第五十二話 新たな目的
神とは本当によくわからない存在だ。アレほどまでに貶し、嘲っていたというのに簡単に望んでいることを伝えて消えてしまった。本当に神は気分屋だ。
「見込みがありそうよのう?ぬし」
簾乃神は面白そうに穂琥を眺めている。
「え?」
「如何に相手が神でも畏れぬその度量、流石」
「え・・・・!?あ・・・いや・・・・!」
確実に動揺する穂琥をのどを鳴らして笑う簾乃神は本当に美しい笑みを浮かべていた。普通なら簡単に虜にされてしまいそうなほどに。
「まさかあの摂貴の奴に口答えする者がいようとはなぁ」
「いや・・・ただ単に世間知らずなだけです・・・」
「確かに・・・」
薪の言葉に儒楠がかぶせる。確実に二人とも狼狽している。
「ん・・・?」
簾乃神が急に声を発したので皆びくっと驚く。しばらく何かを聞いているような様子だったのでそれを見守った。そして聞き終わったらしい簾乃神が目を煌かせる。
「伝言だ」
簾乃神が伝ったのは摂貴神からの伝言。
―この先にある死の恐怖に勝てるかな?
それだけを伝えると簾乃神も姿を消した。それにより完全に身体が開放された薪と儒楠は地面に手を突き荒れた呼吸をする。圧迫されたような場所に長いこといたせいで身体の節々がみしみし言っていそうだった。
「ったく・・・。今回はよかったけど・・・。次は気をつけろよ・・・。摂貴神は未来を見通す神と言われているが『怒り』の神でもあるんだから・・・」
「え・・・!?そうなの!?全然怒っているように見えなかったけど!?」
「これだから単純バカは・・・」
「なにを?!」
憤慨したように穂琥が薪へ掴みかかろうとしたが儒楠が薪の意見に同意してきたので流石に穂琥も急停止する。
「本当だよ、穂琥。あの時、簾乃神が止めてくださったからよかったのかもしれないけれど・・・」
儒楠の困ったような顔を見て穂琥は俯いてしまった。
「まぁ、いいよ」
薪がそう言って立ち上がった。少しだけ休憩をしてから先ほど摂貴神が教えてくれた孜々緒という場所へ行くことにした。
「それさ・・・オレが地球に行ったときに世話?になった場所だと思うんだけど?」
「あ?本当か?そら楽・・」
「いや、むしろきついぞ・・・」
「え?」
儒楠の苦い顔が少し不安を煽った。
「あそこで眞稀、ほとんど使えないぞ?」
「・・・・・・は?」
「・・・・・・え?」
薪と穂琥の声が被さる。儒楠の表情は重い。
孜々緒という場所は随分とここから離れた乾燥地帯に存在する小さな町。そこには理解も出来ない摩訶不思議な『結界』が存在している。その中に入ると眞稀を練ることがひどく困難になる。出来ないわけではないが。以前、儒楠が地球へ迷い込んだときも、その結果いのせいで随分と苦労したらしい。
とにかく。その場へ行くことが今出来た目的。わかれば善は急げ。さっさと行動を開始なくては。手遅れになる前に。