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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第十九話 神の犯した路

 初めてだ。薪がここまで「凄い」と言い切ったのは。それがあまりにありえ無すぎていつものようにはしゃいで喜ぶことすら出来なかった。


 薪はふっと息を吐く。それからあの簾乃神が何故、『禁忌を犯した古き神』といわれるのかを話してくれた。


 その昔。人や眞匏祗なんていう小さなものの寿命では考えられないくらい昔の話。友の裏切りで神界を追われた哀れな神がいた。その神が簾乃神、簾堵乃槽耀であった。そしてその裏切った友の名が京董夜繪鏡けいとうよかいきょう京鏡神けいきょうしんだった。


 神々の都合など、一眞匏祗の薪には全くわからない。それに神界でもそれは非常に露見したくない汚れた歴史。故にあまり知られていないことではあるので詳しいことまで知っているわけではない。


 その京鏡神が何らかの理由にて神々を裏切る行為を働いた。しかし、京鏡神は簾乃神にその濡れ衣を着せた。


「そんな!?そんなこと!神のする事じゃない!」

「神といえど万能なわけではない。そういうことなんだよ」


薪はどこか寂しそうにそう応えた。その表情が何処と無く悲しくて穂琥はそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。


 しかし、簾乃神は京鏡神の濡れ衣を自ら着た。友と思っていた者の裏切りに酷く心を痛めたが、それでも大切に思ったがあまり、簾乃神はその濡れ衣を着ることを選んでしまった。そのせいで簾乃神は有りもしない罪を科せられ担う羽目となった。


「通称、『認可の門』と呼ばれる桃眼の最終段階にて使用される門。それの番人をやらされたのさ」


元は神と崇められた崇高たる存在があんな暗く孤独に苛まれる屈辱の空間でこの長いこと押し込められていた。あんな惨めな悲惨な姿で。孤独と闇が支配するその空間で一体どれだけの時間を過ごしてきたことか。生まれたばかりの薪や穂琥には想像も付かない。


「でも・・・。そういう情報を薪が知っているという事は神々だってそれを知らない訳ないでしょう?何故簾乃神様を開放しなかったの?」

「いい質問だな。オレはこの情報を特別なルートから入手した。だからおそらく眞匏祗の世界でこの話を知っているのはオレと穂琥だけだ」


薪の言った特別ルートが気になった穂琥だった。


「今更、罪を犯した神は京鏡神でした。簾乃神と間違えました、ごめんなさい。なんてそんな軽いことがいえるほどこの世界は甘くない。神の世界も、オレら眞匏祗の世界も」


そして何より、本当に罪を犯した京鏡神はいまだに姿を消したまま。つまり、眞匏祗の世界に伝うにも証拠が無い。本当に京鏡神がやったのかどうか、定かでない以上、神々の勝手な判断と思われても仕方の無いこと。


「それじゃぁ、簾乃神様はどうなるの?罪を投げ出して逃げたとかにはならないの?!」

「それなんだよ。オレと母上が認可の門を潜ったときに簾乃神様を解放しなかったのはそれに繋がっている」


確かに、穂琥に出来たのだから薪に、ましてや母、紫火が出来ないわけがない。


 穂琥が認可の門を潜ったあの時は丁度、集神しゅうしんと呼ばれる期間だった。字の如く、神々が集う特殊な日。何百年に一度行われるその日。ありとあらゆる事情があるにせよ、全神がその場に集結する日。よって、京鏡神もこの集いに抗う事は出来ない。故に自白するべき存在もあるために簾乃神を開放するためには丁度いい日だったということ。


 偶然が重なって出来たこの時。神々の心が最も穏やかに最も静寂なこの時期なら簾乃神も京鏡神もその身を洗い落とせるということ。


「そしてこの集神で京鏡神様と簾乃神様がご対面となるわけだ」

「ど、どうなるのかな・・・」

「さぁね。神々の心などオレなんかにはわからんよ」


薪はどこか冷たくそう言った。


「特別なルートって何?」

「気になるのか?」

「当たり前じゃない。そんな、神々のことをそんなに簡単に知ることなんて普通出来ないでしょう」

「・・・そうだなぁ」


薪は少しだけ考えたそぶりを見せてから小さく笑って簾乃神自ら教えてくれたと白状した。当時の薪はそんな細かな神々の事情などわからない年頃だった。だから、名を言えば開放できるのならそうすると簾乃神に言い寄った。しかし、簾乃神はそうして、自分の身の上と状況を薪に話すことでそれを避けた。


集神でもない日に神々の前に京鏡神を出せばきっとただではすまなかったはず。


「たった一人、愛した神を傷つけたくなかったのだろうな」

「うん・・・。・・・・・。 ・・・・・・・」


穂琥は一度薪の言葉に同意してから薪の顔を凝視した。それに不機嫌そうになんだと応えた薪。


「えっと。ごめん。もう一回言って。薪とは思えない失言、じゃない・・・言葉を聞いた気がしたの・・・!」


真剣な穂琥の表情に負けて薪はこわごわもう一度同じ事を言う。


「え、いや、だから・・・。たった一人・・・・愛した神を傷つけたく・・・」

「え?!」

「なんだよ!」


穂琥の反応に流石に怒る薪。穂琥の耳に飛び込んできた薪とはとても思えない単語。薪が何を間違っても『愛した』なんて事を言うとはとても思えない!


「簾乃神様が言っていたことだけど・・・」

「え?!そうなの!?あぁ~、なるほど~!」


妙に納得した穂琥を薪は軽蔑のまなざしを送る。一人で勝手に納得している穂琥を放って置いて薪は持っている紙に視線を落とす。そこに羅列した文字とはいえない形のもの。これが神の世界での文字。伝えたい相手にのみその文字の解読を許す特殊な文字。それを読もうと目で追うと勝手に頭の中にそれが言葉となって浮かんでくる。


―其の力見事なり。以後悪しき様に使わぬ様に願う。ぬしらを今後、出来うる限りで補佐しよう


紙の最後に書かれていた文。崇高たる神にここまで言わせることなど普通ではありえない。神とは敬いときに畏れ称える存在。願うならば此方から護って欲しいと願い出るしかない。それでもそれを聞きとめてくれるかは神々のお心のみが知れること。にもかかわらず神自ら護ることを約束してきている。薪はそれがどこか畏ろしく思えた。


 拍子抜けする穂琥の顔を見てため息をつく。そしてそんな穂琥に軽く制裁を加えて明日また修行をするから早く寝るようにと促した。


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