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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第七十三話 信じる心

 諒冥神がそろそろ終わりに近いと声を発した。腰を浮かした諒冥神の動きを止めたのは苛烈な気配。


「穂琥・・・!?」


薪がその気配を感じて声を上げた。大きな爆発が起こる。土埃が舞い上がり何が何だかさっぱりわからない状態で薪は穂琥の姿を探す。


「大丈夫。もう怖くないもん。少し弱くなっていたけど信じればいいってわかったから。もう平気。私は真っ直ぐ立っていられるよ」


にこやかで安心できる笑顔。それを見て薪は穂琥に抱きつく。


「し、薪!?ちょっとあんまりらしくないことしないでよ!?いつもなら遅いって怒るくせに!」

「・・・あぁ、そうだな」


薪はそっと穂琥から離れてなんとも言えない切ない笑みを浮かべて穂琥に言う。


「おせえよ、ばぁか」

「馬鹿はひどい!!」


頬を膨らませて文句を言う穂琥。それに儒楠も参戦して少しだけ盛り上げる。その中でふっと殺気の篭った声にピリッと空気を変える。


「小娘如きが」


穂琥がその声にひどく過敏に反応した。軽く怒りの感情すら感じたので薪はそんな穂琥を静止する。そして目の前にいるのが『神』であることを伝える。それを聞いてひどく驚いた顔をしたのは言うまでもなかった。


「さぁ、勝ったのはオレ達だ。ゲートは開けてもらう」

「ふぅん・・・。面白くないなぁ」


諒冥神がつまらなさそうに声を発する。そして諒冥神が腰を浮かそうとしたその刹並。凄まじく神々しい神気が降り立つ。その場にいる全てのものが凍りつく。誰よりも顔を引きつらせたのは諒冥神だったかもしれない。


「ふん・・・。あまりふざけた行為を放ってはおけぬなぁ」


あまりの苛烈な神気。その美声。


「れ、簾乃・・・・!」


諒冥神の震えた声が鳴り響く。諒冥神よりもはるかに大きなその神気があたりを粛然とさせる。


「その子らは気に入っていてね。あまりいじるな。それにこれ以上我ら神々を穢すでない」


簾乃神の圧するものに諒冥神は返す言葉もないようだった。


「さすが大神たいしんだな・・・」

「え?大神・・・・?!」


神がボソッともらした言葉に儒楠が反応した。その声に驚いて穂琥もそちらを見る。


 神々にもいくつかのランクがあり、それらの上のほうに存在する神々を大神と呼ぶ。そして簾乃神がその大神に含まれる。また、あの摂貴神も同じく大神。対して諒冥神は大神よりは下の前神まえしんであり、抵抗するには少し力が及ばない。


「さて。神とてこの程度。お前たちには迷惑を・・・」


簾乃神が薪たちのほうを見て言葉を一度切った。薪の姿を少しだけ見据えてから姿を変えたのかと呟いた。ふっと後ろにいる儒楠に目をやってその瞳を細める。


「そうか。ここはテイアのいた場所だったな」

「・・・じゅ、儒楠です」

「ほう。それはすまなかったな、儒楠」


訂正の言葉を述べたものの、結局神を前に萎縮をした儒楠だった。


 簾乃神は再び諒冥神に向き直る。その瞳に宿す炎は激しく燃えている。


「ぬし、堕神(『だしん』といって文字通り神世界から堕ち、存在自体を消されること)にでもなりたいのか?ここまでの狼藉、放っては置けぬぞ」

「く・・・・」


完全に萎縮した諒冥神を簾乃神はなんとも切ない瞳で見下ろした。それからその苛烈に輝く緋の瞳を薪たちへ向ける。


「ゲートは開けておこう。と、痲臨・・・だったか?」

「はい」


簾乃神は再び諒冥神へ向かう。諒冥神は簾乃神に見られただけで萎縮し、胸の辺りから美しく輝く宝玉を取り出した。それの放つ気配はまさしく痲臨。薪はやっと肩の荷を降ろした。


 簾乃神はその痲臨を薪へと渡すとその身を翻した。


「邪魔したな」

「あ、あの、簾乃神様!」

「ん?」


消えようとした簾乃神を穂琥が呼び止める。しなやかな肢体をひねって穂琥に顔を向ける簾乃神。


「あの・・・・、摂貴神様にお詫びとお礼をお伝え願いますでしょうか」

「ほう?」

「私摂貴神様のおかげで自分の意識を保てました。なので・・・・。図に乗ったことを口走ったことと、助言をしてくださったことを・・・・」

「いいだろう」


簾乃神は美しく笑うと諒冥神を連れて姿を消した。強靭な神気が消えたことで薪も儒楠も大きくため息をついた。


 穂琥は自分が本当に死ぬところだったということを薪と儒楠から聞いてひどく驚いた。現実世界ではないかと思っていたのに。それでも摂貴神のおかげで色々考える余裕が出来て、さらには薪の言葉も思い出すことが出来たんだと伝え、薪は少し驚いた表情を見せた。


「助けてやるからって薪が言ったもん」

「そうか・・・・」

「はは。穂琥のほうが上手だったな?」

「だな・・・」


薪はどこか口惜しそうに微笑んだ。それからふっと目の色を変えた。これは若干、仕事の気配が入った目だ。その目が向いたのはここから随分離れたところでほうけている駕南火のほう。


「お前は・・・どうする?」


駕南火は薪の言葉に一瞬だけびくっと身体を震わせたがそれきり反応がなかった。薪はそんな駕南火の元へ歩み寄る。それに連なって穂琥も儒楠も近寄る。


「今更・・・・。何もすることなど・・・・。何処へも・・・・行くところなど・・・」


衰弱したように吐かれたその言葉に薪は苦しそうに表情をゆがめた。がっくりと全身の力が抜けて俯く駕南火を前に薪は一体何を考えたのだろうか。いや、そんな事、考えるまでもなくわかりきっていること。穂琥は薪の表情を見て理解する。きっと儒楠も同じ。


「駕南火。オレの城に来い。全うな生活くらいは出来る。あんたなら歓迎する」

「は・・・?」


薪のその言葉。穂琥も儒楠もそれを待っていたかのように駕南火へ笑みを送る。


「うん、それがいいよ。あなた、悪い感じしないし」

「そうそう。それに愨夸の仰るお言葉だぜ?」


穂琥と儒楠の言葉を聞いて駕南火は一体どうしたらいいのかわからない表情を浮かべる。


「最初に言ったはずだ。お前とは戦う気がしなかった。な、オレの眼下で動いてみないか?利用するなんてそんな悲しい事じゃない。共にありたいんだ」

「そんな・・・・・・」


駕南火の凍ったような瞳がやっと震えた。そこから一筋の涙が零れた。そっとそれを薪は汲み取って駕南火へ笑みを送る。


 しばらくの間、駕南火の押さえ込んだような声が聞こえていた。



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