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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第五十話 それぞれの想い

 薪が帰ってくるまでの間、穂琥はずっとつまらない考えをめぐらせていた。先ほど儒楠が『妄想』といった類のものだ。薪が見合いをする姿を想像して吹き出しそうになる。そしてさらには薪と誰かが付き合うこととなるとなればそれはさらに吹き出そうになる。それを考えている穂琥とは裏腹に儒楠は静かに考えを巡らせている。しかし、儒楠としてはそんな想い、さっさと消し去ってしまいたかった。そんな考えをしている間に薪が戻ってきた。


「おう。どうだった?」

「向こうからだと通常通り、何の変化もないってさ」

「なんだ、それ・・・。本当にどうなってしまったんだか」


原因がさっぱりわからない。


「ねぇ、そういうことって神様に聞いたらわかるもの?」


穂琥の安易な発言に薪と儒楠は眼を丸くした。その表情のそっくりなこと。どちらかに鏡がおいてあるのではないかと思うくらい同じ表情をしていた。きっと、心を持った生き物は心底驚くとみんな性格とか取っ払って同じ表情をするのだろう。


「あのね・・・穂琥ちゃんね・・・。その・・・。オレが言えた義理ではないことぐらい百も承知だがね・・・・。『神』という存在はそんな軽く扱えるような存在じゃないのよ・・・?」


困ったように頭を抱えてそういう薪に首を傾げる穂琥。


 本来、神というものは我々が崇め奉るべき存在。そしてその神々の手の上でいきとしいけるものは転がり続けるのが定め。無論、その神とて万能であるわけではないのだけれども。


「そ、そうか・・・。ごめん・・・。でもどうして薪が言えた義理じゃないの?」

「オレだって軽々と神の力を使っているからなぁ~・・・」

「え?」


薪が曖昧な答えをよこす。それが理解できなくて首を傾げたが薪は頭を抱えるだけで答えてくれない。その代わりに儒楠が回答をくれた。


「神の末端に座するもの、つまり死神だよ。あれだって神の一部さ」

「あ~、なるほど・・・」


そしてその死神の力をただ単に寂しいからという理由で軽々使った自分を恥じる穂琥だった。


 そうして沈んだ空気の中、ふっとその空気を割る美声が鳴り渡る。その声を耳にした瞬間、薪と儒楠はぐっと背筋を伸ばして目を見張った。穂琥はぐっと背中を丸めて身構える。苛烈な神気が目の前に降り立つ。


「くくく・・・。面白い。実に面白い」


現れた美しき神。紅蓮の衣を翻し強く煌くあかの瞳を携えて簾堵乃槽耀の神が顕現する。


「え・・・?!す、すとの・・・しょうよう・・・の、か・・み・・・!?」


驚いたのは儒楠。まさか、この一生で神を眼にすることがあるとは想像もしていなかったことだった。薪のほうは背筋こそピンと伸びているがかなり萎縮している。果たしてこの神の降臨を二度も許したのは一体誰の力か。


「ほう?見慣れぬ顔だな。誰だ?」


簾乃神の言葉に儒楠は一瞬面を食らった顔をした。理由は簡単だ。この生きてきた中で儒楠の顔を見て『愨夸だ』といわれなかったことはない。薪と全く同じその顔に嫌味はなくとも苦労はしてきたのだから。


「オレの、朋です」

「ほう?なるほど」


簾乃神は不思議な眼で儒楠を見据えた。それから艶やかなその唇をそっと動かして笑う。


「テイア、の餓鬼かな?」

「・・・そのとおりです・・・」


儒楠の回答に簾乃神はほう、と言葉を付いた。


「何が・・・仰りたいのでしょう?」


薪が簾乃神へ意を決したように尋ねる。すると簾乃神の口からとんでもない言葉が飛び出した。


「ぬし、己だけ生き残ったことを悔いているのか?己だけを残したそこの愨夸を恨んでいるのか?」

「何を・・・!?」


儒楠は酷く驚いた顔で簾乃神を見詰めた。簾乃神の眼は何もかもを見透かしてしまいそうなそれに儒楠は軽く尻込みをした。


「か、感謝している・・・・。それを心から外した事は一度もない。それに恨みなど一切持ち合わせてはいません」

「そうか。ならその抱く禍々しい感情は何だ?」


簾乃神が言葉を発する。それが儒楠の心を揺さぶる。穂琥が簾乃神の横暴な質問に喰らい付こうとしたのを薪が止める。


 目の前に腰を下ろしている神が発したその言葉の真意。それを儒楠は無論わかっている。先ほど自分の胸からかき消したかった想い。それを見透かされたのだから。


「まぁよいわ」


簾乃神は切り上げるように言葉を発する。


「して、ぬしよ。力を貸してほしいと?」


薪はその言葉に息を詰まらせる。耳の奥、腹のそこにまで響き渡るその美しい声は何もかもを掻っ攫ってしまいそうな強さを持っている。儒楠のことも気になるが、それを今追及する事は出来ない。故に神の意のままに流されるしかない。


「道が・・・・閉ざされてしまい・・・成す術もなく。さらには目的である痲臨すら見つけることが出来ませぬ」


薪の言葉に簾乃神はほうと、頷いた。それから薪、儒楠、穂琥と一瞥してふっと瞳を伏せた。


「我の専門外だな。その類はわからん。故に適切な者をここへ呼ぼう」


簾乃神が呼ぶといったのは当然『神』。そしてその神の名は。


―摂痲涼貴、摂貴神・・・。


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