第八十七話 心の奥底を見極めろ
休み時間にざわつく室内に一人の少年が入ってきて空気が変わった。おどっとした感じの一人の少年。そちらに意識を傾ける薪。
「霧醒、だったっけ?」
「はい・・・。あの・・ちょっとお願いが・・・」
接点などほとんどなく、顔すら覚えのない人物だったが、しっかりと名前まで覚えている薪の頭を一度かち割ってみたいと思う穂琥だった。
話がどうにも詰まってしまっていてもどかし説明。薪はなんとかそれを汲み取って要約する。つまりは。妹がどうやら床に伏してしまってその状態が悪いようだ。その様子を見て欲しいとのこと。少しだけ薪の眼が霧醒を射抜くような気配を穂琥は感じたが、それを無視して薪が承諾する声を聞いていた。
「え?!何!?何かするの?!行くよ!?」
「え・・・・まじかよ・・・」
薪が言いよどんだ後、ぐるっと首を回して穂琥を見る。それから霧醒のほうを向いてにこやかに言う。
「な、病だよな?だったらオレじゃなくて穂琥に頼・・」
「なんでじゃぁい!」
薪の言葉に穂琥がかぶせ、手刀が薪の頭に直撃する。
「ってねぇな・・・。療蔚で長けているのはお前だろう」
「何さ!その術を教えたのは薪のほうでしょ!」
「あくまで教えただけだ。出来るのはお前のほうだろう」
「薪にかなうような力はもってませぇん~!」
「オレは戦鎖だっつうの。やるんだったらお前が・・・」
「あのう~・・・」
見かねて籐下が止めに入るために大変恐縮した様子で声をかける。
「な?籐下。お前だって思うだろう?穂琥のほうが・・・・あ」
やっと状況を思い出した薪が声を漏らして周囲を見る。醜い兄妹げんかなど、見るに耐えないものだと薪は頭を抱える。
「いや、まぁ・・・レアなものを見られた気がするからいいけど・・・」
籐下の言葉に薪はさらに頭を抱える。なんとも情けない姿。ひとまず、霧醒の家へと行くことを決めた。そして学校が終わってからいざ、向かおうとしたとき穂琥の「やらないよ」という言葉でもう止めようのない兄妹喧嘩が始まってしまった。
席をたまたま外していた儒楠が戻ってきてようやく終結する。それの止め方もどうかと思うのだが。
カキンッ
高く空に響く金属音。
「はい、止まったかな?あまり薪に攻撃とかしたくないんだよね?スイッチはいられたら困るからさ」
「悪い・・・」
苦笑いしながら互いに刀をしまう。それからやっとまともに霧醒の家へ赴くこととなった。
「オレたちも行く!」
「来るな!」