第九十三話 真実の想いをかぎ分けろ
『死神』・・・。それがこの話の主役。ここ最近でさらに力を増大させている特殊な神、死神。
「我らですらあのような成長など出来はしない」
簾乃神が神妙な面持ちでそういった。首をかしげた儒楠は簾乃神の目元がふっと和むのを見た。
「一つだけの存在で生き抜くことなど不可能。故にその娘は群れて初めて力を増幅させた。あの娘の力を上げたのは間違いなくお前たちだ。お前たちがいるからこそ、あの死神は力を上げ続けているのだよ、無限界にね」
話をする簾乃神の言葉に感情が垣間見えた。
死神は朽ちることがない。消えるときは新たな死神として生まれ変わるとき。故に生きているのか死んでいるのか定かではない唯一のあやふやな存在。だからこそ、強く生きるための『モノ』が必要なのだ。それに縋ることを拒否した結果が恐らくその悲惨な事態を招いた。最も、今の死神の親に相当するものはどうにも次元が異なっていたが。
「ともかく。お前とて同じことなのだよ」
「・・・・?」
今の段階でもがき苦しんだところで何も出来ない。関わりを絶とうと思った時点でその歯車は停止してしまう。どんなことであっても逃げてはいけない。関わりを以って成長を滞らせてはいけない。
「さて。長居しすぎたな。愨夸に怒られてしまいそうだよ。ではね」
奥底を圧迫してくる神気が消え、いつもの感覚に戻る。しかしどうにも不可思議な感覚。しかしそれがどこか気持ちがいい。そうだったんだ、とどこかで納得がいく見解を得ている自分がいる。所詮はこの『世界』という名の歯車のひとつ。何をなすにも一つでは出来ない。ただの鉄の塊になってしまう。
気持ちが落ち着いて部屋を出る。そこに不安そうな顔をした穂琥が立っていた。
「あ、穂琥。どうした?」
「いや・・・簾乃様が・・・」
「あ~、話をひとつ、してくれてね」
「話?」
「まー・・・」
追々、と言おうとした儒楠の言葉にもう一つの言葉がかぶさる。
「儒楠」
「お、薪。さっくはぐれて悪かったね」
「いや・・・」
儒楠の様子を悟って薪は小さく笑った。少し安堵したようにも見えた。