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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第九十九話 己の怒りを自制しろ

 女が頬杖を付きながら腹の立つ台詞を並べている。それに穂琥がふるふる震え、怒り噴火寸前まで来ている。


「その子、本当に言ったのぉ?馬鹿でしょう?笑える!傑作だわぁ~。私がそれをしたから何?まずいことになったわけ?誰もそんな事信じないでしょう~?言った子が恥をかくだけでしょう~?あ、でも何だっけ?信じた奴がいたんだっけ~?アッハッハッハ!!本当に傑作!で?私に何か罰でも与えに来たの?ばかねぇ~?高校生なんでしょう?子供であるあなた達に何が出来るのぉ?同じ眞匏祗でも差が歴然としているわ~!あらぁ?でもその子は人間ねぇ?人間なんてみんな阿呆で馬鹿で貪欲な生き物よ、汚らわしいわぁ~」


女の台詞は止まることなく続く。それに穂琥がついに堪忍袋の緒が切れたようで、薪の肩を鷲掴みにして物凄い形相で言う。


「打ち殺して良いですか。白眼の練習台にする・・・・!」

「まぁ、落ち着け・・・抑えろ・・・」


遠い目の薪がそういう。しかし、結局のところ、この抑えろ言った当事者が抑えきれずに爆発することとなるのだが。


「で?なんだっけ?私に何をしろと?特に問題になるような事はしていないわ?それに、私がその子を唆したなんて、何処に証拠があるの?こう見えて私、暇じゃないのよ?おちびちゃんたちは大人しくおうちでパパとママにちやほやされていればいいのよ」


手をヒラヒラと振りながら高慢ちきに言った女の言葉に今度切れたのは薪のほう。無論、この彼女の台詞を聞いたときに背筋が凍ったのは穂琥と儒楠だ。


「はん。本当にこう見えて、だな?暇そうで仕方ないように見えたよ、申し訳ないな?仭狛でやっていけなくてこっちに逃げてきた臆病者かと思っていたよ。そしてそれに加えてあんたが無能であることに気づかなかったよ、オレも馬鹿だな?それに眞匏祗に年齢が関係あると本気で思っているのか?よほどの馬鹿だな?あぁ、人間は阿呆で馬鹿で貪欲?はぁ、それは自分のことを言っているのかな?短所が見えていて何よりだよ」


女と同じ様にまくし立てるように薪は一気にそこまで言って一息ついた。その詰まることのない勢いと速さに女は圧倒されていた。そしてそれを聞いていた穂琥、儒楠、籐下は目を半開き状態にして遠くを見詰めるように薪を怒らせるのは本当にやりたくないと実感するのだった。だって、自分の全てを見透かされていることをまざまざと感じさせるのだから。


「父と母に・・・何だっけ?アンタがそうされて来たのはたいそう、よかったな?生憎だがオレにはそのどちらも存在していないんでね?餓鬼の頃に全滅してしまってね?満足かな?」


薪がキレた理由はここだ。父と母という存在自体のトラウマ。重く圧し掛かる枷。穂琥と儒楠は少しだけ俯いた。その様子を少し不思議そうに籐下が見詰めていた。


 薪は軽く腕を組み、女を威圧するような姿勢をとる。いくら力の世界である眞匏祗とは言え、子供のほうがその力は弱いのが通例である。そして高校生くらいの子供である眞匏祗のひよっこがここまで偉そうな態度をとるなど、非礼に値する。女はそう思い勢いよく立ち上がって薪に噛み付こうとした。しかし、それよりも早く薪が女の顔面前に手で静止するようにびしっと突きつける。女はその行為に少し困惑する。


「オレが餓鬼だと言いたいんだろう?故にお前より力も弱い。そう、訴えたいんだろう?その位はわかるし、普通だと思う。しかし、オレという存在そのものが普通ではない。いいな?」

「な・・・!?あんた・・・」


何とか抗議しようとするが伸ばした薪の手がそれを制止する。


「お前如きの眞匏祗が愨夸の力に勝てる訳ないだろう?」

「えっ!?」


薪の言葉に女はひどく驚いた声を上げたが、周囲がそれに気づく余裕すらなく、薪はその女をその場から消した。これは地球から仭狛へと強制移動させる愨夸の特権。しかし、損な特権など、人間が知る良しもないのでほいほい使っても構うものでもないが、それよりも人間でも理解できる『言語』で失敗を犯したと思う穂琥と儒楠はしばし硬直していた。


「し、薪・・・?あの・・・えっと・・・今のは・・・?」


混乱している籐下が振り向いた薪に尋ねる。しかし薪はどこか淡い笑みを籐下に返すだけで何も言わなかった。


「・・・なぁ、薪。いくらなんでもあの女性にあそこまで言う必要はなかったんじゃないか?まぁ、腹は立ったけど・・・何よりお前らしくない」

「・・・・・そうだな。父上と母上のことが絡むとどうしても自分を保てなくなるよ。これが悪い方向へ転ばなければいいんだけどね」


薪は切なげに笑った。それを穂琥は胸の痛む思いで見詰めた。恐らく一生降りることのない薪に心に被さった大きな枷。それを思うとどこか痛い。心が・・・痛い。


「さて。学校戻るぞ。たぶん、あの女が流したのは人間だけじゃない。眞匏祗のほうにも耳に届いていると思うからそれなりの策を講じないとな」

「なんだよ、そうならさっきの女送らないほうがよかったんじゃないか?」

「そうだよ、帰しちゃって。話聞けばよかったのに」

「は?オレにアレを尋問しろって言うのか?オレの精神壊したいんですか?それともお前らやるか?あ?」

「いえ・・・すみません・・・」


薪の殺気に近い言葉に儒楠と穂琥が萎縮する。それをはたから見た籐下まで若干萎縮する。


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