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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第五十八話 人間の潜む場所

 腹部を刺されてから和みと安堵感を抱いた雰囲気を醸し出していたので刺されたことも悪くはなかったと思っていた矢先に、駕南火の名前を出した直後また雰囲気をがらりと変えたのでまずかったと思った。


「な、な・・・や、やっぱりアイツラの仲間なのか!?こっちに来るな!」


急に変貌して偲葵は頭を振って拒否の姿勢をとる。


「仲間?知るか、そんなもの。むしろおそらくオレ達の敵は『それ』だ」

「え・・・?敵・・・?」


薪は深く頷く。詳しいことまでは話すことができないけれど、とにかく仭狛へ繋がるゲートが閉じ、行き来できない。そのことを簡潔に伝える。そして駕南火であるなら、その入り口を開けることが出来ると偲葵に伝える。


「じゃぁ・・・おれたちの味方?」

「さぁ?でも傷つけるような真似はしないよ。最も?そちらが敵意を向けてくれば別だけどね」


薪がにこやかに笑う。


 偲葵としては先ほど確実に敵意を向けて腹部への攻撃をした。しかし、傷つけるような真似はしてこなかった。


「どうして・・・?」


偲葵は震える声で薪に尋ねる。すると薪はにこやかに笑って見せた。


「違うだろう。キミは・・・偲葵は別にオレに敵意を向けたわけじゃない。恐怖のあまり、やったことだ。気にすることじゃないよ」


薪は偲葵の頭を撫でる。偲葵は大人しく撫でられているところを見ると先ほどの警戒は少し下がってきたと見える。


「でも・・・。やっぱり・・・無理だよ。おれが言えた義理じゃないけどあんた達だって断然子どもじゃん・・・。駕南火は大人だもん。戦えるような相手じゃないし・・・」

「残念だけど、オレたちは年齢なんて関係ない。要は強いか弱いかだけだ。それにオレが今まで相手にしてきたのはみんな大人だったしね」


大人?子ども?そんな事は関係ない。くだらないと吐き捨てるようなものであるなら大人であろうと制裁を下す。逆にどんなに子どもであろうが、認めた、敬意を払うべきだと思った相手にならいくらでも敬意を払い、それに順ずる。それが、自分の子であっても、親であったとしても。それが薪のココロ。


 偲葵は少し悩んだ後に、信じていいのかを尋ねる。もし、信じてもいいと言うのなら隠れ家まで案内すると。


「はん。言ってくれるね。そんな事、偲葵が自分で決めろ。相手に決めさせて後から文句を言われたんじゃいい迷惑だよ」

「あ・・・ごめん・・・」

「別に、謝ることじゃないけどさ」


薪は再び偲葵の頭に手を当てる。偲葵は少しくすぐったそうに笑った。初めて見たその笑みは無垢な子どもそのものだった。


 意を決したように偲葵はついてくるようにという。薪の腕を引っ張って隠れていた家からそっと出て隠れ家に向かおうとする。外に出ると美しく月明かりが煌いていた。そのとき、残りの二人の顔も目視できた。その直後。偲葵ははっとしたように声を発した。


「儒楠兄様!?」


予想外の名前が飛び出て驚く。しかしまぁ、驚いたのは儒楠も含まれていたために薪はため息をついて儒楠を睨むと、何が何だかわからないといった風の笑顔で固まっていた。


「いや・・・お写真でしか見たことありませんが・・・・。村では有名です」


急に敬語を使い始めた偲葵の様子から察するに一体儒楠は以前ここに来たときに何をしたのやら。薪がそんな眼で見ると儒楠は困ったように笑っていた。


「では、このお二人は儒楠兄様のお連れですか?」

「え~っと・・・いや、違うなぁ~」

「「え?」」


何故か二人分の声。それに反応して頭をはたいたのは薪。それによる反動で声が漏れたのは穂琥。


「いった・・・!ひどい!」

「お前はバカか!いや、バカだ!」

「ひどい!!!」


唐突に始まった兄妹喧嘩に儒楠はほとほと呆れる。


「え・・・と。違う、のですか?」


偲葵が不安そうな声で尋ねる。儒楠はにこやかに笑って穂琥を指した。


「あのコ、穂琥って言うんだけど。穂琥とオレが薪の連れ」


儒楠の説明に偲葵は眼を丸くした。それから薪を一度見てから儒楠に顔を戻してはっきりとした声で言い切る。


「では、あの人が一番偉いんですね!?」

「おいおい。連れているからって一番えらいって言うわけじゃないぞ。現に実際今からだってオレ達は偲葵に連れられるんだぞ?偲葵が一番偉いのか?」

「いや・・・」


薪の横槍に困ったように偲葵が俯いた。しかし、今回のこのチーム編成では実際にそうだよなとチャカすように儒楠が言う。


「なんだよ。オレが一番偉いってどういう・・・」

「ほぉ?貴方様は御自分の御身分を最早お忘れになられた訳では御座いませんでしょうか?」

「う・・・」


儒楠のわざとらしい言葉に薪はぐっと詰まる。実際そうだ。薪は愨夸。ここにいるのは眞匏祗。ならば一番偉いのは愨夸である薪で間違いはない。


「じゃぁ・・・薪、という方が・・・」

「かったくるしい!」

「え?!」


突然薪が大きな声でそう言ったので偲葵は驚いて肩を震わせた。


「お前、子どもだろう。いや、確かに子ども扱いは良くないな・・・。でも、いや、それ関係なくても、その重い、堅苦しい言い方は止めろ。オレたちは別に偲葵たちにとってはそんなに偉い存在ではないのだから」


薪の言ったことに偲葵は呆然と耳を傾けていた。それからはっとして辺りを見回して怯えたような眼をした。


「しまった!早く行かないと!『奴ら』に見つかったら大変なことになってしまう!早くこっちへ!」

「うわ!?」


偲葵は薪の腕を掴むと勢いよく走り出した。予想外の偲葵の行動に薪は驚きはしたがどこかほっとした気もあった。ずっと警戒をしていたこの子がどうやら自分たちを信用してくれたようだったから。


 一方の偲葵のほうは勢いで薪の腕を引っ張ってしまっているのでもし、彼が怒気を見せてしまったらどうしようかと不安になったがそんな様子、微塵もなかったので安心していた。


 偲葵に連れられている間に先ほど出来た傷を修復に掛かる。無論、偲葵にはばれないように治す必要があるのだが、なにぶんここは孜々緒。眞稀の扱いがひどく不安定でやりにくい。よって穂琥に任せるのは不安がありすぎるため仕方なく薪は自分でその傷を癒す。人間如きが造った刃物では眞匏祗の身体を完全に痛めつけることは出来ない。故に薪の力でも案外簡単に治すことは出来る。


 しばらく走っていくと岩場の続く坂道に出る。そしてその途中で偲葵が止まった。数多くある岩場の中からひとつの岩を選択して偲葵はぐいと押しやる。するとそこがゴゴっと音を立てて地下へと繋がる階段をあらわした。その細工に薪はほう、と小さく感嘆の声を上げていた。


 中に入ると意外に広い場所があり、いくつもの扉が存在していた。中の様子を観察している間も薪は少し気になることが。


―無意識かな・・・?掴んでいる腕を離してくれないのだが・・・


ちらりと偲葵を見ても偲葵はそれに気づかず奥へと案内していく。まぁ、支障があるわけではないからそのままにしておくかと薪は決める。


 偲葵に連れられて奥の扉を潜る。その扉の奥にいた者はひどく驚いた顔をしてから薪達の隣にいる偲葵を眼にしてその表情を元に戻した。


「偲葵!?このかたがたは・・・?」


中に居た男が声を上げた。偲葵が自分を救ってくれた人だと説明をした。


「えっと、儒楠兄様と・・・穂琥、様?」

「やだぁ!様なんていらないよぉ!」

穂琥はぶんぶん手を振って偲葵に笑いかける。それに少し照れたように笑いながら偲葵は再び紹介をする。


「えと、穂琥・・・と。あ、あと・・・薪・・・!」


先ほどのかたっくるしいと言った脅しが効いてか、偲葵は薪については迷いながらも呼び捨てで名を挙げた。それから嬉しそうな声で部屋にいた男に言う。


「ねぇ、父さん!儒楠兄様だよ!」

「あ、オレも呼び捨・・」

「やはりか!?儒楠様だったか!」


儒楠の修正の言葉を遮って偲葵が父と呼んだ男は声を上げた。しかし、当の儒楠としては何故、こんな扱いを受けているのか不明の様で薪もその様子を見て本当にこの村に来たのか少しの疑問を感じざるを得なかった。


 静かに、と美声(穂琥としては綺邑や簾乃神といった至って人間離れした美声を聞いているためにそこまでとは思わなかったが)がなった。


「お久しぶりです、儒楠様」


その声の主が扉を開けて中に入ってくる。


「御覚えでしょうか?わたくし、梨杏りあんです」

「梨杏!?」


自己紹介をした女性に儒楠が驚いた声を上げた。以前、この村に来たときに世話になった人らしい。


「ふ~ん・・・」


薪にしては随分と珍しい間延びした答え。その反応に違和感を覚えた儒楠と穂琥は互いに顔を見合わせて一瞬だけにやりと笑ってからそれを全力で否定し合う。


―どう?一目ぼれでもした?

―いや、薪に限ってそれは有り得ないだろう・・・


そんなあほな考えを他所に梨杏が話を進める。


「儒楠様。この時期に来て頂けたこと、本当に感謝いたします。神の思し召しでしょうか・・・」


梨杏がさぞ嬉しそうにそう言った。いや、確かに神の思し召し、について否定するつもりはあまりないけれども。


「梨杏様・・・」


偲葵が静かな声で梨杏へ呼びかける。梨杏はそれに答えて首を傾げる。偲葵は勝手にここの場所を離れ、あの危険な村へと足を踏み入れたことを謝罪した。梨杏は深い愛情を持った母のようなそんな表情で笑いかけてそのことに首を振った。


「あなたが無事に帰ってこられただけで結構です。しかし、次はこのようなこと、しないでくださいね?」

「はい・・・」


もじもじとしている偲葵に薪はどうしたものか考えた後、仕方なく言うことにする。


「偲葵、申し訳ないが手を離してもらえると動きやすくていいのだけれど・・・」

「え?!あ、ごめんなさい!」


ずっと掴みっぱなしだった薪の腕をぱっと離して俯いた偲葵に穂琥はにやりと笑いながら腰を落として話しかける。


「あら?頼りになるお兄ちゃんが出来たと思ったのぉ?でも、駄目だよぉ~、薪は私の・・」

「黙れ、ドあほ」

「いで!」


薪の鉄拳が落ち、穂琥は鎮圧される。その様子を眼を丸くしてみる三人。それを苦笑いで頬を引きつらせて儒楠は見るのだった。


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