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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第六十話 少年、少女

 部屋には二つのベッド。話し合った結果、儒楠と穂琥がそのベッドを使うことになった。それもあって儒楠はすぐにベッドにもぐりこんでしまった。


「あれ、穂琥が寝るときになったら起こして。薪の見張りするから」

「全力だな!?」

「了解です!」


儒楠がそのまま眠りの世界へと落ちる。


 それから直ぐに、部屋にノック音。穂琥が出ると偲葵がそこにいた。


「あ、あの・・・。こんな時間にすみません」


少し萎縮した様子で偲葵が俯いていた。穂琥は屈んで偲葵と同じ目線にして大丈夫だよと伝える。偲葵は少しおどおどした様子で穂琥をちらりと見た。


「あの・・・。父さんに頼んで、もし・・・。許可をもらえたら行っても良いって・・・その・・・」


言葉を濁す偲葵の気持ちを汲んで穂琥はすっと立ち上がって奥にいる薪へ偲葵が一緒に寝たいんだってと伝えると奥から是の答えが返って来たので偲葵にそれを伝える。すると偲葵はきらりと眼を輝かせた。穂琥は首を傾げる。あんな意地悪な暴君の何処がいいのだろう。そんな変な考えをしている穂琥を縫って偲葵は薪の元に一目散に走っていった。


「うわ」


後ろからいきなり飛びつかれて前につんのめった薪が漏らした声。それを聞いて偲葵が慌てて謝罪した。


「いや、構わないよ。ただ、親のところにはいないのか?」

「うん・・」

「薪といたいんだって」

「へ~?」


入り口から戻ってきた穂琥は薪にそう伝える。薪は首をかしげて曖昧な答えをする。


「ねぇ、偲葵は薪の何処がいいの?」


穂琥の質問に偲葵は少しだけ驚いたような表情をした。それから少し悩んで俯く。


「なんとなく・・・。なんだかとても落ち着けるから。お姉ちゃんは?」

「おね!?」


今までに聞いたことのない単語に驚いた声を上げたので偲葵のほうも驚いて穂琥、といいなおした。


「いいのよぉ~!お姉ちゃんって呼んでねぇ!!」


くねくねと嬉しそうに動く穂琥に流石に偲葵も驚いたようだった。


「お姉ちゃんはどうして薪と一緒にいるの?」

「ん~、そうだなぁ~・・・。ないわ。殴られるわ蹴られるわ叩かれるわ、いじめられるわ。いいことないなぁ~」

「え?じゃぁ、どうして一緒にいるの?」


偲葵のその質問に穂琥は少し悩んで薪を見た。それにふっとため息をつくと、薪は偲葵に言う。


「偲葵。オレらは少し特殊でね。なんとなくわかるだろう?だからあまり人に関係を公言してはいけないんだよ。ただ、偲葵がもし、誰にも言わないというのであれば教えても構わない」


薪のそう言った言葉に偲葵はひどく嬉しそうな顔をして頷いた。その言葉を得て薪は承諾の姿勢を見せる。


「わかった。オレと穂琥は兄妹だ。双子のね」


それを聞いて偲葵は驚いたような顔をした。確かに似ていない。見た目は無論、薪が容姿を今、変えてしまっているから似ていなくて当然だが、性格だって全く違う。最も、育ってきた環境が違いすぎるのと、血が繋がっているからといって性格が似るかといったら別段、そういうわけではないのだから。むしろ、血など繋がっていない薪と儒楠のほうが断然似ているわけだ。


「それにしても随分と信用してくれているね?いいの?」

「うん!」


偲葵は自信に満ちた声で答えた。薪はふっと息をつく。この子にもし、そう言ったことに対する判別力が格段に高くついているのなら問題はないが、少し優しくされただけでここまでなついてしまうようでは危険性もあるため薪はそれを危惧していた。


「でも少しは警戒しないと?子ども扱いはよくないだろうけどそれでもまだまだ小さいお嬢さんなんだから」

「「え!?」」


偲葵と穂琥の声が重なる。薪はそれになんだよ、と答える。穂琥が薪の口から発せられた妙な言葉に食いついた。


「え?お嬢さん・・・!?」

「え・・・?お前、女だよな?」


あまりの穂琥の対応に薪は自信でもなくしたのか偲葵に尋ねた。偲葵はひどく驚いた表情をした後、俯いて小さく頷いた。


「お、女・・・です」

「え?!嘘!?だって見た目だって男の子だし、『おれ』って言っているし・・・?!」

「つ、強くなりたくて・・・・!」


偲葵は少し困ったようにそう言った。今のこの村では確かに力が物を言いそうではある。見ず知らずの奴らに村のものを連れて行かれて弱いがためにそれを見ていることしか出来なくて。


 しかし。強さとは別に性別など関係ない。心で決まるものだ。薪はそう、偲葵に諭す。薪、儒楠、穂琥と並ぶと確かに女である穂琥が一番弱いかもしれない。しかしそれは確実に人選ミス、もとい眞匏祗選ミスであって穂琥は並大抵の男なんかに比べればはるかに強い。


「本当?じゃぁ、おれも別に男の真似とかしなくてもいいの?」

「もちろん。むしろその時点で心が負けているよ。強く持て、心をさ」


薪にそう言われて偲葵は少し恥ずかしそうに俯いた。


 女らしく、可愛らしく。そんなものとは全く無縁。それでも周りで色気づいている仲間を見るとどこか羨ましい気もした。美しい梨杏を見て羨ましい気もした。


「憧れに向かって頑張ればいいんだよ」

「本当?頑張ったらご褒美くれる?」

「そうだな、頑張れば」

「本当!?じゃぁ、薪のお嫁さんにしてくれる!?」

「え・・・?」


少しそれはずれているような。


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