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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第四十七話 訪問ついでの遊び

 学校の帰り道。獅場と籐下が笑いながら帰宅していた。


「てかなんでだぁ?何で薪と穂琥ちゃん、あんなに仲良い訳?最初全然会話すらしていなかったのに」


獅場が口を尖らせながら文句を言っていた。おまけに穂琥だけではなくほかにもう一人いたわけで。


「あのキレーな人も結局は薪の知り合いなわけだろう?アレ、誰だし」

「知るかよ。欲がないから寄ってくるんじゃないのぉ?」

「え~」


籐下の言葉に獅場は文句たっぷりで言葉を返す。そうして歩いていると目の前を薪が通過していくのを発見。


「お、噂をすればなんとやら。おーい!薪!」


獅場が目の前を歩く薪に激突する。


「うわっ」


その勢いで薪が前のめりになる。


「お?今日は一人か?珍しいなぁ~」

「は?」


獅場の言葉に薪はあやふやな言葉を返す。それが気になった籐下は獅場と同じ様に尋ねる。


「穂琥ちゃんは?いつも一緒にいるじゃん?」


それに他の眞匏祗との接触を避ける意味も含めて穂琥は絶えず傍に置いておきたい様なことを言っていたような気がしたのは気のせいか。


「あ~・・・色々あってねぇ」


遠い眼をする薪に何か不信感を覚える籐下。穂琥に何かあったのだろうか。そうこう考えているあだに獅場が何とか薪の家へ突入する方法を模索しているようで薪もそれに面倒くさそうに対応していた。しかしどこか歯切れが悪い。何か面倒に巻き込まれているのだろうか。


「あ!?」


突然聞こえたその声に皆が振り向く。そこにはあからさま、やってしまった感のある穂琥が突っ立っていた。


「勝手に出歩くなって」


薪が穂琥に言う。その言葉に完全に萎れた穂琥は俯いてとぼとぼと薪の脇に収まる。それを見て籐下はどこか納得する。穂琥はどうやら勝手に家を抜け出してしまってそれを薪が探している状態だったのだろう。


「さて、じゃぁ・・・まぁ。帰ります・・っとわっ?!」


薪が突然前に転び、地面に手を突く。その予想外の行為にみんなが眼を丸くした。


「いって・・・まじかよ・・・。とび蹴りってなくね・・・?」


腰を抑えながら薪が立ち上がったが、むしろそれよりもその場にいるものは今現れて目の前の薪を蹴飛ばしたほうに気が取られている。


「お前な。勝手にくるのは構わないがここら辺はオレのテリトリーだ。その状態で歩き回るな、面倒だ」

「す、すいません・・・。少し遊びが・・・」

「ほう?遊びとな?ふざけたことを言うのも大概にしろよ?」

「すす、すいません!!」


二人のやり取りを見て呆然とする籐下と獅場。だって目の前に薪が二人いるのだから。ただ、最初に会った薪はへらへらとしていて後から登場した薪は酷く憤慨の様子。むしろこっちが本物の薪だと言い切れるくらい表情が怖い。怒っている。


「え・・・あの・・何で薪が・・・二人?」


獅場の混乱した声が後から来たほう、つまり怒りを見せているほうにため息をつかせた。


「面倒なんだけど・・・・」

「わるい・・・。本当にごめんなさい・・・ほんと、ちょっとした出来心なんだ・・・」


完全に沈んだ薪と呆れている薪。一体この二人は・・・。


「え?もしかして儒楠君!?」


穂琥の声に呼応するように沈んでいた薪が手を上げる。


「はい、そうです。なんか久しぶりな気分・・・」


苦笑いして儒楠がそう答えた。穂琥は納得できたがきっと籐下と獅場は理解できていないはず。さて、どうするか。


「あ、そうだ」

「え?」


薪がさっと穂琥の前に移動すると穂琥の頭に手を振り下ろす。それの痛いこと、穂琥が思わずしゃがみこんだ。


「いったぁ!!!」

「勝手に外に出るなっていってあったはずだけど?」

「ごめんんさぃい!」


明らか不貞腐れた子どもみたいなその謝罪の仕方にさすがに獅場も籐下も固まる。それを見て儒楠はへへっと笑う。


「帰るぞ。家に帰ったら覚悟してろ」

「う・・・は、はい・・・」


薪の脅しに屈して穂琥はとぼとぼと帰路に着く。


「じゃぁ、オレら帰るわ。おら、儒楠。お前もだよ」

「はい・・・・。オレもお叱りきっと一緒に受けるよね・・・」

「当たり前だな」

「はい・・・・」


落ち込んだ穂琥と儒楠を引き連れて薪はさっさと歩いていく。


 そんな三人の背を見ながら一体どういったらあんなふうになるのか疑問の籐下と獅場だった。


「何、あれ・・・。そしてあの・・・じゅなん?って誰・・・」

「さぁ・・・。知らない・・・」


答えられるわけもなく。仕方なく獅場と籐下は帰る事にして別れる。


 籐下はふっと足を止めて薪たちが消えていったほうに眼をやった。そしてやはり色々気になることがあるのでそちらに足を運んだ。


 何度インターフォンを押しても反応がなく、相手が薪なので構わないかと思って勝手に玄関のドアに手を伸ばす。鍵はかかっておらず中にすんなり入ることが出来た。そして中の状況を知って絶句する。


 二人、正座。その前にソファに腰を下ろすのが一人。酷く沈んだ空気が漂っていて今まさに叱責終わりました感が漂っている。


「ん?あぁ、籐下。どうした?」

「いや・・・まずこっちが聞きたい・・・」

「勝手な行動を取ったことに対する叱責、とだけ言っておく」

「うん・・・。そうだね。それだけしか聞かないようにする・・・」


どう考えてもこの空気は重い。


 やっとのことでいつもの空気に戻ったところでわざわざ籐下が戻ってきた理由を薪が尋ねる。


「あぁ、この間さ。穂琥ちゃんが凄く綺麗な人と一緒にいたんだよ」

「・・・外、に?」

「え・・・あ・・・うん・・・」


またもや勝手に外に出たということが露見されて危うい空気が流れたが穂琥が一生懸命護ってくれたから大丈夫だと豪語している中に儒楠の言葉で今度は薪が押し黙ることとなった。


「え?薪が見張らなかった時があったのか?」

「ん・・・」


薪の反応を見て明らかに普通ではなかったことが起こったということを悟った儒楠は眼を細めた。


「で?誰だっけ・・・その綺麗な人・・・えっと、きゆう?だっけ?」

「「はぁ!?」」


これは薪と儒楠の声が重なった、が。二人とも同じ様な声なので少し不思議に聞こえた。そして二人のその反応に籐下は驚いて身を引いた。


「お願いしたらきいてくれたの!!」


穂琥の言葉に薪も儒楠も意外そうな表情で苦笑いを浮かべている。


「でさ。ほら、穂琥ちゃんって薪が護るんだろう?それなのにその人がやっていたから一体何者なのかなぁ?って」

「というか、アンタさ。何で普通にそういう会話しているんだ?」


儒楠の質問に籐下は首をかしげた。薪がそれを理解して儒楠に説明をする。


「それ、籐下隼人」

「え?あぁ、これが?」


それ、これ、の扱いを受けて少しショックを受ける籐下だったが仕方ないと抑える。


「へぇ。何、眞匏祗って事まで教えてあるわけ・・・」

「おう。色々便利だから」

「便利って・・・」


薪の言葉に儒楠が笑うように言う。


「あぁ、別に悪い意味じゃねぇよ?籐下」

「うん、いや、あの・・・うん。わかっている。薪が相手だから」

「それは何より」


にやりと笑う薪に籐下も笑う。そして話は綺邑の話へ戻る。


「流石にそればっかりはオレの判断じゃ何も出来ない。オレが勝手に言ったら大変なことになるわ」

「え?大変って・・・お前、結構凄いやつなんだろう?だったら平気そうだけど・・・?もし言ったらどうなるんだよ?」

「命とられちゃう」


薪にしては随分と可愛らしい語尾だったがそれがその危険性を物語っているような気がした籐下はそれ以上を突っ込める勇気を失った。


「いいじゃん、きいてみれば」

「おいおい、穂琥ちゃん?」

「はい!?」

「オレが嫌われているの、知っていてそれをいっているのかなぁ?」

「申し訳ありません!!」


籐下はこの会話で正直驚いた。薪のような人格が他者から嫌われるようなことがあるのが正直意外だった。誰にでも好かれるような、誰にでも平等に接しているような、そんな薪をキライだと言うものがいるのか。いや、確かに綺邑は穂琥と共にい歩いているときに薪を腐れ外道呼ばわりしていたことを思い出した籐下だった。


「そうだなぁ~・・・。オレらに近いようで遠い存在だよ。あくまで人間ではないことは事実だ」

「・・・そっか。それでオレが聞きたかったのはそういうことじゃなくてさ」


 穂琥があの時、薪のことを語ろうとしなかった。いつもならちゃんと言うはずなのに。それに何より、綺邑という籐下にとってはよくわからないその存在が薪の代行として穂琥を護っていた。そんな事、普通では考えにくい。薪が穂琥の護衛を他者に任せることなど草々なことでない限りは有り得ない。


「そうだねぇ~。それはオレも気になる」


儒楠も参戦してきたので薪は最早逃げる事は出来ないと悟って小さくため息をついた。


「いや・・・その・・・・。黒眼を開眼しまして・・・。その後昏倒しました・・・・」

「はぁあ!?なにしてんのお前!?」

「え・・?こく・・・ん?」


儒楠は薪に対して怒号を上げているように見えた。


「私の・・・せいなの・・・」

「え?」


穂琥の小さな声に儒楠が反応する。しかしそれよりも早く薪は行動を取る。さっと穂琥の前に移動して穂琥の両頬を包むようにして穂琥の顔を固定して自分と眼を合わせる。


「だから言っただろう。それは違うって。そのことで悩むな」

「・・・・」


薪のその優しさに穂琥は黙る。肩を落とした薪を儒楠が追求する。


「何をしたんだ?」

「李湖南、って知っているか?お前なら詳しいだろう」


儒楠は少し思考に意識を集中させ始めた。


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