第四十三話 死者の誘い
ふうっとひとまず息をつく。痲臨が偽物であったにしろ、とりあえずひと段落だ。これからどうするべきか知らされていない穂琥はどうしたものか考えていたけれど薪は何かほうけた顔をしているのでどうしたら良いのか悩んだ。
「ね、これからどうするの?」
「さぁ」
「え・・・」
薪の曖昧な返事に言葉を失う穂琥。あまりこういった先の見えない回答はしない薪がこんな風にあやふやに返事をする事は酷く珍しい。
「曖昧な返事で悪いな。オレだけの判断では答えられないことでね」
「薪の判断で出来ない!?もうそれ無理だよ!誰でも出来ないよ!」
「いや、阿呆だろ、お前。オレはそんな全能じゃねぇって。オレより上なんて腐るほどいるって」
「はぁ!?」
薪はにやりと笑って『死者を誘う』と答えた。それをきいてはっとした。そうだ、まだ上がいるんだ。薪でも頭の上がらない『上』が。
「ってなわけだ」
薪のこの切り返しは何らかの形で穂琥に影響を及ぼす場合だ。穂琥はそれを重々知っているので身構える。
「お前が呼んで」
薪の予想外の言葉に穂琥は表意抜けしそれから納得した。薪があちら、つまり綺邑へのコンタクトを取ったところで反応してくれる可能性は低いという。そこで何故か急激に親しくなった穂琥に呼んでもらおうというのが魂胆だったらしい。
「まぁ、オレが用事あるって言う目論見を知っていて来てくれるかは怪しいけどなぁ?」
薪はあまり責任を持った言い方をしていないので半ば丸投げしているように思えた。穂琥はそんな薪を横目で見ながら呆れ顔で綺邑へ呼びかけようとしてはたと止まる。
「声の掛け方わからない」
「いいよ、穂琥はそのままで。聞こえないわけじゃないから」
「え?!そうなの!?」
「そうだよ。そうでなければ神社や寺でどうやって人間が神々に乞うんだよ」
「あ・・・え、じゃぁ、どうして?」
「その方が向こうもこっちもコンタクトしやすいだけのこと。だからそれでいい」
「了解!」
穂琥はびしっと敬礼をしてから綺邑を呼びかけに移る。
非常に不機嫌であるのは変わりないがひとまず顕現してくれたことに全力で感謝する薪だった。それから意味ありげな眼で綺邑を凝視すると綺邑は諦めたように息をついた。
「もう支障ない。直ぐにでも帰そうとしていた所だ」
「お、そうか。それはよかった」
薪は随分と満足そうな表情を浮かべてにこりと笑う。それから綺邑の指示を得て薪は右手を左から一気に右へ振った。するとまるでそこに空間の切れ目が出来たように緑の光を帯びて亀裂が入っている状態になった。その亀裂はみるみる大きく開いていき人が二人と折れそうな大きさへと割れていった。その亀裂の中にふっと綺邑が入ったと思ったら直ぐに出てきた。二つの影を引き連れて。
「ゆ・・・!?」
穂琥はその影を見て目を見開いた。