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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第五十九話 個々の話し合い

 薪は駕南火について尋ねたところ、梨杏は首をかしげた。ただ、悪であるということだけでそれ以上の情報を得ることが出来なかった。仕方なく、この場は終息させて、梨杏より部屋をもらって今日はひとまず休むことにした。


 が。問題は部屋の数の問題上、二部屋しか空いていないということ。


「ま、常識的に考えてオレと儒楠、穂琥。それで異議ないな?」

「おう」

「いやぁぁ!!こんな知らない土地で一人で寝るなんて絶対いやぁ!そっちが二人で寝ているのに私だけ一人なんて絶対にいやぁ!!」


一祇、と内心で突っ込みながら薪はため息をついた。では、儒楠と穂琥で各々、部屋を使えばいいと薪が提案する。


「え?薪は?」

「オレは別件で用事がある。駕南火の情報が少なすぎるからな。それを少し調べる」

「よせ」


薪の言葉に儒楠が鋭く反応した。言った儒楠自身も一体それの根拠が何処にあるのかはわかっていないようだったがとにかく今夜は下手に動かないほうがいいと言う。しかし薪はそれに返事をしなかった。


「・・・ほう。オレの忠告はガン無視で抜ける気だな。よぉし、わかった。穂琥、部屋割りを決めた」


儒楠は薪を細い眼で睨んで穂琥へ言葉を投げかけた。しかし顔は相変わらず薪に向いたまま。


「オレと穂琥」


儒楠の言葉。それだけなら先ほど、薪の提案したのとほとんど変わりはない。ならば意味はない、と抗議しようとした薪の言葉を遮って儒楠はズバッと言葉を切る。


「薪の監視。いいかな?」

「はーい、異議なーし!」


手を挙げて完全肯定宣言の穂琥に対して薪はひどく呆れたような顔をした。


「おい、マジかよ・・・」


そんな薪の漏らした言葉も無視して儒楠は梨杏の所へ部屋割りの報告、つまり部屋は一部屋で大丈夫だということを伝えにその場を離れていった。その儒楠の背を見て穂琥は薪をちらりと盗み見てからボソッと言う。


「あの梨杏って人・・・私気に食わない・・・」


それに対して薪の反応はなかった。ただどこか一瞬だけ、ピリッとしたような気配を感じたような気がした。


「あ、悪口言うのまずかった?」

「何で?」

「いや、別に・・・」


穂琥は少し言葉に詰まる。薪の心は一体どうなっているのだろうか。もしかしたら本当にあの梨杏という女性に惚れてしまったのだろうか。果たしてこの薪が一目ぼれなどといった類の感情を抱くのだろうか。


「薪は・・・惚れたの?」


そっと聞いた疑問に回答はない。疑問に思って再び呼びかけるとはっとしたような表情で穂琥を見た。


「ん?なんか言った?ゴメン、聞いていなかった。もう一回言って」

「・・・だぁかぁらぁ。もう・・・。梨杏って人、惚れたの?」

「誰が?」


本当に、こういったことに関すると鈍感な薪。話をするのが少し面倒にすら感じる。


「あんたが」

「オレが?そんなわけないだろう。バカジャン?」


ひどくそれもかなり深く、馬鹿にしたような表情で言われたので穂琥はかなりむっとした。どうせ、一目ぼれでもしてそれを必死になって誤魔化そうとでもしているのかと豪語する穂琥。そして今度面倒になったのは薪のほう。余計な発言と余計な態度で穂琥を相手取るのがひどく億劫になった。


「何さ!どうせ梨杏のこと考えているんでしょう?!」

「そうだな」

「あれ、そこは否定しないのか!」


薪がひどく面倒くさそうな顔で穂琥を見る。穂琥は薪に噛み付く。


 一方の儒楠のほうは梨杏に部屋が一つ余ったということの報告を済ませて部屋を出ようとした。そのとき、梨杏が儒楠を呼び止めた。


「あの、わたくし。実は・・・駕南火について知っていることがあるのです」

「え?じゃぁ何故あの時言わなかった?」

「この情報、とても機密性の高いもので。そう簡単にはお教えできないのです・・・」


なるほど、本当に信用の出来るものにしか教えることが出来ないということだ。だから見ず知らずのものに問われたところで答えることなど出来るわけもない。それは理解した。梨杏は続ける。


「お教えしても構わないのです・・・。ただ、儒楠様。お願いがございます」

「願い?」


梨杏はそっと儒楠のほうに近づいた。


 鬱陶しい。薪は先ほどから儒楠の帰りを切に願っていた。ひたすら目の前の妹がウザイ。


「吐け!吐けば楽になるぞ!」

「だから、そんなのじゃないって言っているだろう!」

「いいじゃないか!吐け!今の私は『面倒』で折れないぞ!」

「よし!穂琥!トイレにでも行ってそのくだらない思考を吐いて来い!」

「私じゃないって!吐くのアンタだって!」


薪はひどく面倒だが、この鬱陶しい穂琥を相手にするよりも今、抱いているものを説明するほうがはるかに面倒なことを知っている。故にこの状況を耐えているわけだが。さすがに耐えるに耐え難い状況になってきたために仕方なく。薪は穂琥に言う。


「よし。聞きなおしをしないということ前提であるのなら教えてやっても構わない」

「え!?本当?聞く聞く」


 儒楠は梨杏から申しだされた『願い』を全力で否定していた。


「そんな事、絶対に出来ない」

「駕南火の情報は・・・よろしいのですか?」

「いらない。そんな事をしてまで得ようとは思わない。こっちには優秀な奴がそろっているからね。梨杏程度で得られた情報ならこっちも得られる」


儒楠のその言い切った言葉に梨杏はひどく落ち込んだ表情を見せた。立ち去る儒楠を梨杏は呼び止めたが儒楠は無言のままその部屋を出て行ってしまった。


 もう一回、と叫ぶ穂琥。


「同じ言葉でいいからもう一回だけ言って!」

「一度だけ、聞きなおしなしって約束だろう」

「むぐぐ・・・・」


先ほど、薪に言ってもらった言葉があまりにも難しすぎて全く理解できなかったので苦情を述べたところ薪はつんとした表情でスルーする。要するに、説明するのが果てしなく面倒だと感じた薪はわざと穂琥には理解しづらい言葉で言った。


「何を騒いでいるのさ」


やっと帰ってきた儒楠が呆れたように笑いながら部屋に入ってきた。


「遅いんだよ!一体連絡に何時間かける気だ?」

「・・・・悪い」

「?」


儒楠の返答に違和感を覚えた薪だが、それを問う前に穂琥が儒楠へ言葉を投げかけたのでそれがうやむやになってしまった。


 穂琥は先ほどの薪の暴君ぶりを儒楠へ訴える。不貞腐れている穂琥を見て儒楠が小さく笑った。


「何・・・?」

「いや、落ち着くなぁって思っただけ」


心底幸せそうな笑みを浮かべた儒楠に今度こそ違和感を尋ねる薪。しかし儒楠はそれに答えようとしない。言いたくないなら仕方ないと薪はその質問をなかったことにする。


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