第八十六話 真の目的を開始せよ
予想以上にいろいろな方向に盛り上がったお披露目会。騒動があったにしろ、一件落着を果たした。そして・・・眞匏祗という存在は学校の中全てに知れ渡ることとなるのだが、無論それも薪の意志。そして・・・学校中の生徒のみならず教師にまで過大なトラウマを植えつけることとなった『これだけは破るな、薪君の大原則!』と穂琥が勝手に名づけた『原則』を叩きつけたのでした。そしてそれをした薪君はというと、飄々とした顔をしてその場を去っていったのでした。
帰宅してからつまらなそうに儒楠が口を尖らせて言う。
「オレ、行かなくても問題なかったんじゃないか?」
実際、すぐに正体は明かしたし教室内ではそんな恐怖心などなく普通に儒楠と会話を経た。だから無意味だったのではないか、ということ。しかし薪はそれを否定した。実際、彼らの中に恐怖心が植えられたのは事実。よって無意味ではないという。
そんな会話の中、突然薪が立ち上がった。そして妙に緊張した瞳をしている。穂琥も儒楠も薪を見る。
「時間掛かったな・・・」
「ふん」
機嫌の悪い声がしたと同時に部屋の中にふわっと風が舞い黒衣が現れる。その姿を捉えて穂琥が飛びつく。
「離せ・・・」
少しだけ困ったように穂琥を身体から離す綺邑。それから薪へ視線を向ける。
「五十六個、地表にあることは確認した」
「そうか。残りは・・・?」
薪の問いに綺邑は押し黙る。それは恐らく薪の求めた質問の回答をすることが出来ないからだろう。薪はそれを得て、残りを頼むと一言残す。それを聞いて綺邑は姿を消した。
「ん~、相変わらずピリピリしてんなぁ~。怖いな~」
儒楠が綺邑の消えたところを見ながらそういうと穂琥がそれを否定する。
「え?怖くないよ。優しいよ?」
「ん~。綺邑は穂琥に優しいからなぁ~」
儒楠が笑うように言う。
翌日、儒楠も含めて穂琥と薪は学校へ向かう。教室に着けば当然のように人だかりが出来るわけで、面倒くさそうな薪は途中で逃走した。無論、それの尻拭いをするのは儒楠であって困って笑う儒楠に籐下はどこか切ない気持ちになるのだった。
儒楠が学校の授業を受けるわけもなく、教員の承諾の元薪の席の隣に座る。その際にも自己紹介から名前が不思議だという話になる。
「じゅなん、ってなんだかとても不思議な名前だよね?」
「確かにね。薪、って普通なのに」
「でも穂琥ちゃんも変わっているよね」
そんな事で盛り上がるのを薪は頬杖を着きながらふむと唸る。
「まぁ、眞匏祗だから、って言う容易な回答で許してもらおうかな」
別に面倒なわけでもなく、実際にそういうことだから仕方のない話。見た目こそ、同じでも待った区別の存在なのだから。それから見た目の話になって薪と儒楠の見分けがつかないという話になる。
「いやね、確かにそっくりなんだけど・・・。眼が違うんだよ!儒楠君はこう、和みがあって優しい感じがするんだけど薪はねぇ~こう、根っこから腹立つような意地クソ悪・・」
「うるせーよ」
薪の鉄槌が下り穂琥は黙ることとなる。撃沈した穂琥をスルーして席で腕を組む薪に誰が声を掛けられただろう。
「おいおい・・・」
苦笑いをする儒楠だったがそれもそれどころではなくなる。
「ね!その、まほう・・・なんだっけ?そういう力使えるんだよね・・・?」
一人の男子がそう訪ねる。儒楠がそれに是と答えたのが失敗だっただろうか。
「見たい!!」
それからその見たいコールが激しく鳴り響く。それの対応に儒楠とさらには穂琥も参加するが中々おさまるところを知らない。仕方なく儒楠は薪に助けを求める。するとこちらを向いた薪の眼に、その場の全員が凍りついた。その鋭く突き刺すような殺気に似た気配にみんなが息を呑む。
「見せもんじゃねぇんだよ。それに。言っただろう?眞匏祗なんていうのはお前らの考えているほど甘い物じゃないんだよ。死ぬぞ」
少しの間凍ったような間が起こる。それからすぐに教師が室内に入ってきてその異質な凍った空気に笑顔が固まったようにしたが出席を取るという声で空気を換える。
「薪・・・マジで怖かった・・・」
「はん。ぬるいこと言っていたら『本当の』恐怖って言うのを忘れてしまうからな」
「なるほどね・・・。確かに怖いからな」
籐下は眼を伏せる。随分前に薪が結界を作ってくれたとはいえ目の前に本気の眞匏祗を前にしたときは恐怖で手が震えたものだ。