表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眞匏祗’  作者: ノノギ
90/123

第九十話 新たな刺客を討ち果たせ

 何がなんだかわからないままに薪と儒楠の後を追ったが中々話が始まらないようなので諦めて自殺覚悟で薪へとび蹴りを決めた穂琥は、やはり覚悟が出来ていなかったと落胆する。


 落ち着きを取り戻したところで儒楠が苦笑いで薪に何があったのかを尋ねる。その様子を腹を押さえながら聞いていた。


「霧醒は眞匏祗だな」

「・・・・」

「「は?!」」


予想外の言葉に驚いた。正直、儒楠が反応してくれてよかったと本気で思う穂琥だった。眞匏祗だということに気づかないのかと怒られる可能性が無きにしも非ずということだ。


「いやあれはわかりにくいだろうな。多分あいつもここ育ちだろうからね」


さらに予想外にも薪がそう言って来たので驚いた。


「いや地球育ちの眞匏祗って言うのは眞稀が中で燻っているから見つけにくいんだよね」

「・・・・穂琥をすぐに見つけられなかった自分のいいわけですか?」

「ははは。締めるぞ」

「すいません」


儒楠の失言に薪がにこやかに笑う。それに対して儒楠が引きつったように笑う。しばらくその背筋も凍るような笑みの応戦が続いていた。


「さてと。そうだな、誰だかはまだ知らないけど裏で操っている奴がいるんだろうな」


落ち着いた薪がそういう。


「尻尾だったらいいんだけどなぁ」


少しの間。


「え?尻尾?」


穂琥が尋ねる。薪は小さく頷く。今ある者を探していてそれの尻尾が見られたのだったら良かったとぼやく。


「ん、そういえば薪の狙いって・・・ちゃんと聞いていなかったな?一体何を狙ってんだ?」

「あ~・・・。眞匏祗?」

「・・・・・今度はオレが締めようか」

「ははは」


乾いた笑い声を出す薪。ただ、この笑いをしたとき、薪ははぐらかす事が多い。常に共にいるから良くわかる。


「いいさ。とにかく明日はもう少し情報を入手に掛かろうと思うよ」

「・・・・はいはい」


諦めたようにため息をついた儒楠に穂琥が背中をぽんぽんと叩いて慰める。


 学校に行くと霧醒が薪の元に駆け寄ってきた。そしてにこやかに謝礼の言葉を述べる。薪は少しだけ眉を顰める。


「話があるんだ!後で上に来て欲しいんだけど!」

「おう・・・」


霧醒に言われて薪はそれを承諾する。それをはたから見ていた穂琥としては薪の態度の違和感に穂琥も眉を寄せる。


「・・・・薪?」

「ん?」


霧醒と別れた薪の態度はいつもどおりだったので穂琥は結局何も言わずになんでもないと答えるしかなかった。


 薪は言われたとおり屋上へと移動する。霧醒がとても楽しそうな顔をしている。


「ねぇ、いつ眞匏祗だって気づいたの?今までたくさんの眞匏祗と会ってきたけど誰も気づかなかったんだけどな?」


薪はその質問に答えずに押し黙る。


「薪のこと、なんだか知らないけど結構すごい眞匏祗だって言うのは聞いていたけど。本当に良く気づいたね?」


薪も別に霧醒から眞稀を感じたわけではない。妹の様子を見たときにわかったことだ。


「ん~でもすごいなぁ・・・。あの方よりすごい・・・訳はないな」

「あの方・・・?」

「言っていいのかな・・・」


霧醒は少し考えたような表情をしていた。いずれはわかることだろうから言ってもいいだろうかと独り言を言う霧醒。彼が自分なりの回答を導き出すまで薪は大人しくそこで待つ。


「ま、いいか。愨夸、だよ」


その一言に薪は目を丸くした。想像もしていなかったその回答にどう反応していいか少し迷ったくらいだった。


「はは、驚いたね。オレの後ろには愨夸がいるんだよ」


霧醒の語る言葉に偽りは感じない。彼の言ったことに対して後ろではなく目の前にいるんだがという事を思っても口にはしていけないなと薪は思うのだった。(当然ですが)


「あ~、愨夸より強いなんて事はないもんね。オレって馬鹿だな」


確かにそれを否定はしないが。だって目の前・・・。いやそれはさて置き、はてなぜ霧醒が愨夸をバックにつけているとかたるのだろうか。答えとして簡潔なのは『偽者』が存在しているということ、あるいは彼が『嘘』を述べているか。後者は確率的には無いと思うのが薪の見解だが。そうしてどうにもギクシャクする話をしている最中、薪は話を中断して屋上から見事に飛んだ。


「な、何しているの!?」

「感じないのかよ!」


薪は落下しつつ、穂琥たちのいる教室の窓淵に手をかけて足でその窓を開けて中に飛び込んだ。室内が一瞬だけ静かになるのを耳に聞きながら周囲を確認する、が。違和感だ。


「なんだよ、薪!?どうした!?」

「薪~!?入ってくるなら窓じゃなくてドアからにしようね!?」


状況にすぐさま対応した儒楠と穂琥がそう言った。薪はこの状況に硬直した。そして思考する。今、薪は僅かな殺気を込めた眞稀を感じ取ったためにここに飛び入った。しかし、室内は何事もない空気が流れている、ようだった。そして穂琥はともかく儒楠までもその気配には気づいていないというのか。ならば先ほど感じた眞稀は気のせいだったのだろうか?自分の感覚を疑おうとしたその直後、やはり気のせいではないことに気づく。身の毛もよだつような殺気が室内に流れ込んできたかと思うと教室中の窓ガラスが割れた。


 響く奇声。騒ぐ室内。そのどれもが恐怖に震えている。薪と儒楠は一瞬だけ目を合わせて互いに頷き合う。


「みんな!教室の外に出て!」


儒楠が叫んでクラスのものを誘導する。クラスメイトとしてはそれが『薪』なのか『儒楠』なのか、区別はついていない。しかし今はそんな事どうでもよく、とにかく言われるがままに教室を出ようと混雑する。


「落ち着いて、無茶をしないで!」


パニック状態になったこの数相手に一つの声が通る訳もなく空を切る。


「全員動くな!!」


薪の怒号に近い声。室内の時間が止まったようにしんと静まりかえった。それにすかさず儒楠が入り口まで走り一人ひとりを手づかみで教室の外に放り出していく・・・が、半分と少しを外に出した時点でそれを止めて教室のドアをぴしゃりと閉めた。そして薪と儒楠お声が重なる。(声が同じなためダブって聞こえる違和感を後になって笑うのだろうが今は気にしない)


「「穂琥!シールド張れ!」」


突如言われた言葉に穂琥は少し混乱したようだがすぐさま地面に手を付きふっと力を込める。するとうす青色をした膜のようなものが教室中を包み込んだ。これが『絶界』、世界を分断する力。強ければ強いほど今あるべき世界とは別の世界にしてしまう脅威の業。


「ち、閉じ込められたか。タイミングうまいな」


聞きなれない男の声が耳に届いた。薪は左の腰に手を添える。そこには当事者しかわからない『刀』が収納されている。眞稀を込めてそれを掴み引き抜くことで普段は目に見えない己の愛刀を呼び出すことが出来る。


 現れた男の格好は衣に鎧のようなものを胴体に付け腰は帯で結ばれている姿、つまり眞匏祗の装いで現れた。その格好を見た事のない室内に残ってしまったクラスの者たちが目を丸くしてみていた。まるで映画のようなそんな姿に見とれてしまっていた。


「ふーん、仭狛の格好そのままとはね」


その姿を見て薪がそういう。男は喉を鳴らすように笑う。


「いいじゃないか。本気でぶつかろうぜ?お前だって戦鎖だろう?こんな餓鬼どものお守りより戦闘に身を置きたいだろう?」

「生憎、オレは戦闘を好まないタイプでね。これで十分、戦闘の刺激なんてオレには無縁だ」

「ほう?」


そう、無縁。ただ、それはあくまで刺激の話だ。戦いを誰よりも拒むからこそ、誰よりも強くあらねばならない。それが幼い頃より薪の中に根付く戒めでもあることを薪ですらまだ気づけていない。


 薪が名を尋ねたが男は名乗るほどのものじゃないと言い、答えることはしなかった。何をしに来たと質問を変えると強い眞稀を感じたから来た、とだけ答えた男。薪はそれに眉を寄せる。果たして何のことを言っているのだろうか。今の段階で穂琥は薪が完全にホールドしているから眞稀が外に漏れるはずはない。薪はもとより、儒楠も自制しているために眞稀が外に漏れることはないはず。だとすると、この男が一体誰の眞稀を感じてここまで来たのか不明だ。


 しかし今はそれを言っている場合ではないために薪は気持ちを切り替える。確実にこの男を排除しなければならない。まだこの室内に残っている『人間』を傷つけるわけにはいかない。


 互いに刀を構える。男はすでに抜刀している。薪は未だに見えぬ状態、つまり鞘に収めたまま。男がにやりと笑う。その直後、男と薪が同時に床を蹴った。恐らくそれは人には見えぬ速さだろう。


 振りかざす男の刀を抜刀した勢いで弾き返す。弾かれた手は予想以上に後ろに飛ばされた。そのまま薪は即座にこの戦いを終わらせるために弾くために上げた刀をそのまま振り下ろす。しかし、男は腕を回し薪の刀を弾き返す。このままこれを続けても無意味と判断し、薪は大きく一歩後ろに下がる。男もそれに習って後退した。


「ふん、強いな」

「ははは、お前もな?でもお前、弱いな。本気じゃねぇ」

「わかるか」

「当たり前だろう。替装すらしていないんだしな」


薪が刀を構える。そしてふわっと薪の周りを纏うように風が起こる。


―替装・・・


ぶわっと風が取り巻き薪の服装が一気に変わる。しかしそれは白いコートのような形をしたもので男のものとは少し違う。これが地球にいるときの最大限の力の解放。仭狛のときと同じ様な姿、開放状態では地球を壊しかねない。故に完全に力を解放しきることはまずしない。


「ほう?替装してもそのくらいなのか。完全にはしないとな?まだ力を抑えるんだな~」


男はどこか嬉しそうにそう言った。アレはただ純粋に強さを求める目だ。嫌いではない、が好きでもない。かつて自分がそうであったように、力だけを求めても何にもならないことを薪はすでに学んでいるから。


 替装を終えた薪に男が敵うわけもなく、ひどく言えばあっけなくその勝負は幕を下ろした。速さの上がった薪に男は付いてゆけず拘束される羽目となった。そしてそのまま仭狛へと転送する。この男ほどの腕があれば長夸か役夸が何とかしてくれるだろうから。


 終わったと告げ、結界から開放する。教室内と外を隔てていた薄青色の幕も消滅する。無事を確認した後は眞匏祗という存在の再確認で歓喜に満ちた。それと同時にやはり恐怖するべき存在であることを思い知らされた放課後の日だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ