第七十話 新たなる恐怖
流石に疲れた。薪も儒楠も何処にいるのかさっぱりわからない。後ろから凄まじい勢いで追いかけてくる気味の悪い存在。ただひたすら逃げ惑うだけ。後ろから追いかけてくる死を纏うその存在。否が応でも頭の中に死のイメージが思い浮かぶ。
自分がアレに喰われて無残な欠片へと変貌していく姿。穂琥は頭を振る。まさかまさか。ないない。
―ない?本当に?
頭は否定を許さない。いきとしいけるものはいずれは死ぬ。遅いか早いかだけ。なら、今ここで死ぬことを否定できるのだろうか。いや、出来ない。もしかしたらこれが穂琥にとっての最期なのかもしれない。そう思っただけで穂琥は怖くて堪らない。
薪はいつもこんな恐怖に直面しているのだろうか。薪は己が死ぬことを恐怖したことがないという。果たしてそれは本当なのだろうか。こんなにも怖いのに。どうして。どうして薪は恐怖を抱かずにいられるの。怖いよ、怖いよ、怖い。
「あ!」
足がもつれて前に倒れこむ。ぐっと踏ん張っても力が入らない。後ろから迫ってくる死の存在。穂琥はふっと生きることを諦めた。ここで終わりなんだと。
―この先にある死の恐怖に勝てるかな?
ふっと頭に浮かんできた言葉。穂琥はそれが何処で聞いた言葉なのか思い出せなかった。誰かが言った言葉。誰かから聞いた言葉。何処で聞いたのか・・・。思い出そうとしても頭が思考しない。ただひたすら、己の身に死が来るのを待っている事しか出来なかった。