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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第六十六話 内なる心の惑い

 怒りを抑えて薪は再び駕南火に問う。何を目的としてこんなことをしているのかと。それを問われた駕南火はそれでも口を開こうとはしなかった。


「そうか。なら最後の質問だ。捕まえた人間たちはどうした?」

「・・・あれらはボクの目標を達成するために使っている道具だ」


この手の発言に一倍反応するのが後ろにいる。薪はため息をついてそっと振り返る。そうすれば単純な阿呆はふつふつと煮える怒りを沸きあがらせているのが見て取れた。その隣でもその様子を見ている幼馴染がいる。それと眼があって互いに肩を竦めた。


「冗談じゃないよ!同じ生き物だよ?そりゃ、人は眞匏祗なんかと比べたら力もないし弱いかもしれないけれど・・・それでも同じ生き物だよ・・・・?それを道具だなんて・・・」


穂琥の言葉に駕南火は冷たく言い放つ。人間など、使い捨ての道具だと。それを聞いた穂琥の答え。それがさらにひどく駕南火を揺らすこととなる。


「あなた・・・お父・・・。愨夸を・・・恨んでいるんでしょう?あなたは、その嫌いな・・・恨んだものと同じことをしてもいいの?」


自分以外を道具と吐き捨て不要になったらこの世から消し去る。無意味に無闇に。たくさんのものの命が捨てられた。それと全く同じことを駕南火はしてしまっている。人間であるという違いだけ。


「私は人間として過ごした期間がひどく長いから人間の心がたぶん近い。でも、そんな人間として育った私と、眞匏祗として一生懸命尽くしてきた薪と、それに沿い友達のためにと誠意を尽くしてきた儒楠君と・・・・。さして変わりなんてなかった!では、何がここまで人と眞匏祗をたがえてしまっているの?それは『力』による支配」


恐れと憎しみの入り混じる混沌の世界。それが作り出したのは二つの心。争う心と護る心。穂琥も、薪も、儒楠も。護る心を以って眞匏祗としてあった。前代愨夸、巧伎の有していたものは争う心。


「そして駕南火。あなたも、その争う心になっている。争いでは良いものなんて何も生まれない。でもそれを行っているあなたは結局、前愨夸と何も違ってはいない」


穂琥の言葉に圧倒された駕南火が返す言葉がないのは当然のことだろう。


「目的は何だ?何故ゲートを閉じる。しかも、地球へ来ることが出来ても戻る事が出来ないという不可思議な閉じ方。何故そんな事をした?」


穂琥の言葉で動揺する駕南火に薪が追い討ちをかけるように尋ねる。駕南火は悔しそうにその口を開く。


「仭狛を・・・破壊するため」

「何・・・?」


仭狛に存在する眞匏祗の数を少しでも減らし抵抗をなくす。そうして弱った星を打ち落とす。それが駕南火の求めていること。


 しかし。そんな事をして何になる。それこそ、罪も何もないものを滅ぼすこととなってしまう。それでは巧伎のしていたことよりも悲惨な末路を歩むこととなってしまう。


「全てが滅び無に帰すれば最早争いもない!」

「・・・言っても、無駄だというのか・・・!」

「何を今更・・・・。ボクが心変わりするとでも思っているの?」


駕南火の言葉に薪は否定を入れた。むしろ変わることを拒否した。それに一番驚いたのは駕南火かもしれない。


「お前、本当はやりたくないんだろう?本当はしたくない。しかしせざるを得ない何かがある。そんな状況に・・」

「黙れ!これはボクの意思だ!」

「何をそんなにムキになる?迷いがあるから、いや、そもそも迷い以前にそうだから・・・」


―もうよいわ


滞った空気を一気にかち割るようにずっしりと響いた女性の声。駕南火のことを不要だといい、消えるように命じた。駕南火はそれを聞いてひどくショックを受けた表情をしていた。現れた紅蓮の髪の女性。藤色の衣を羽織りしなやかな肢体を包んでいる。その腰には紅色の帯を巻き、前で白く光る輪が煌いている。


 一瞬だけ少女に見えるがそれの放つ雰囲気がそうではないと悟らせる。駕南火はひどく怯えている。そんな駕南火を見る紫色の瞳が何処までも深く心を揺さぶっているようだった。そしてその眼がきらりと光ったのを薪は見逃さなかった。素早く地面を蹴り、その女性と駕南火の間に割って入った。


 甲高い金属音が空に木霊した。


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