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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第二十一話 感じる疲労と目にする疲労

 修行を再開させたわけだが、やはり認可の門を潜ってきただけあって今までの苦労はなんだったのかと疑問にすら思えるくらい楽々と進んでいった。そんな折に、薪と『眼』の話をすることになった。


「開眼って他にも色々な種類があるんでしょう?」

「そうだな」

「薪は何が使えるの?」

「ん~?まぁ、色々?」

「なにそれ」


まるで何かを誤魔化すようなその言い方に穂琥は口を尖らせる。薪が得意としてよく使うのは紅眼だったと記憶している。穂琥はそれを薪に言うとまぁ、そうだと返答をもらった。しかしどこか薪の応えに渋りを感じたので追求すると薪は諦めたようにため息をついた。


「いや、まぁ。もう一個、得意なものはあるんだけどあまり使いたくないんだよ」

「え?得意なのに使いたくないって?」

「かなり危険なものでね。冷静でないときに使うとまずいんだ」


薪が出来る開眼の数はいくつかあるのを知っている。その中で最も使いやすくて強いものがあると薪は話す。


「まぁ、教えてやってもいいけど。絶対に口外するなよ?いくらお前でも口外したら本気でお前を消しにかかるからな」


滅多にない薪のこの手の脅しに穂琥は驚いて小刻みに何度も首を縦に振った。


「オレの最高峰の力だと、自分では思っている」


薪のその口調はまるでこれから先、それを使うみたいに聞こえて穂琥は何だか嫌な気がした。


 薪がその『眼』の説明を終えると穂琥は驚いて最初声も出なかった。


「な、何それ?!反則でしょ、そんな力・・・!チートだ!」

「ま、そういうなって。この力も結構レアだけどそれ以上にレアなのがあってオレが知る限りこの開眼に匹敵できる開眼をできたのは過去には母上しかいないと記憶している」


紫火の開眼は二つ。桃眼とそのもう一つ。しかし薪はそんな事はありえないから話はしないといってさっさと修行に戻ってしまった。どこか消化不良な気のする穂琥だったがそうなった薪に何を言っても回答は帰ってこないことを重々承知しているので仕方なく穂琥は修行に移る。


 次のステップで穂琥は衝撃を受けた。魂石を体内から強制的に奪取するもの。しかし、これは下手すると簡単に相手を傷つけてしまうために力加減と操作が非常に難しいものだった。いくら認可の門を通ったからといってそう容易に出来るものではなかった。


 薪が用意したダミーは全部で20体。傷つけないように相手を痛めないように魂石のみを奪取する方法。桃眼で見極めた道しるべを通ってその魂石を眞稀によって引き抜く。しかし・・・-。


 穂琥は5体を完全な戦闘不能にした。これでは再起までにどれほどの時間がかかるかわからないくらい。


「そ、そんな・・・!5体以外、全滅だなんて!!」


残った5体以外を全て完全に破壊してしまった。ちゃんと加減をしたのに。落ち込む穂琥に薪が優しく声を掛ける。


「お前にはちゃんと優しさがある。だから5体『も』残せたんだ」

「え?」


薪は少しだけ影を落として過去を振り返る。薪が最初にこのダミーで修行したとき、このダミーの全てを薪は破壊してしまった。


「穂琥の持つ『優しさ』はオレの持つものとは格が違う。大丈夫だって。お前なら出来る。だって母上の子だろう?」

「薪・・・・。うん・・・。わかった。頑張る」

「おう」


頭を薪に軽く撫でられて穂琥は少し照れくさそうに笑う。


 そうして何とか修行を積み重ねていってとりあえず使用できる段階まで来たと薪は言ってくれた。


「じゃぁ、これで・・・」

「後は最終ステップだけだな」


終わりではないのですね。穂琥は少しだけがっかりしながらも最後に何をやるのか薪に尋ねる。


「なぁ、戦うって何が必要だと思う?」

「え?」


唐突な薪の質問に動揺する穂琥。


「えっと・・・力?気持ち・・・?ん?何だろう?」

「まぁ、今のお前には一番欠けているものだよ」

「え?何だろう・・・?」


どんなに修行を積んだものでも。どんなに才能があるものでも。身体を動かさぬものに勝利は無い。知識が勝ち抜くことが出来るのは子どもの遊びまでだ。実際に刀を交えることとなればそんな知識よりも何よりも大事なものが必要となるものがある。


「直感」


薪が言う。


「そんな!?私ってそれが一番縁遠いんですけど?!」

「だから一番欠けているって言ったじゃないか」

「う・・・」


直感こそが戦闘で最も大事なスキル。相手がどう動いて次にどうするのか。それを見極めることが勝利への架け橋となる。そしてその直感こそ、つけるには。


「ま、実戦しかないわけだ。と、言うことで!」


急激に薪の声が明るくなったので穂琥は背中の辺りがぞくっとした。よく言う、嫌な予感だ。こういう直感ならきっと実戦を積んで知っているのかもしれない。


「来い」


穂琥に向って剣を向ける薪に穂琥は己の『嫌な予感』が当たってしまったことにショックを受けた。


「実戦でのみ、直感は得られるんだよ。そんなわけで今日からはオレが相手してやるから。かかって来い」

「そ・・・そ・・・そんな無茶なあああぁぁぁぁぁ!!」


修行場にしばらく穂琥の絶叫が木霊するのでした。


 今までの修行って何だったのだろう。子どもの手遊び程度だったのかなぁ。だって薪ったら容赦ないんだもん。


 そろそろ日が落ちるという時間。穂琥がへばって修行は終了。穂琥はすっかりぐったりとしてしまって部屋に戻るとソファにダイブしてそのまま寝息を立て始める。そんな穂琥を見て薪はため息をついてシャワーを浴びに行くのだった。


 穂琥はわかっていないかもしれないけれど、この修行で誰が消耗するって薪に決まっている。穂琥が何度も破壊してしまうダミーを眞稀のみで生成しているのは薪であるし、コツを教えるために桃眼を開眼する訳だし、修行に付き合いつつも自分の修行もしなくてはならに薪が疲れないわけも無かった。


 シャワーから上がってきた薪にたたき起こされて穂琥もシャワーを浴びる。まるで何日もこの水に触れていなかったのではないかと思えるくらい気持ちがよかった。よほど疲れていたんだと実感する穂琥はのんびりとシャワーを終えた。


 出てきて薪を探しても薪がいないので不思議に思って探す。そしてふと、ソファに眼が言った。


「あれ・・・?し、ん?」


薪がソファで枕に顔をうずめて肩を上下に揺らしていた。


―・・・。


少し考える穂琥。そしてこの状況が何であるか、把握したとき一瞬驚いた。


―わっ!?薪、寝てる!?


そんな薪にそっと声を掛けるが薪は起きなかった。声を掛けても、いや、近づいても起きないのは薪とは思えない。もしかしたら失神でもしたのかと不安に思った穂琥はそっと薪の肩を持って仰向けにする。


 今までに見たことの無い薪の寝顔。始めてみる寝顔なのでいつもどんな顔をして寝ているかわからないけれど、今回のこの薪は本当に薪とは思えなかった。


―な、なんか・・・可愛いんですけど・・・・


そんな事を思いながら穂琥はソファの前に腰を下ろした。そしてやっとその事実に気づく。


―あ、そうか・・・。疲れているのは薪のほうだったんだ・・・


穂琥を気遣って薪はそんなそぶり一切見せなかった。確かに薪は体力だって気力だってある。それでもこの二日、眞稀を多量に使っていたにもかかわらず疲れたの類の言葉は聞いていない。むしろ、大丈夫か、といった穂琥を労わる言葉だけ。


 そのことに今まで一切気づかなかった自分に恥じた。自分だけ辛いと思い込んでいた自分が悔しかった。そんな思いも相重なって。穂琥はそっと開眼する。そして薪をそっと包む。


「ん・・・?どわぁ!?」


眼を覚ました薪が急に飛び起きたので穂琥は勢いで閉眼した。


「な、何よ!?せっかく癒してあげようと思ったのに!!」


口を尖らせた穂琥だったが、どうにも薪の様子がおかしかった。


「え・・・あ・・・いや。ゴメン。ありがとう・・・・でも大丈夫だから・・・」

「・・・?大丈夫?」

「あぁ」


短く応えた薪のその言葉に疑問を覚えながらも穂琥は薪の膝に手を置く。


「?」


不思議そうな顔をする薪から目線を外して穂琥は薪の膝に置いた自分の手を見る。


「ごめんね。気づかなかったの。いつも薪ってば飄々としているから」

「別に良いって」

「よくないもん!」


急に穂琥の荒れた声に薪は驚く。


 護られるだけじゃダメなんだ。自分だって護りたい。薪を護ることが出来る力が欲しい。それでもまだまだ全然駄目で薪の足元にも及んでいない。


「だから・・・え?」


言おうとした穂琥が言葉を切ったのは薪が頭に手を置いてきたからだ。穂琥を見るその瞳はなんと温かいのだろう。


「気にするなって。穂琥。オレを護りたいって気持ちは素直に嬉しい。同情とかそういうのではなく、本当に。でもな。穂琥が護ることのできるものはそんなものじゃないんだよ」

「え?」

「よく自分で考えてみろ。何が護れるか、何を護るべきなのか」

「うん・・・」


 今の穂琥にこの時言った薪の言葉を理解する事は出来なかった。自分の目の前で精一杯の穂琥には。薪の言ったその言葉の意味を知ったとき、きっと穂琥は自分の力を完全に使えるときだろう。そしてこの時から既に穂琥の中に眠るその力に気づいていた薪に素直な驚きを覚えることだろう。


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