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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第六十九話 揺らぎを薙ぎ払って

 珍しいまでに薪が怒号を上げて叫んでいる。それがあまりに意外で儒楠はただそんな薪を見ていることしか出来なかった。


「穂琥を開放しろ!」

「駄目だな。わしとの勝負、勝ってみよ」


悠然と構えるその姿に流石の薪でも違和感を覚える。その肢体から放たれる気配は確実に眞匏祗ならざるもの。では眞匏祗でもないその存在は一体なんだと。そんな警戒した薪の姿を見てか、彼女は薄く笑った。


「あぁ、名乗っていなかったか。わしの名は諒冥りょうみょう


彼女が名を言った瞬間、薪がひどく揺れた。信じられないものを耳にしたかのようにただ眼を見開いて諒冥と名乗った女性を凝視している。


「薪・・・?」


不安になった儒楠はそっと薪へ声を掛ける。薪は小さく穂琥の名を呼んだ。それは確実に不安からなるもの。焦りだろう。あまりにらしくないその状態に儒楠は一括するように薪の名を呼ぶ。するとはっとしたような表情をしてから儒楠と眼を合わせる。


「あぁ・・・。諒冥、正式名称諒李冥醒りょういみょうせい・・・・」

「ほう、子供の癖によく知っておるのう?さすが愨夸は伊達ではないといったところか?」


諒冥と名乗る彼女は嬉しそうに笑ったが、その反面、その名を聞いた儒楠も薪と同じ様に固まった。


「え・・・それって・・・『神』じゃないのか・・・・?」


薪はただ黙って諒冥を見詰めていた。否定をしないという事は事実。儒楠はぐっと手に力を込めた。まさか、神が敵対してくるなど。あっていいことではないはずだ。もし、仮にここへ簾乃神が来てくれたなら話は少し変わりそうな気もするが。そうそう神々の降臨を許していいほど、地球は強くないことを重々知っている。


 つまり、この諒冥神りょうみょうしんの言った『賭け』に確実に薪は乗らなければならない。薪はひどく複雑な表情で諒冥神を見る。そしてその賭けを致し方なく承諾する。


「先ほど小娘を拝借した。そして『死の者』たちと遊んでもらっているよ。小娘が無事にここへ戻ってこられるか、来られないか。それを勝負の内容としよう。さぁ、どちらを選ぶ?」

「は!?」


薪が攻撃的な声を上げる。儒楠は死の者が一体何なのかは理解しかねている。しかし薪のほうはそれを瞬時に理解した。故にそんな声を上げたのだろう。


 死の者。死者を誘う死神ですら手を付けようとしない厄介な異物。決して付けられないわけではないのだが至極面倒なのでやらないだけだが。だがそれの相手をあの穂琥がやっているとなると話は別だ。穂琥が『死の者』に対する知識を持っているとは到底思えない。ならば勝つことなどおそらく出来ない。しかし、出来ないという事はすなわち死を意味する。『生きる』ことに渇望した者たちが生者から奪うのは生きる気力とエネルギー。それがなくなればどんなものでも生きていく事は出来ない。


 薪はぐっと手を握り締め深く深呼吸をした。


―今更何に怯えているんだ・・・・


一度ふっと眼を閉じてから。ゆっくりと開ける。目の前に居座る強大な存在。それに眼をやって薪は決意を固めて言葉を発する。


「無論、帰ってくる」

「いいだろう。では」


諒冥神は何処からともなく円盤を取り出す。その円盤には蛇の道がある。そしてその道をゆっくりと蛇の形をした石が這っている。諒冥神はこの蛇が一周する前に帰ってこられなければ穂琥の命はないという。


「帰ってこられなければわしの勝ちだ」


不気味に笑う諒冥神。しかし、薪は今の諒冥神の言葉を聞いてふっと疑問に思った。


「オレが勝ったのなら穂琥の開放、ゲートを開く。当たり前のことかもしれない。しかし、貴女が勝ったらどうなさるおつもりだ?」

「くくく。まぁ、わしが勝ってもゲートは開かんが小娘は解放してやろう」


あまりに意外なその言葉に薪も儒楠も驚いてはたから見れば間抜けな顔をしただろう。


「わしは別にこの小娘に興味などないわ。もっとも?小娘がちゃんと生きているかは知らんがな?それよりもお前の魂石が欲しい。眞匏祗後時の魂石など興味はないが・・・・。お前のは興味がある」


薪は考える。本来、愨夸の魂石は愨夸の血筋を持ったものにしか扱う事は出来ない。無理に使おうとすればその身を滅ぼすことになる。しかし、強大且つ膨大な力を有している神であるのなら話は別だ。いくら愨夸といえ、眞匏祗後時の力など説き伏せることくらい出来るだろう。しかしだ。なら尚更疑問だ。たかが眞匏祗の魂石をもって神に何の得がある。


「くく。別に。面白いものは集めたいだけさ。神とは存外暇なものでね」


有体(この世界に列記とした『肉体』を持っていること。それに反して神や死神といった形こそ存在はするが『肉体』という概念のないものたちは無体という)の者たちを何だと思っているのか。神といえど万能でないことくらいはわかっている。しかし、ここまで道外れた存在でいいのか。薪は苦しく俯いた。


「さて。始めようか」


円盤の蛇が動きだす。それを見て薪は穂琥を頭に思い描く。最愛の妹が死への恐怖に打ち勝つその姿を。


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