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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第三十九話 敵に対する想い

 引っ張られること数分。尻が地面に叩きつけられるのを感じた。


「いった」


穂琥の文句の声とともに聞き覚えのある警戒心むき出しの声が聞こえた。


「貴様ら!?」


見れば圭の姿だった。傍らには李湖南がいる。ただ目も当てられない無残な姿。眼に生気はあまり無く、発言もどこか幼稚化している。圭は真に威嚇体制を見せる。


「この状態の主にさらに制裁を加えるというのか!」

「その口が言うかよ。こっちだって大事な妹、やられてんだ。そのくらいの報復、普通ならするぞ?とはいっても別にオレはそれが目的でここへ来たわけじゃないさ」


薪は一度辺りを見回してから警戒の色を見せた。


「・・・鼓斗はどこにいる?」

「は?何故あいつが」

「いいから。どこ?」

「・・・・時期に来るさ」

「そうか」


警戒が少しだけ薄らいだ薪の表情に穂琥はそっと近寄る。するとふっと降り立った二つの影。


「あ!あなた達!またあえて嬉しいわぁ!」


誓茄が声を張る。その後ろに不機嫌そうな鼓斗がいた。


「鼓斗」


薪が鼓斗の名を呼ぶ。鼓斗は警戒した風で呼応する。右手は刀の柄に置かれている。薪が下手な動きをしたら恐らく抜くつもりだろう。


「舞姫を振るった後、会っていなかったから心配していたんだ」


この場に合わないその台詞に煙に巻かれたような顔をする薪以外の皆様。


「怪我とかしていないか?壊れたところかあったらと、心配だったんだよ」

「・・・してなどいないが・・・」

「そうか!それはよかった」


敵を前にしているとは思えない明るい笑みに相手方はひどく動揺していた。ただ穂琥のほうはそれを聞けば説明されなくてもわかる。如何に敵といえど、怪我をして瀕死に追い込むような真似はしたくないのだ。


「よく言うわ!」


圭が怒鳴り声を上げた。李湖南がどんな存在であれ、彼女ら、彼らにしてみれば大切な『主』であることに変わりは無かった。そんな大切な主をこの様な無様な有様にした薪たちになにを言われようと心が動くはずも無い。


「詫びはするよ」


薪の率直な言葉に圭は歯噛みした。一体なにを考えているのかわからないというのが本音だろう。穂琥だってわからないのだから。


「さて。単刀直入に言おう。まどろっこしいのは面倒なだけだからな。痲臨は何方がお持ちで?」

「直入!?」


あまりの遠慮の無い言葉に穂琥がうっかり突っ込む。それに薪は軽くひと睨みしてから目の前の三祗に眼を向ける。


「・・・主しか知らないよ」


誓茄が不貞腐れたように言う。その後にかぶさるように鼓斗が言う。


「瞑、も知っていたがな」

「ほう・・・」


瞑が絡んでくるとは面倒だった。一体あの男はなにをしたいのか。顔も髪も目も。何もかも確認することの出来ない格好をしていたために捜索のしようも無い。無論、眞稀も感じることが出来ないわけだし。いや、もとより眞稀というものを持ち合わせてはいないのだが。


「よし。修復にかかる。穂琥」

「え?」


薪は圭の抱える李湖南を奪い取る。それに怒号を上げる圭と鼓斗。誓茄はどこかおとなしかったのが妙だった。


「はい、これよろしく」


李湖南の身体を穂琥に明け渡す。穂琥はそれを受け取って困惑していた。要するに李湖南を正常に戻すようにとの事だった。


「嫌だ!!」


まるで子供みたいに。拳を握って踏ん張るようにして薪を睨む。こんな風に反発してきたのは初めてだったので正直薪は驚いた。それでも穂琥がここまで拒否をする理由はなんとなくわかる。


「こいつは薪を傷つけた!それをどうして私が治さなければいけないの!」


穂琥の言い分は確かにもっともなことだ。相手側もそれを重々承知の上か、あまり話しに割って入ってこない。薪はそんな穂琥を見つめる。


「気持ちはわかる。でも・・・」

「嫌だ!聞かない! だって薪がそうやって言ったら私、絶対に納得しちゃうもん!そんなのヤダ!」


首を振って拒絶をする穂琥。困ったと頭を抱える薪だった。


 穂琥が拒絶をしたい気持ちはわかる。それでもこの李湖南を元に戻さない限り痲臨の在り処がわからない。それだけじゃない。敵であれ、ここまで戦意をなくしていればそれは最早敵ではない。傷ついた同じ眞匏祗なのだ。


 それを穂琥に諭したいが、穂琥はそれすらも拒絶する。薪はどうしたものか考える。そしてふっと思ったこと。あまり効果があるとは思えないが、勘でやるかと決めて決行する。


「穂琥」

「ちょっ!?」


薪は穂琥を強く抱きしめる。苦しいと軽く文句がもれるくらいに。


「頼む」


短くそういう。穂琥はしばらく沈黙した。


「わ、わかったから・・・!もう離して!」

「ありがとうな」

「ふんっ!」


そっと離れて穂琥の頭をなでる。相変わらず不機嫌だったが穂琥はさっさと李湖南の元により修復を行う。桃眼で見れば李湖南の体内をめぐる眞稀の荒れ具合に流石に驚く。桃眼の力でそっとその流れを変える。すると李湖南の眞稀は正常に循環を始める。


「へぇ・・・」


誓茄が感心したような声を上げた。穂琥はさっさかと立ち上がって真の後ろに下がる。薪は再び礼を述べて李湖南に触れる。


「ほら、おきろ」


薪に言われてはっと眼を開ける李湖南。その眼はしばらく宙を漂い、薪に焦点を合わせて硬直した。


 未だに体の怪我が癒えていない為ぐったりとしている李湖南にあらかたの説明をして落ち着いたところで痲臨の所在を尋ねる。


「・・・秩江ちつえに・・・」


李湖南はすっかりと萎れてそういった。薪はそれを聞きとめると李湖南の額に手を当てて李湖南の傷を癒す。その行為を見て誓茄、圭、鼓斗は激しく驚いた表情になった。


「なにをそんなに驚いているの?」


穂琥がぶっきらぼうに尋ねると圭がなにを馬鹿なことを言っているんだ、といわんばかりの眼で見てきた。


「なにって!?こいつは戦鎖だぞ!?何で療蔚の技を使えるんだって話だろう!?」


あぁ、そうか。穂琥は納得する。確かにすっかり忘れていた、そんな設定。戦鎖は療蔚を、療蔚は戦鎖を、互いに相反する力同士、故にそれら両方を身に着けることは不可能とされている。それは才能と努力の賜物。


 穂琥は李湖南を睨む。憎いのだ、どうしても。こんなふざけた奴をどうして薪は。


「李湖南は今の治療で眠ってしまっているけど直に眼を覚ますよ」


薪はそういって圭に李湖南を預ける。不本意ながらも圭は謝礼の言葉を述べる。


「どうして?どうしてそいつを助けなきゃいけないの?そんなの、ほうっておけばいいじゃん!」


言い切った穂琥につかつか歩み寄って穂琥の両頬をぱしんと挟むように叩く。


「だめだ、穂琥。そんな事を言っちゃだめだ。どんなに憎くても、どんなに恨んでいても。その対象を失ったときの悲しみは底知れない。オレはそれが怖いんだ。わかってくれるだろう?」

「・・・っ!」


穂琥は一瞬だけ記憶を過去へ馳せる。そして悲痛に叫ぶ幼き薪を思い浮かべて俯いた。


 どんなに嫌っていたとしても、どんなにこの世から消えてほしいと願ったとしても。実際に己で斬ってしまった父は薪の心に結局重たい枷を負わせている。穂琥は深いため息をついて小さく頷いた。


「わかった」

「わかってくれて何より」


優しく微笑んだ薪の笑顔を見て穂琥はその薪に免じ、李湖南の事はもうスルーすることにしようと決めた。


「それじゃ、オレたちはこれから秩江に行くよ」


薪と穂琥はその場から移動術で消えた。残った三祗は唖然としていた。一体彼になにが有ったのかは知れない。それでも敵にすらそんな思いを強く抱いているというのは生半可な出来事では出来ない安い『綺麗ごと』だ。しかし彼の放った言葉には重みがある。綺麗ごととぬかせるレベルのものではなかった。


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