第二十二話 心の悲痛と叫び
実戦訓練を始めて数日。薪から告げられた言葉に穂琥は震えていた。夢であって欲しいとどれだけ願ったことか。夢だと願うほどそれは果てしなく現実。薪、もう少し待ってよ。いくらなんでも早すぎるよ。
突然告げられたこと。昨晩、疲労していた薪を治した。完全に回復させる事は出来なかった。薪の持っている疲労は予想以上に酷い。そして今朝、そんな薪の顔を見て余計にそう思った。それなのに。
「明日、奴らの本拠地に行く」
あまりに突然言われたその報告に穂琥は愕然とした。つまりは争いが起こるということ。まだ完全に回復できていない薪と、覚悟も何も出来ていない穂琥が。一体何が出来るというのだろう。生半可な気持ちで望めばそれは死を意味することとなる。しかしそれでも薪はもう明日にはという。一体どうして。
震える穂琥の心は痛いほどよくわかる。それでももう動かなければならない理由が出来てしまった。まず、大本の理由として主と呼ばれていたやつの下に痲臨が存在すること。痲臨は使い方を誤れば悲惨な事態しか生まない危険な宝玉。地球はなんと脆いことか。痲臨の力がもし暴発でもすればきっと簡単に壊れてしまう。
だから穂琥の心がどれだけ揺れていようが、もう、手を出さないわけにはいかない。薪は心底思う。連れてくるべきではなかったと。そしてその思いを強くさせているのがあの簾乃神の言った言葉。
薪の家には眞匏祗の世界とつながるゲートが存在する。そのゲートで穂琥を返そうと思った。しかし、事もあろうか、ゲートが閉じて開かない。穂琥を返すことも出来ない状況になってしまっていた。そのことに薪は絶望した。
穂琥が震える心なら薪はおそらく不安の心。果てしない、今までにかんじたことの無い不安が薪を襲っている。万が一にも、穂琥が手元から離れるようなことがあったら。
―いいや、そんな事考えていたら駄目だ。話にならない
薪はその悪い考えを何度も無理やり頭から遠ざける。穂琥を失うことなど・・・。