安奈編 第十二通 雅之からの相談
あれから、数日経つが、未だに久美子は元気が無い。自分が振られた訳じゃないのに、自分の事の様に落ち込んでいる。きっと、冷夏のことを本気で心配しているのだろう。
冷夏もあれから、ずっと学校を休んでいて、二学期に入り毎朝の様に起きていたあの言い合いも、ピタッとやんだ。朝から五月蝿いのは嫌だが、無ければ無いで何だか調子が悪い。それは、私だけじゃない。クラス中が陰気な雰囲気に包まれている。今考えてみれば、このクラスがあんなに明るかったのは、久美子が盛り上げていたからなんだと、深く実感した。
そんな暗いムードの中、先生は授業を進めるが、皆全く身が入っていない。私も、その一人だ。体を横に向け、後の席の和美の方を見ながら小声で話す。
「やっぱり、久美ちゃんが元気ないと、クラスが暗く感じるね」
「そうだな。まぁ、それはそれで、良いのかもしれないけどな」
「良くないよ。久美ちゃんが元気ないと、私も何だか元気が出なくて……」
「それは、個人の問題さ。って言うか、安奈もこのクラスの連中も、人に流されすぎ」
シャーペンの先を私の方に向けて力強くそう言う和美は、すぐにノートに目を落し黒板の字を書き始める。見た目は悪って感じなのに、こんなに真面目だ何て……。やっぱり、人は見た目で判断しちゃ駄目だ。
これ以上、和美は私の話を聞きそうに無いので、私は体を黒板の方に向け、シャーペンを手に取った。でも、その目は黒板ではなく、前の人の背中だけを見つめていた。
その後の授業も全く身が入らず、私はぼんやりとこの日を過ごした。部活も終わり、何だかいつも以上に疲れを感じながら、私は自然と携帯でメールを打っていた。
『最近、ちょっと疲れを感じるんだよね。別にマネージャーの仕事が辛いって訳じゃないんだけど……。歳なのかな?(なんちゃって)マサは疲れってどうやって取る?』
本当は、雅之に相談したかったけど、あんまり雅之に心配掛けたくなかった。だから、こんな内容のメールになったのだ。そして、このメールへの返事は意外と早く帰ってきた。
『疲れか……。僕の場合、寝れば疲れなんてなくなるかな? まぁ、帰宅部だしそんなに疲れないんだけどね(笑)』
なぜ、疑問形なのかと思ったが、まぁ、深く気にはしなかった。メールを見ながら、ふとため息を漏らす私の手の中で携帯が震える。雅之からのメールだった。私はすぐにメールを見ることにした。
『相談があるんだけど、いいかな?』
「相談? 何だろう」
不意に独り言をもらす私。まぁ、周りには誰も居ないわけだし、別に恥かしくは無かった。それより、雅之からの相談がどんな事なのか気になった。もしかしたら、『好きな人が出来た』とか、『実は告白しようと思ってるんだ』とかだったらとか、色々と考えた。
そして、小刻みに震える指でメールを打ち返した。
『相談? もしかして、恋の相談? それなら、私得意だよ(笑)』
そうでなければ良いと、思いながらこのメールを打った。もし、恋の相談ならマサは私の事をただのメル友としか見ていないと、言う事になるからだ。そう考えると、何だか涙が出そうだった。
その時、携帯が激しく震えた。雅之からの返事が来たのだ。涙を堪えながら携帯を開きメールを確認した。
『恋の相談じゃないんだけど……。実はさ、この前クラスの女子からアドレスを書いた紙をもらったんだけど……。返事出すか出さないこうか、迷ってるんだよね。どうしたら良いかな?』
このメールを見た瞬間、薄らと涙が毀れた。返事を出すか悩んでると言う事は、気になっていると私の頭の中で結びついたからだ。それでも、涙を拭いメールを打ち返した。
『なーんだ。恋の相談じゃないんだ。つまんないなー。それで、何だっけ? メール送るか送らないかだっけ? 私は送った方がいいと思うよ。きっと、その子マサの事好きなのよ。キャッ! 色男(笑)なんだから』
自分の気持ちを必死に押し殺し、そうメールを送った。雅之が私の事をメル友としか見ていないと言う事を感じ、胸が痛み涙が止まらなかった。