第六十八話 異質の世界
ただの暗闇。目の前が何も見えない。今自分が本当に眼を開けているのかわからなくなるくらい。確認のため手で触ってみると大丈夫、目は開いている。
「あれ?ここは何処だろう・・・・?薪~?儒楠君~?」
穂琥は声を出して叫ぶ。しかし音が全く反響する気配もなく闇の向こうに声が吸い込まれているようだった。
がこん。
何かが外れるような音が聞こえた。穂琥は音のしたほうへ首を向ける。しかしやはりそこはただの暗闇。真っ暗くらの黒。穂琥はそっとそちらのほうへ足を進めようとした直後、脱兎の如く穂琥はその向かおうとした方向とは逆の方向へ駆け出した。
何かが外れた音だったのだ。きっとそうだ。ストッパーがあって。それが外れた音。だから今穂琥は走る羽目になっているのかもしれない。
後ろから追いかけてくる軍勢。それは人の形にあらず。眞匏祗の形にもあらず。そこあるのは腐敗した恐怖の存在。肉が腐り黄ばんだ骨さえも見える。中には肩が外れてだらりと下がったものもあるし目玉が支えきれずに零れ出ているものもいる。要は穂琥の後ろには。
「ゾンビーー!」
ただ穂琥は走り続ける。
追いかけるはゾンビ。この世のものではない唯一の生命体。ま、生命体と呼んでいいのか疑問だが。でも確か過去に綺邑がそんな事を言っていた気がした穂琥だった。魂があの世へ逝くことが出来ずに肉体に宿ったままになってしまった哀れな存在。一度死に、肉体より魂が離脱する。しかしその魂が何らかの理由を経て肉体に舞い戻ってしまったもの。しかし魂が戻ったからといてよいわけではなく、体は既に死んでいるので再生するわけも治癒するわけもない。ただひたすら体は腐敗していくだけ。そして身体に無理やりねじ込み入った魂が正常なわけもなく、理性の欠片もない、ただひたすら魂を欲する化け物へと成り下がる。
大方近年ではゾンビの存在は減っているらしい。なにぶん、火葬が多い。故に戻るにせよ、肉体がない。
以上、綺邑からの知識。穂琥はひたすら思い出す。ではそんな存在になってしまったゾンビたちは一体どうしたらよいのか。基本、感覚という全てが遮断されている彼らに身体への攻撃は無。むしろ砕かれた体はそれだけも動くために下手に手を出すと余計にいたい思いをするのはこちらだ。粉砕できればそれでいいのかもしれないけれど今、眞稀を練ろうとしても言うことを聞かずうまく練ることが出来ないでいる。
「あっ、そういえばこの土地?って眞稀がうまく使えないんだった・・・・!」
息を切らし始める穂琥はただひたすら逃げる。捕まれば殺されるのだから。