携帯を開いてその画像を私に見せる。そこには、可愛らしい女の子の顔がデカデカと映っている。


「今も、春奈とは付き合ってるぞ。例え遠距離になっても、二人の愛の深さには乗り越えられない壁は無いってやつだ」

「その台詞、ちょっとクサイよ……」


 苦笑いしながらそう言った私に対し、和彦は嬉しそうに笑う。そんな彼を見ていると、私も雅之とこんな風に上手くやっていけるかなと、思った。そんな私に何かを思い出したかの様に和彦が問う。


「鈴木は、こんな所で何してるんだ? 確かお前の高校はここから随分離れてるだろ?」

「まぁ、そうなんだけど、ちょっと知り合いに文化祭があるって聞いて」

「知り合い? この高校にか? この高校にお前の知ってる女子は居たか?」


 和彦が首を傾げていると、私の携帯が震えた。私は雅之からだと、思いすぐに携帯を開きメールを読む。完全に和彦が近くに居るのを忘れ、自然と微笑む。


『返事遅れてごめん。今、仕事中で中々、携帯見る事出来ないから……。暫くしたら、休憩入ると思うから、その時メールするね』


 やっと届いたメールに嬉しさもあったが、仕事の邪魔をしてしまったと思い、申し訳なく思った。でも、暫くしたら休憩に入るとあったので、もう暫く待てば会えるんだという気持ちで、返事を送った。。


『仕事中だったの。ごめんね。それじゃあ、休憩時間になったらメールしてね』


 メールを送り終えた私が和彦の方を見ると、和彦が怪しむような目線を送っている。私は雅之の事がバレちゃまずいと思った。なぜ、そう思ったのか分からないけど、何とかごまかそうとした。でも、和彦のその視線に戸惑い私はあたふたしながら、何か言わなくてはと口を開く。


「い、いい今のは、お、おおお女友達からだよ」

「相変わらず、嘘が下手なんだな……。それに、女友達からのメールなら、普通に友達って言えばいいだろ。女の友達って言ったら普通は女だって考えるんだから……」

「あっ……」


 正論を和彦に言われた気がして、私は顔がカッと熱くなる。急に恥かしくなり頭の中が真っ白になる。まずいよ、まずいよ! なんて言葉が真っ白な頭の中を駆け巡り始め、私は更に焦る。そんな私の顔をチラッと見た和彦は何やら心配そうな顔をするが、私にはその表情を確認する余裕など無かった。そんな真っ白な私の頭の中に和彦の声が響く。


「それで、この高校にそのメールの相手が居るのか?」

「ち、ちち違うよ! こ、ここここの高校には居ないよ」

「そうか。この高校にその男のメール相手が居るのか。フムフム」

「だ、だだだだから! め、めめメールの相手は、お、男じゃないし、この高校でも無いよ!」


 焦れば焦る程ボロを出す私に、和彦は腕組みをしながら呆れ顔で私を見る。こんなに嘘の下手な奴が居るんだなと言う感じの視線を送る和彦に、私はもう逃げ切る事は出来ないと思い、とりあえず全てを話す事にした。だが、どこから話して言いか分からず、黙り込む私に和彦が質問する。


「鈴木がどんな男と付き合おうが知った事じゃないが、この高校はろくな連中ばっかりだぞ? 大丈夫か?」

「ま、マサは、大丈夫だもん! 確かに勉強やスポーツが苦手かもしれないけど優しいし――」


 和彦の言葉に私はとっさにそう言っていた。まるで子供の様にそう言う私に、ため息を吐く和彦は何やら考え込む。ムスッと頬を膨らます私に「うーん」とうなり声を上げて考え込む和彦は右手の人差し指で額をトン、トン、トンと叩く。和彦は中学の頃から考え込むとこうする癖があるらしい。そんな和彦に私は少し不安になる。まさか、雅之が高校では物凄い悪で暴れまわっているとかいう想像が頭に過ぎり、それを振り払おうと頭を激しく左右に振る。そんな私に和彦が怪しむように声を掛ける。


「お…オイ、何してるんだ? 鈴木」

「エッ!? べ、別に何もしてないよ」


 苦笑しながら私はそう答える。そんな私に和彦が何やら表情を和らげながら言う。


「鈴木の言うマサって言うのが誰か分かったぞ。まぁ、何と無く鈴木が好きになる理由が分かるよ」

「べ、べべべ別に好きって訳じゃないよ!」

「嘘がバレバレだぞ……。しかし、ユキの方はそんな嘘にも気付いてないんだろうけどな」

「ユキ? 何言ってるの? 私はマサって言ったのよ」

「何だ? 知らないのか?」


 何やら不思議そうな表情を見せる和彦に、私は数歩後ずさる。

 そして、和彦は何やら自慢げな表情で私に言う。


「雅之は、マサって呼ぶ奴と、ユキって呼ぶ奴が居るんだ。だから、俺はユキって呼んでるわけさ」

「へ〜っ。でも、普通はマサじゃないの?」

「驚かないんだな。俺がお前の好きな奴の名前言ったのに」

「エッ!?」


 その言葉に私は一瞬にして頭の中が真っ白になる。思考回路が爆発したのか、考える事など出来ずただあたふたとするしかなかった。「ちちち違うよ!」と、私は叫びながら両腕を激しく振るが、その姿が余計に怪しく私は嘘をついていますと言っているみたいだ。

 そんな私の姿に呆然とする和彦は、ため息を吐いて額に右手を当てた。

 慌てふためく私は、ポケットで携帯が震えるのを感じ、慌てながらも携帯を見た。そこには『マサ』と名前が映っていた。私は、一瞬にして正気に戻り、今まで慌てていたのが嘘の様に落ち着きを取り戻していた。深呼吸を三回し、私はゆっくりとメールを読んだ。


『やっと休憩に入りました。もしかして、もう帰っちゃった?』


 私はこのメールを読んだ瞬間、『やっとマサに会える』と言う期待に胸を躍らせる。そんな私を見ながら微笑む和彦は、まるで私と雅之が結ばれてくれるように望んでくれているようだった。そして、メールを打つ私に和彦が聞く。


「それで、ユキとはどうやって知り合ったんだ?」

「エッ? どうやってって……。そりゃ、運命的な出会いが……」


 よく考えると二人の出会いが、間違いメールからだなんて普通はありえない事だよと、思いその事は言わない事にした。「ふーん」と軽く相づちを打つ和彦は複雑そうな表情を見せる。それが、何故なのか分からず私は不安になる。そんな私に和彦が、笑いながら答えた。


「あ〜っ、心配するなよ。ただ、鈴木とユキがどう言う感じで知り合ったのか気になっただけだから」

「本当に、それだけ?」

「あぁ。それだけだ。全く、お前もユキも色々と似た部分があるからな……。大体、そんなに心配なら早くユキに気持ち伝えたらどうだ?」


 その言葉を聞いた瞬間、私は焦り携帯を落としてしまった。慌てて携帯を拾うが完全に動揺しているのが丸分かりだった。

 動揺する私に和彦は呆れた表情を見せながら言う。


「そんなに動揺するなよ。全く……」

「じゃあ、動揺させるような言葉を言わないでよ」


 私は弱弱しくそう言い返しメールの返事を送った。


『まだ、帰ってないよ。まだ、見てない所とか一杯あるから。それにしても、お腹空いたな〜。と、言うわけで一緒に昼食でも食べようよ。私、校門前で待ってるからね』


 そのメールを送った直後、和彦が落ち着いた感じで言う。


「それから、今までの話は全て無かった事にな」

「エッ? どう言う事?」


 意味が分からず首を傾げる。そんな私に、ため息交じりの声で言う。


「ほら、俺がお前とこんな所で長い間話してたら、ユキがこの二人付き合ってるんじゃないかとか、勘違いするだろ?」

「そうかな? 今時、そんな事思う人いるかな?」

「そこらへんが似てるって言うんだよ。鈴木だって、ユキが同級生の仲の良い女子生徒と、自分が居ない間に長話していると、この二人実は付き合ってるんじゃないかとか思うだろ?」

「う〜ん。確かに……」


 あのメール事件の事を思い出し不覚にもそう思った事があったなと思いかえる私。渋い表情をする私に対し、明るく笑いかける和彦は言う。


「だから、俺はマサなんて知らないし、お前も俺がユキと知り合いだと分からない、丁度今会ったばかりと言う設定で、話を進めるぞ」

「分かった」


 そう言って頷いた私の視界に、立ち尽くす雅之の姿が映る。私はハッとしすぐに笑みを浮かべながら手を振り叫ぶ。


「あっ、マサ!」

「マサ?」


 物凄く上手い演技の和彦は、マサって誰だって言う感じで微笑みながら振り返る。

 そして、雅之と和彦の視線がぶつかり言葉を交わす。


「マサって、ユキの事だったのか」

「和彦君、マサと知り合いなの?」


 微笑む私は内心『演技下手くそ』と、自分の事を馬鹿にしていたが、それを和彦が上手い具合にフォローする。


「あぁ、一年の時に同じクラスでな。って言うか、俺的に鈴木がユキと知り合いだって事が、ビックリだぞ」

「エヘヘヘヘッ。ちょっとね」


 私も和彦も笑いながら雅之の方を見る。未だに一言も話さない雅之に、不安になりながら。

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