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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第四十二話 罪を犯した者

 先ほどから口うるさい少女を無視しながらうんざりした顔で移動する少年がいる。


「ちょっと聞いてる?!ただの人に簡単にばらして!忘れさせる事だってしていないじゃない!」

「はいー、きいてますー」

「なにそれ!」


文句を言いながら猛スピードで移動しているので、ここで薪が急停止した日にはもう、薪に激突して穂琥は内臓が口から出そうになった。そして先ほどは替装して地球の服装に合わせた格好、つまり人間の格好をしていたのに止まった瞬間に替装しなおしていたので首をかしげる。そしてふっとさらに首をかしげる。


「そういえばさ~、いまさらなんだけど」

「ん?」

「どうして眞匏祗の世界にいるときと、地球にいるときの替装後の服装って、違うの?」

「メリハリをつけるに決まっているだろう?幾ら力の解放だからって仭狛じんはくと同じ格好でいたら地球が壊れてしまう。だから服装を変えてその違いをはっきりさせているだけさ。服装の意味はその程度の違いだよ」


薪が珍しく普通に説明をしてくれたのが意外だがそれよりも穂琥は突っ込まなければならない単語を見つけてしまって薪に尋ねる。


「じん・・・はく?って、言った?」

「・・・・・・・・。っ!」


薪の表情は明らかに「遣ってしまった!」顔だった。そして頭を抱えて叫ぶ。


「あー!今まで言わないように気をつけていたのに!!」

「え!?ちょ、それどういう意味よ!?」

「穂琥ちゃんに説明するの、面倒だもん」

「・・・はい。すいません・・・。優しく教えてください」


萎縮した穂琥に薪は仕方なく説明する。まぁ、これを説明しておけば後に楽だから良いのだが。


 仭狛、とは眞匏祗の世界のこと。人間の世界が地球なら眞匏祗は仭狛。つまりは星の、生息地の名前ということ。


 そして。薪が替装した理由は、こちらのほうが眞稀が出るために家に帰るのが早くなるということ。


 帰宅中、やけにずっと穂琥が大人しいので薪は横目で様子を窺っていたがどうにも落ち込んでいるように見えた。


「痲臨・・・」


家について替装したときに穂琥がボソッといった。


「ん?」

「戻ったね・・・」

「・・・あぁ、そうだな」


さらに落ち込む穂琥。落ち込んだ理由がはっきりした薪は穂琥の頭をそっと撫でる。


「本当に地球が好きだな」


その言葉で穂琥が赤面する。わがままを言っていることを自覚しているのだろう。恥じるように小さく頷く穂琥を見て薪は少し表情を暗くした。


「残念だけど、いやいいのかな?いや、よくないな・・・」


薪にしては随分まとまりの悪い言葉に穂琥は薪の顔を覗く。


「この痲臨。本物じゃない」

「・・・・・・・え?」


薪の握る美しく輝く球。それが本物ではないと?


「おかしいとは思ったんだ。痲臨の爆発を抑えるのにあの程度の苦しみで済んだのが」


今、こうして痲臨を手にしてわかるが、これは間違いなく、本物ではない。


「ひとまず李湖南のいる場所へ行くぞ」


大きく頷いた穂琥は白眼を開いて李湖南を見つける。そしてその方向へと移動する。


 たどり着いた場所は人気の少ない集落のような場所。薪はその中へ入っていく。その奥にはげっそりとした李湖南がいた。無論、誓茄、圭、鼓斗も。


「この先は入れないよ」


圭がすばやく立ち上がり薪の行く手を阻んだ。薪はそんな圭を見て小さく笑った。その笑みに圭は機嫌を悪くしたようだが薪は気にせず奥にいる李湖南へ声を掛ける。


「なぁ、李湖南よ。あんたの言っていた『シナリオ』って言うのは終演したのか?」


薪の質問に李湖南は悔しそうに顔を歪めた。


「オレは愨夸だ!好からぬ事を考えているやつを野放しにしておく訳には行かないんだよ」


強く言ったその口調には強い割りにまるで李湖南たちを責めるような勢いは無かった。


「あなた方の滅亡、ですよ。愨夸。それを求め、いや、それだけを求めてここまで着ております。酷い有様なんてものではありませんよ、愨夸のしてきた所業は。そして根強く残った憎悪と悪夢。それに伴う復讐心。その病める心が消えることはおそらくこの先永劫、無いと思っております」


李湖南の語る愨夸への憎しみの言葉。しかし先ほどの薪と同様にその言葉に憎しみを感じることが出来なかった。李湖南はふっと眼を伏せた。


「しかし、まぁ、もういいのではと」


李湖南の言葉。薪はまるでそれを言うのをわかっていたように微笑んだ。


 愨夸が変わり少しずつでもこの世界は変わりつつある。この先の未来にもし、平穏と言うものがあるのだとすれば、この激しく燃える憎しみの炎も、けたり狂う事はなくなるのだ。


「それに偽りはないな?」

「無論」


薪の最後の問いかけに答える李湖南。それを聞いて薪はにこやかな顔をして李湖南に言う。誠心誠意を篭めて。


「オレに城に来い。こんな狭苦しい地球の中ではさぞかし眞稀も窮屈だろう?」

「な!?そのような・・・」

「ふざけるな!」


ずっと黙っていた圭が大声を上げた。おそらく今の愨夸ですら憎しみのこもった眼で見てしまう哀れな女性。


「何が愨夸だ!知ったことを!」

「言いたい事はわかる。なら言い方を変える。オレの城に来てはもらえないか?少しは変わったんだ。少なくとも・・・・」


薪が言葉を切ったので圭は不信な表情を浮かべた。


「その・・・。父上、のやっていた・・・・その時とは随分変わった。それをその眼で見て欲しい!今は違う!そしてこれからはもっと・・・!」


父のことを口にすることを躊躇った薪。そしてアレほどまで冷静に話していたのに急に声を荒げたので流石の圭も驚いて言葉を発せなかった。


「悪い。取り乱した・・・・。とにかく。見て欲しいんだ。オレはこれ以上、言わない。それでもオレの権力が見え見えする場所に行きたくないというのならもう止めない。さぁ、答えをお願いします」


薪はそういうなり押し黙った。圭もすっかり黙ってしまっていた。


 しばらくの沈黙の後、李湖南がしばらくはここに留まり、気持ちの整理をしてそれから決めると応えた。薪はその答えだけで十分嬉しかったようで満足そうな顔をした。それから急に真面目な表情になって李湖南に向う。その空気を悟った李湖南も怪訝そうに顔をしかめた。


「こっちのほうがオレにとっては大事なんだ。二つ、痲臨は偽物だったから本物は何処だ?っていうことと瞑は何処に消えた?」


薪がそれを聞くと、周囲の空気が変わった。李湖南は苦そうな顔をしながら痲臨はそれが本物であるはずだという。その言葉に偽りがない以上、瞑が何かしでかしたのかもしれない。その瞑については消息不明だと応える。その回答に肩を落とす薪。そしてその場の者に別れを告げて外に出る。


【奴の消息なら掴めたぞ】


綺邑の声に鋭く薪は反応した。


【え!?本当に?!】


何のためらいもなく、綺邑との回線を繋げた薪に穂琥は少し落ち込む。穂琥はその回線のつなぎ方が全くわからなくて顕現させてばかりだったというのに。


【もう、失せた。この世界には存在していない】


瞑、邑頴とて、一度滅んだ身。そう長いことこの世界に留まる事は不可能だったのだろう。神々の噂も多少耳にしたが、この世界から消え失せたのはどうやら事実のようだった。


【そうか・・・。痲臨のほうは?】

【さ?】


流石にそこまで情報が伝わっている訳ではないらしく綺邑の答えは質素だった。


【そうか。わざわざ連絡ありが・・・・】


礼を述べようとして違和感に薪は言葉を切った。そして酷く驚いた声を上げた。


【ありがとう!?】

【黙れ、餓鬼が】

【あ・・・はい・・・・。いや・・・その、ありがとう・・・・】

【ふん】


綺邑との回線はそれきり切れてしまった。薪は驚いた顔のまま笑っている。


 あの、綺邑が。わざわざそれの連絡のために話しかけてきたのだ。しかも薪に。それは驚くべきことだろう。穂琥としては邑頴は綺邑の父であり、死神だった。だから多少なりとも気にしていたのではという。


 薪はいまだに驚きを隠せないながらも、さっさと移動を開始した。


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