第五十四話 旅立ちの準備
それから二日。薪は部屋から出てこない。穂琥は李湖南との出来事を詳しく出来るだけ正確に儒楠へ伝えた。儒楠は低く唸るように納得していた。
やっと部屋から出てきた薪はまだ完全に覚醒している様子はなく、ぼうっとしていて何を話しても「おー」の一言しかないため、しばらくそうっとしておくことにした。ぼうっとしている時間、およそ三時間。やっと薪が覚醒した。
「いや~。ゆっくり休んだわぁ~。リセットした感じだわ。何もかも忘れた気分」
「「いや、忘れちゃ駄目だからね!」」
穂琥と儒楠が同じ事を同じタイミングで叫んだ。
「わかってるって」
薪が軽く答える。まぁ、相手が薪であるから不安になることはないけれど。どこかこの抜けている感じは一体何なのだろう。
「それで?もう良いのか?」
「おう。後は準備だ」
「わかった」
薪はふっと替装する。その姿を見て穂琥は目を丸くした。髪型とか目つきとか。色々変わってまるで別人のように変化した。
「これからいくところは儒楠が一度行った場所だからな。顔が似ているような面倒な事はなくす」
薪はそう言ってふらふらと手を振っている。
それから色々旅の準備。眞稀が使えない以上、色々と準備するものが必要だった。そうして準備が整うと、薪はふっと雰囲気を変えた。
「さて。行くぞ」
「あいさ!」
「了解」
薪の掛け声に呼応する。そうして移動術で目的の場所へと移動するのだった。
降り立った場所は果てしなく続く荒原。砂漠化した地面。地獄のように暑い乾燥地帯。そして何が最悪かといえば。
「結界?それのせいで移動術が使えるのはここまで。てなわけでここからは・・・徒歩で~す」
間の抜けた薪の言葉にがっくりと肩を落とす穂琥。このクソ暑い中をひたすら徒歩で進んでいくしかないというのか。この先が思いやられる・・・。