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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第九十二話 新たな可能を映し出せ

 むちゃくちゃになりながら吐き出す。感情が前に出て何を言っているのか自分でもわからなかった。手は震え呼吸は乱れて。それでも尚、言葉は出続けた。押さえていた今までの醜い感情を全て。


「お前、奴に引け劣らぬぞ?」


話を全て終えた儒楠に簾乃神はそういった。その意味を理解できずに聞きなおしたが簾乃神ははぐらかして答えを教えてはくれなかった。


「己で気づけ。さもなければ意味がない。そして気づけたその時、お前のその今吐き出した全てが笑える冗談に聞こえてくるだろうて」


簾乃神は暖かく微笑んだ。それから急に真面目な顔になって遠い昔を見るような眼になった。


「そうだな。お前に昔の話をしよう。我ら長命を持つ者ですらそれは昔に思えるほど前の話だ」


 神。一口に言えど、様々なものがある。そのうち一つの存在。他の神々からは孤立してそれはあった。それも当然の事ではあったか。


 それはいつも孤立している。強いて言うなればまさに『一匹狼』がそれに合う言葉だった。ある時。その神は娘を持った。この世に出でて直ぐの娘に呪詛を掛ける。それは凄まじいまでの。我等ですら、引くほどの。それ故、その娘は直ぐに滅ぶであろうと、神々は危惧した。摂痲涼貴こと、摂貴の奴だけは違っていた。未来を見通す神である限りその娘の行方はわかっていたのだろう。だが、彼はそれを他言しようとはしなかった。己がするべきでないことが未来を見取った時に勘付いていたからだ。


 その娘が眼を覚ましたのは随分たってからだった。我等とて、半ば忘れかけていたとき、成り立った姿で眼を開けた。前代より引け劣っていたその力。そしてやはり、孤立していた。交えとはしない。そんなある時。我等神の中の1いっしんが近づいた。そして言ったのだ。


「出来損ないが」


しかしその娘は害した風も無くついと消えた。その言葉が後、奴をどん底へ落とす事になろうとは、誰しも思うていなかった。否、摂痲涼貴は知っていただろうか。


 我は運を導く神だ。奴の運が見えたとき、正直ぞっとした。遠い未来、良き運が来るであろう事は解った。しかし、これから『転機』が来るまでは地獄の日々であることを感じ取った。恐ろしい未来があるのでは、と。摂貴に尋ねたが奴は何もいわなかった。しかし顔がそういっていた。とんでもない未来だと。


 その娘の傍らに誰かいるのに気がついたのはその時から間も無くだった。女の幼い小さな子供だった。その子供といる時はなんとなく楽しそうに見えた。いつもの表情がなんとなく。それは全ての神、同等に感じた事であった。それが、いけなかった。前代より、引け劣るその力。比べなければそれは強い力であっただろうに。その力が前代より劣った、それだけの理由で神々からの猛攻撃を受けた。


「幼い子供と戯れるなど、力が付いてから行え!」


 それは見ていて息苦しかった。止めようとはした。しかし、我だけの力で神々を抑えられるわけも無かった。その娘はたいして気にしていないように振舞っていた。彼女に攻撃を加えない神は少なく。我と、諒李冥醒、諒冥(念のための説明:自分の罪を簾堵乃槽耀の神に濡れ衣を着せた彼女の愛する神》、摂痲涼貴、摂貴(←念のための説明:未来が見通せ、痲臨のある場所を示した神》、そして、感情の神と崇められた『陣軌掠黎』(じんきりゃくれい)、陣黎じんれい。彼女はあの娘の感情を僅かに感じた。同じ神同士で互いの力は使えない。使ったところで何の効果も現れない。しかし、その娘、いや、その存在は神といえど少し違う存在だった。故に他の神々の力の通じるところがあったが、深くまでは見る事が出来ない。それ故にそんな僅かな感情を見て、陣黎はよく言った。


「あの子は苦しんでいる。しかし、それを出さまいと必死であります。どうにかして苦しみから解放してあげたい」


だが、その言葉を素早く否定したのが摂貴だった。


「あの子供、消えるぞ」


その言葉の意味を悟るのは難しい事ではない。しかし、その時のあの娘の心は悟る事は出来なかった。当然の事であるが。


 大絶叫が聞こえた。あの小さな子供が発した言葉だった。娘は珍しく表情を変え傍に寄った。そして、それからしばらく動かなかった。何が起きたのか、その時はわからなかった。だが、摂貴の言った言葉が我等に衝撃を与えた事は間違いなかった。


「やられたな」


神とは本来、崇められる存在。如何なる事があろうと、どんな存在であろうと、命を奪う事は決してしてはならないことであった。にもかかわらず、あの娘の下にいた子供を神の力を以って殺めたのだ。子供が息を閉ざした時、その身体はその娘によって消された。消したのだ。その子供は不思議な力があった事は知っていた。諒冥の力は死したときに使われる。彼は言う。


「あの子供、身体があそこにあっては魂が開放されず、あの身体に寄り添い、浮かばれないのだろうな」


それを知っていたから消したのだ。愛しかったその存在を。


 その子供と会話している所を陣黎は聞いたそうだ。子供に対しの敬意。相手は神でもない、小さな、特別な子供。なのにかかわらず、敬意を祓った。それほどにまでその存在が大切だったのだ。それを消された。僅かな間だけの幸せを。苦しく、苦しく。辛く重く。あの娘に圧し掛かった。その重圧は『親』の存在。比べられ、贔屓され。愛しかったものまでを奪われた。それ以上、何をしようというのか。


 悲しみに打ちひしがれている場合ではなかった。娘にはやらねばならぬ事がある。それを成さねばならぬから。


 それからまた、何百と、時が過ぎた。凄まじい力が満ちた。この世界に。新しくこの世に出でた存在が、我等、神にまで影響を及ぼしたのだ。その苛烈な存在がこの世に出てから3年の時が過ぎたとき、その存在はこの地に足を踏み入れた。死したのだ。


 簾乃神は話終えると瞳を閉じてふっと息をついた。そして紅蓮の瞳を儒楠へ向ける。


「上の存在に己が潰されて地獄を経験した者の話だよ」


神々にまで影響を及ぼした存在は今の愨夸。毅邏により己を刺しそれが故に生と死の境目である神々のいる世界へと足を踏み入れることとなった。そしてその時に、やっと止まっていた彼女の運命が動き出す。その時が来たと摂貴神は言う。


「その、娘とは・・・」

「他でもないわな」


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