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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第四十四話 舞い降りた二つの存在

 眼を丸くした穂琥の瞳に移る優しそうな男性。その隣で幸せそうに微笑む女性の姿を眼にして穂琥は驚きと嬉しさがこみ上げた。


「幸奈さん!!」


穂琥の言葉に幸奈は呼応してより一層美しく笑みを浮かべた。それから隣似る男性と目配せをしてから綺邑に向かい深く頭を下げた。それから薪にも。


「本来なら有り得ない事だが、特例として認めただけだ」


綺邑が少しだけ不機嫌そうにそう言った。薪はそれを笑って聞いている。


「そういう優しい所がいいと思うぞ」

「貴様、堕として欲しいのなら素直にそう言えば良いだろう」

「すいません」


綺邑の殺気に満ちた言葉に薪は萎縮して頭を下げる。


「わぁ・・・!幸奈さん!怪我治ったんですね?!」

「えぇ。そのお二方のおかげで」

「あぁ、よかった!」


幸奈の体は確かに普通。怪我などまるでしていなかったように美しかった。


「綺邑の力のおかげで一緒に旦那も来ることができたんだよ」

「だんな・・・?え?!じゃぁこの人が翔蒔さん!?」

「初めまして」


礼儀正しく頭を下げた男性は確かに幸奈に似合いそうな立派な男性に見えた。


「所で翔蒔さん?」


薪の言葉に翔蒔がそちらに意識を向ける。幸奈も穂琥も。薪の表情はどこか真剣さを帯びている。何かよからぬ雰囲気といっても過言ではないので穂琥は少し薪の話を阻害したい気持ちになったが出来るわけもなく薪の切り出す話を待つしかなかった。


「アンタ、何でこんなことになった?」


薪のその質問に翔蒔と幸奈は険しい表情になった。穂琥はそんな失礼なことを聞くものじゃないと叫んだが、結局のところ翔蒔はそれに答えることにした。こんなことまでしてもらった相手に対するせめてもの礼儀だとして。


「わたしは・・・一つのグループに入っていました」


そのグループはとてつもなく危険なもので、今更になって知ったことだが、それのリーダーは眞匏祗だったらしい。


「何処の情報だ?あんたが何故それを知っている?」

「そこのお方にお教えいただきました」

「え?綺邑が?」

「はい」


薪は一瞬、きょとんとしてそれから内心で深くへぇ~となんとも言えない声を上げるのだった。


 グループ内で機密にされているあること。翔蒔はうっかりそれを目撃してしまう。それまでは少し待遇のいいただの仕事だったはずなのに。まさかこんな悲惨なことを行っているなんてとショックを受けた。それと同時に怒りを覚え、警察に告発しようとしたがそのグループのものに捕まってしまう。


 今思えば当然のことだが、何処へ逃げてもつかまってしまったのは相手が眞匏祗だったからなのだろう。


 人を誘拐し、その身体を解剖。その仕組みを調べているようだった。詳しいことまでは翔蒔にわかるわけもなく、捕まった挙句、殺されたくなければ言うことを聞くのだと脅される。無論、それだけで翔蒔が頷くはずもなかった。殺すのならすればいいと思っているくらいだった。しかし、幸奈の命まで駆け引きに持ってこられては頷くしかなかった。幸奈の命は自分のものではない。勝手な駆け引きで使えるはずもないというのだ。


 翔蒔は酷く苦しそうな顔をしていた。


「始めはこの人も、言うことを聞いていたのです」


幸奈が重い口でそう言った。


 自分が連行してきた人間は皆そのグループのものに殺された。それが耐えられず苦しかった。殺されるとわかっていて連れてくるのだからやっている事は殺人と同じこと。だから隙を見て何人も逃がした。


 それが露見して翔蒔は今の状態、つまり死に至る羽目になった。そうして翔蒔は絶命し、悲しみにくれている中に薪と穂琥が来たということ。


「時間だ」


短く綺邑はそう言った。なにの時間が来てしまったのか穂琥には理解できず首をかしげているがよくよく考えてみればわかること。翔蒔は幸奈と異なりすでにこの世に有るべき存在ではない。故にここに長いこと在り続けることは出来ないのだ。


「夫と少しでも話が出来て本当に良かったです。感謝いたします」


幸奈はにこやかに笑いながら頭を下げた。二度の夫との別れではあるけれど、心は晴れやかだった。本当にもう二度と会うことなど出来ないけれど。それでも互いの心は繋がっている。


「もう二度と、会うことは出来ないんだね・・・」


穂琥が悲しい声を上げる。


「まぁあ?」


薪が妙に抜けた声を上げたのでこの場の雰囲気を見事に壊した。


「翔蒔さんは実際、綺邑がこの世界に戻しても良いと判断したからぁ?綺邑に頼めばぁ?ねぇ?」

「貴様、もう少し素直に堕として欲しいと言えば良いのではないか?」

「いや、ごめん・・・」


薪は綺邑に対してのみ学習能力を持たないことが不思議でしょうがない。


 翔蒔も幸奈も楽しく笑う。目の前の不不思議な少年少女。摩訶不思議な存在。それらがもたらした自分たちの心。


「あぁ、本当に生きているといいことがあるな」

「えぇ。本当に」


微笑む二人、いや一祗と一人は和やかな目を潤ませて胸の温かさを感じていた。


 幸奈は家に、翔蒔はあるべき世界へ。帰す事として幸奈と翔蒔の姿は光の向こうへ消えていった。


 彼女らと別れて薪は満足そうな笑みを浮かべて疲れたから寝るとだけ言って自分の部屋に引っ込んでいった。


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