第六十一話 恋愛って?
困ったように笑う薪に対して偲葵はキレイな瞳を向ける。純粋とはきっとこのことだ。
しかしだ。薪は眞匏祗であるし、さらには愨夸だ。よって、人間との結婚は基本、認められていない。強い力を有した者の生誕を望むのが眞匏祗、愨夸の行く末。よって力を下げるだけの人間とはよほど力を落下させない自信がない限りは無理な話。いくら薪といえどそこまでの自信を持っているわけでもないし、何より。
―年下すぎるだろう・・・
薪はひとまずやんわりと断る。そうしていると寝ていた儒楠が起きてきた。
「どーしたぁ?騒がしいなぁ?」
「あ、儒楠兄様」
「お、偲葵ジャン。そしてそれ、止めよう。薪は薪、穂琥は穂琥・・」
「違うよ~。お姉ちゃんって呼ばれてます~!」
儒楠の言葉に穂琥が嬉し、楽しそうに答えた。儒楠は少しだけ驚いた顔をしたけど納得したように続けた。
「まぁ、その。穂琥はお姉ちゃんなんだ。じゃ、何でオレだけってね。むしろこの中じゃ薪が一番上なんだぞ?」
「う~む・・・」
儒楠の言葉に偲葵は唸り声を上げたが結局のところ、納得してくれたようだった。
「起こしたか?」
一応、儒楠に薪が尋ねる。それを儒楠は否定して先ほどまでの不可思議な空気について尋ねた。
「ん~、偲葵に婚約を頼まれた」
「・・・・・は?」
素っ頓狂な声を上げたので薪は当然断ったよと伝えるとそれ以前に、と儒楠が尋ねる。
「女の子、だったの?」
まさか儒楠までこんな反応とは。薪は頭を抱える。
「いやいや、そんなのわかるの、たぶんお前くらいだ」
薪を見て儒楠が手を振る。
「本当に薪ってば、何考えているかわからないし、やんなっちゃう!」
「そういうなよ。仲のいい兄妹でしょう」
「仲良くないもん!一方的にいじめられているだけだもん!」
はは、っと乾いた笑いを立てる薪に腹が立って飛び掛るが簡単に回避される。それを見て偲葵は不思議そうな顔をしている。
「ひどぉい!儒楠君!薪ってばひどくない!?」
「あー、はいはい」
儒楠は至極楽しそうに穂琥のなきつきに答える。それを見て偲葵はさらに首をかしげた。
「どうした?」
それを悟った薪が偲葵に尋ねると穂琥に薪と同じ様に人との結婚は出来ないのかと尋ねる。それに対して半端な是と答える。穂琥はあくまで愨夸の妹であって将来的に関係はあまりない。故にどんなものと一緒になろうが関係はないのだが、今の眞匏祗の世界で人間というものは異物以外の何者でもない。それだというのに愨夸の妹君が人間と、などと話が広まれば何かと面倒なことになりかねない。
「ふぅん。お姉ちゃんは儒楠がすきなの?」
穂琥が何かのダメージを受けて後ろに吹っ飛ぶ。それからしばらく何かに悶絶するかのごとく暴れていた。
「えと、偲葵?何でそういうことに至ったわけだい?」
「だって楽しそうだから」
いかにも子どもらしい可愛らしい発想。それを聞いて復活した穂琥が薪と同じくらい、儒楠も好きだよと伝えると偲葵はどこか嬉しそうに微笑んでいた。
「さて、偲葵。時間も遅い。そろそろ寝な」
「うん!」
偲葵を奥の寝室へと追いやると、穂琥に付き添うように指示する。穂琥はしばらく未練たらたらで文句を言っていたが一人にするのも可哀想だろうと薪が言うと納得したように奥へ入ってった。
「さてと」
薪は何かその場の空気を切り替えるように声を張った。そして儒楠を見る。儒楠はその眼に何か嫌なものを覚えた。
「邪魔払いは出来た。単刀直入に聞く。梨杏と何があった?」
「おう、随分と聞いてきたな」
儒楠は頭をかきながら答えた。何か引っ掛かることがあると薪が伝えると儒楠は少し曇った表情をして何かを言おうとした。その刹並。
穂琥の叫び声が聞こえた。素早く薪が立ち上がり、その後について儒楠が立ち上がる。薪は素早く奥の部屋を開けると震える穂琥がそこにいる。偲葵が直ぐ近くにいたので偲葵に何があったのかを尋ねると既に布団に入ってしまっていて何が何だかわからないと答えた。
眞匏祗が襲いに来たかと思ったがそれにしては眞稀が残っていない。穂琥がコワイを連呼しているので薪がそっと近寄って大丈夫だと言い聞かせる。それでもその言葉はまるで穂琥に届いていないようだった。
「穂琥?!」
儒楠が薪の肩越しに穂琥へ呼びかけるが反応がおかしい。
「無駄だな。これは術に落ちている」
「え!?どういうことだ!?」
薪の警戒した表情が儒楠を刺した。