第五十三話 見抜いた眼と感覚
ひとまず。疲れたの一言を残して薪は自室へ行ってしまった。おそらく休息を取るのだろう。なら、儒楠はともかく穂琥のほうも英気を養わなければとどっかりとソファに腰を下ろしたとき、インターフォンがなった。
「げ・・・。ここ、薪の家だから私でないほうがいいんだよなぁ~・・・」
「じゃぁ、オレが出るよ。どうせ顔は一緒だから」
「え・・・・なんだかごめん・・・」
「いいって」
儒楠はにこやかに笑って玄関へ向った。
「はい?」
玄関を開けると、見知らぬ少女がいる。いや、知らなくて当然なのだが。
「あ!薪君!?久しぶりだね!私、真央!覚えている?」
「え~っと・・・まぁ~」
曖昧な返答したが真央と名乗った少女は別段気にしている様子はなかった。真央は嬉しそうに微笑んでいる。こういった面倒な人間を薪はいつも相手にしていると考えると同情というか、薪の力量が凄いというか。
「なんだか、薪君が帰ってきたって噂を聞いてね!会いに来たの!」
「いや、それは・・・どうも」
知らねぇよ。儒楠は内心思いながらもとにかくこの少女を追いやりたいと考えていたところに違う声が耳に入る。
「あれ?真央?何でこんな所にいるんだよ。 あ、薪!おっす」
「おう」
籐下隼人。それの登場に真央は随分と不機嫌そうな顔をした。
「何やってんの、お前」
「うっさい!アンタには関係ないでしょ!?」
「何だよ。ここは薪の家だぞ?オレ、友達だもん。遊びに来ただけだし」
「うざい!」
「はぁ?」
目の前で繰り広げられる言い争いに玄関を閉めても良いだろうかという感覚に陥る儒楠。そうこう考えている間にも籐下が何とか真央を言いくるめて帰宅させることに成功していた。
「苦労するなぁ~?」
「まぁね・・・」
真央が帰った後、腰に手を当てて籐下が言ってきたので儒楠も適当に答える。しかしその様子を籐下は凝視するように見る。
「何?」
「・・・真央のこと、知らないだろう?」
「は?クラスメイトだろ」
「・・・・・いや、知らないだろう」
籐下の言ってきた言葉の意味を理解できずに儒楠は眉間に力を入れる。籐下はふっと小さく笑って真央が帰って言ったほうを見詰めた。
「お前さん、薪じゃないよな?儒楠、だよな?」
「・・・・・へぇ?わかるんだ?」
「勘だけどね」
儒楠の回答ににこりと笑って返す籐下。
「・・・そうか。薪がアンタを認めた理由がわかった気がする」
「そう?」
そうこう話をしていると奥から穂琥が出てきた。
「あれ?籐下君!遅いから何をしているのかと思った」
「バレた」
「え?!嘘・・・!?」
「ホント」
にこやかに笑う儒楠と籐下を見比べて驚いた表情のまま頷いた。穂琥ですら、フリをされたら区別が付かないというのにその凄さに感嘆する。
「でも凄いな。眞匏祗でも気づかないのに」
「そうか?」
「儒楠君。さらりと私のこと言った・・・?」
「被害妄想だな。役夸やら長夸やらだって騙したことあるぞ。そう言うって事は自覚しているんだな」
「ひどい!儒楠君、なんだか薪に似てきたぞ!」
穂琥の不貞腐れた声に儒楠は乾いた笑い声を立てた。
「逆に薪も儒楠に似ているんじゃないかな?」
「え?」
「はい?」
籐下の言葉に穂琥と儒楠が声を重ねる。余り会って話をしたわけではないからなんとも言いがたいところもあるけれど。薪も最初に会ったときに比べると随分と丸みを帯びてきている。それはきっと儒楠の影響があるのではないかと籐下は語った。それを感覚だと笑う。
「すごいなぁ~。私眞匏祗なのに駄目だし・・・」
「ん、否定できない事実だな」
「そういうところが似てるって言うの!!」
儒楠の言葉に穂琥が怒鳴る。それを笑ってみる籐下。笑わないの、と怒鳴っていると儒楠まで笑い出してぶーぶー文句を言っていると、頭上で窓が開く音がしたので見上げると薪が窓を開けていた。
「うるせぇ!!」
薪の怒気に穂琥、儒楠、籐下は静かに声をそろえて言うのだった。
「ご、ごめんなさいぃ・・・・・・」