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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第三話 影に隠れた存在

「追って来るな・・・」


走り続けてやっと止まったところで薪が言った。先程、家を襲撃してきた眞匏祗から人間を放すべく走り戦える場所まで移動して自分たちの存在はここにあると眞稀を放つ。それで向こうが此方に来てくれるなら文句は無い。文句が無いはずなのに。


「ダメなの?」


穂琥の疑問の声が上がる。薪は小さく唸る。わかってはいる。来てくれることに関してそれが狙いで誘っているのだから。ただ、相手が素直にその誘いの乗りすぎているような不安もない事もない。穂琥はいいほうに考えよう?と囁く。それに薪は頷く。


 女がすっと舞い降りる。その後に男が降りる。感覚からしてこの二祇であっている。


「急ぎすぎだ、眞稀を無駄に使うな」

「だってぇ。早く会いたいんだもの」


女はきゃいきゃいとはしゃいでいる。男のほうはため息をつく。


「雫杜が世話になったな」

「だと?・・・あぁ、この間の男か?」

「名乗らなかったの、あのバカ!」


女が急に話に参加する。


「私は誓茄せいな、よろしくね!天才の眞匏祗さん♪」

「我が名は鼓斗こと

「へぇ」


薪は警戒したように相槌を打つ。特に誓茄の言った言葉のときの薪の表情には萎縮した穂琥だった。なんだか一瞬、怒ったような気がした。


「相手に名乗らせ己は名乗らぬか」

「・・・そっちが勝手に名乗ったんだろう?認めてもいないどこぞの眞匏祗に名を言う筋合いは無いな」

「きゃっ!いいわね!ますます気にいちゃった!」


薪が名前を伏せたのはきっとそういうことではない。いや、もちろんそう言ったことも含まれるのだろうけれど。眞匏祗の愨夸である以上、その名を明かしてはいけないのだろう。だからそれは同時に穂琥も同じことだった。


「さて。戦わないとならないのか?」


腰に手を当てて薪が呆れたように言った。鼓斗はそれを当然だと肯定する。理由を薪が問うと鼓斗の言葉を阻害して誓茄が割り込んだ。


「ちょっと!気に入った子とは話がしたいの!私に喋らせて!」


薪が力を抜くように肩を落として誓茄の話に耳を傾ける。しかし、誓茄は薪が求めた回答をくれるような話をしてはくれなかった。話すのはただ、眞稀をコントロールできるという薪の性能について語るだけ。


「理由が聞きたいんだ」


薪が誓茄の話を区切って言うと誓茄はそれをむっとする様子も見せずむしろ嬉しそうにせっかちね、と笑う。そんな誓茄は視界の中から消える。


 何が起きたかは一瞬ではわからなかった。目の前で怒りを見せる薪の表情とさらに嬉しそうになった誓茄の表情が見えるだけ。


 誓茄は穂琥に牙をむいた。穂琥を斬り殺そうとした。しかし、それを薪が許すわけも無く、見事に誓茄の刀を振り払う。


「凄い!替装しないで刀を出せるのね!私たちの中でも数少ないわ~!」


突然穂琥に攻撃を仕掛けた理由はおそらく、薪に刀を抜かせるためと、叩かなければならない理由を穂琥が知る必要も無く、そもそも存在自体が必要ないと判断したからだろう。


 誓茄はただひたすら薪のその強さに惚れ込んだらしく浮かれた声を出す。その声が穂琥の耳には耳障りで仕方なかった。


「さぁて。そこの娘を私たちに預けてくれないかな?安心して、傷付けやしないわ。あなたに来てもらいたいだけなの、我らの主の下に」

「誓茄。それは早すぎだ。もっと情報を・・」

「構わないわ!それくらいであの方の『シナリオ』は崩れたりしないわ」


誓茄と鼓斗が軽い言い争いを始めた。段階がまだ早いと訴える鼓斗に対して支障はないと豪語する誓茄。誓茄の場合は感情論で筋がない。よって鼓斗の言葉で誓茄は唇を噛むことになる。


「主の『シナリオ』を崩すなど我らには出来はしないが、奴には出来るぞ。その位の力を有している。お前がそれは一番わかっているのではないか?故に惚れたのだろう?」


押し黙る誓茄。鼓斗は警戒したような顔をいている。その様子をただ見ているだけの薪と穂琥。しかし、いい加減に薪の痺れも切れてきた。


「さて」


突然発せられた薪の言葉と眞稀。それに驚いた誓茄と鼓斗は息を呑むようにして薪のほうに目を動かした。


「話はその辺でいいか?そろそろ終いにしたいんだけど」


薪の言葉にかなりの警戒を抱いたらしい鼓斗は不服そうな表情をしつつも引くことを決めたようだった。しかし、それに喰らい付いたのは誓茄だった。


「面倒だな。お前らの言う主とやらがどんな奴かは知らんが。お前らが着くほどの眞匏祗だ、相当できるんだろう?そしてそんな主が作った『シナリオ』とやらがそう簡単に崩れるとはオレには思えにくい。お前ら二祇を今ここで倒したところできっと何の支障も出ないだろうとオレは思うわけだ」


薪の言葉に鼓斗も誓茄も硬直した。一度も会っていない主と呼ぶ者の強さと力量を直感で理解し、それを口にする。


「今、引くというのなら追うつもりは無いから行け。ただし、一戦交える、はたまたこの女を連れて行こうというのならオレは申し訳ないが本気を出す」


薪の言い切った言葉に誓茄が、喰らい付こうとしたがそれを鼓斗が遮り引くことを要求する。しかし、鼓斗としてはすんなり引かせることが腑に落ちないようだった。


「家に友を閉じ込めているしな。それにお前たちみたいな奴との戦闘は極力避けたい。この地球が壊れてしまう」


鼓斗は納得いったように頷くと小さく笑ってから誓茄を宥めてその場から消えた。誓茄は薪を恨めしい目で見てから姿を消した。


 やっとまともに会話が出来る。穂琥は薪に傍に駆け寄ってそっと薪の背に手を置く。


「昔、まだあの方の支配下にあったとき、罪を犯したものは絶対殺された。それから逃れようとして地球に足を運んだ」


穂琥が尋ねる前に薪は語りだした。それが嬉しいような複雑なような穂琥だった。


 さすがの愨夸といえど、さすがの巧伎といえど地球まで逃れた眞匏祗を追ってまで殺すつもりは無かったらしい。何より面倒だった。地球に逃れたければ逃れればいいと巧伎は割り振っていた。


 そもそも眞匏祗にとって人間に対しする負の感情は深い。人間を毛嫌いし抹殺したいと願う程に。しかし流石の眞匏祗といえどこの地球に住まう人間全てを消し去る力を有しているわけではない。

もっとも、愨夸なら別の話しだが。

よって地球に逃れた眞匏祗は結局嫌う人間の元生活しなければ習いために苦痛であることに変わりは無かった。さらに眞匏祗の世界から人間の世界に行くことは容易くできても戻ってくることは容易ではない。故に、わざわざその反乱分子を殺しに地球に赴く理由などなかった。


 そして厄介なのがここから。殺されることを恐怖に思って逃げてきた眞匏祗たちは大抵心弱く、この地球に足を踏み入れた眞匏祗を片っ端から消していこうとする。愨夸の追撃ではないかという不安から。だから不安定に発している穂琥の眞稀を感知すると襲ってくるのだ。さらに面倒なのは先程の連中だ。


 決してそんな弱い存在には思えないのにも理由がある。ただ逃げることを選んだ先程の眞匏祗の話とは異なり、こちらの眞匏祗は愨夸に対する憎しみが強い。必ず噛み付くに戻るという意気込み。それがあるからこそ、普通の眞匏祗よりもはるかに強い力を有していることになる。愨夸に復習するために存在している集団。それの一員が先程の誓茄と鼓斗、さらには雫杜ということだ。


 そして問題なのは薪が愨夸であるかどうかを知っているか否か。鼓斗と誓茄は気づいていないことは事実。もし、愨夸と知っているならあんな口調、態度ではないはず。しかし、彼らが『主』と呼んでいたものがどうかは流石の薪とて理解は出来ない。


 そんな話を家に帰りがてら穂琥にしていた薪だった。そんな家には途方にくれた籐下が待っていた。そんな籐下を包んでいたシールドを開放する。やっと身体を動かせるようになった籐下はうんと身体を伸ばした。


「悪いな、籐下。無理させた」

「いや、そんな事ないよ。助かったよ」

「さて、籐下。とりあえず今日はもう帰れ」

「・・・わかった。無理するなよ、色々さ

「おう」


籐下は少し薪の顔をのぞき見てから諦めたようにその瞳を伏せて帰って行った。


 籐下を送った後に薪は気合を入れるようによしと声を掛けた。それに驚いた穂琥は薪を凝視する。


「少し移動するぞ。遠いから覚悟しろ」


薪にそういわれてぎょっとしたが移動術を使うといったので特に穂琥にすることは無いと悟る。なんたって穂琥にはその技は使えないのだから。それにしてもどこに行くのかは見当も付かない。穂琥はそれでも薪の後を着いてく。不安なんて全く無いから。

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