第三十三話 敬意を払う存在
翌朝。眼が覚めたのは6時少し前だった。それに感動した穂琥は自分を自分で褒めていた。歓喜に満ちた穂琥はすぐに硬直するのだった。
昨晩。綺邑にけしかけた事を思い出して沈む穂琥だった。返事もしないで帰ってしまったし。
「あれ・・・?」
ふと思い出す穂琥。過去に薪がなんかそれに関することを言っていたような・・・。
あまりにがさつな綺邑の態度を薪はなんとも普通に反応している。それがあまりにもありえなくて尋ねた。綺邑は全く以って返事をしていないのにどうして勝手な判断が出来るのか。しかし薪はそれを否定した。返事をしていないということはそれが肯定。綺邑の是であるということ。もし綺邑の中で否定すべき事柄であるのなら問答無用で却下の言葉を振り下ろす。
ということはだ。昨晩綺邑は否定もせずにその場からいなくなった。ならば来てくれるということなのだろうか。
ふっと気配を感じる。どこか刺激的で攻撃的。それでもどこか柔らかく神聖な。そんな気配。そちらに眼をやるとふわっと降り立つ綺邑の姿が眼に入る。毎度思うのだがこの彼女の登場、顕現するときの姿はどこか美しい。
「き、来てくれたんですか?!」
「来いと言ったのはお前の方だろう」
冷たくあしらわれるので萎縮する。
「あ、あの・・・・も、もしよろしければ・・・その・・・ぉ・・・」
綺邑の視線に負けて言いたいことをロクにいえない穂琥。そんな穂琥に綺邑は呼びかける。それに過敏に反応する穂琥は背筋を伸ばして綺邑の言葉に耳を傾ける。
「何故、私に敬意を払う?」
「え・・・?」
綺邑の突如のその質問に穂琥は少し固まる。
幾らなんでも穂琥程度の眞匏祗が死神である綺邑を呼び捨てにしていいものか疑問でもある。薪は別だが。愨夸だし・・・。なんとなく、というのが正直の本音だった。
「ふぅん」
綺邑はそういうと目線をはずした。以外にも綺邑が『ふぅん』などと間延びした声を出すとは思ってもいなかったことなので少し聞き入ってしまった穂琥だった。
「私なんかに呼び捨てとかタメ語とかヤじゃないですか?」
「別に」
綺邑は否定に関しては即断即決のような気がした穂琥だった。
「敬意など己が本気で払いたいと思った者にのみ払えば良い」
綺邑の回答。それもそうだけれど、その場の雰囲気や相手の感じでもそれらは変動するのではないだろうか。それよりも綺邑のような存在にもそんな敬意を払うようなものがあったのだろうか。神である簾乃神を簾堵乃槽耀とのみ言っていたことだし。それにしては敬意を払うべき相手のことをよく理解しているような気がした。
「過去に一度、居たな」
綺邑はさもどうでもよさそうに答えた。しかし綺邑の言葉の言い回しが気になった。居た、ということは少なくとも過去形。今は居ないということだろう。
「どうでもいいな、そんな事。何故私を呼んだ」
綺邑に鋭く言われて穂琥は言葉に詰まって眉を寄せる。