第十六話 桃眼の持ち主
「桃眼って凄い技・・・?」
ずっと聞きたいことがあるのを堪えていてついに堪えきれずに休憩している薪に尋ねる。薪はそんな穂琥の唐突の質問に首をかしげた。しかし薪は軽くそれを流す。
「まぁね」
押し黙る薪と穂琥。どちらかというと黙っているのは穂琥のほう。薪はただ休息をしているだけだから。
「桃眼って何祇持っているの・・・?」
「は?」
突然の質問に薪は無愛想に答える。
「一祇は薪。もう一祇はお母様。他には・・・?」
「何を訳わからんこと言っているのやら。桃眼を持っているものが何祇いるかなんて分かるわけ無いだろう?」
「え?」
「そこまで愨夸は暇じゃねぇよ。桃眼を開眼した奴の数なんて一々数えてられねぇって。過去に亡くなっていった歴代の愨夸妃たちだって桃眼は使えていたんだから」
「え・・・?そうなの?」
「あ?当たり前だろう?愨夸の嫁だぞ?その位の力使えなくてどうする」
薪の呆れたような回答に穂琥は俯いた。てっきり穂琥は先ほどの門番の護っていた門がその桃眼への道かと思っていた。あの門を潜れば桃眼を使えるようになるのかと思っていたけれど。でも、そういうわけではないということが今わかった。ではあの門は何だろう。わからない。
「私なんかが桃眼を仕えるようになるかな・・・」
自信の欠片も無いその台詞に薪はふっと穂琥を見据える。穂琥はその薪の瞳に飲み込まれてしまいそうでさっと目を外した。
「できるさ」
沈黙の後に薪がそう言った。
「どうしてそんな風にいえるの?まともに技だって使えないのに・・・、鈍いし」
「鈍いのは性質だ、関係ない」
否定はしないのね。
「オレの妹だしな。それに・・・」
薪は言葉を切る。穂琥はその続きを待ったけれど薪はその続きを言わずになんでもないと区切ってしまった。
「とにかく出来る」
薪はやはりそうやって言い切った。そこまで言い切ることの出来る薪の力がどこか羨ましい。
「最初から出来る奴なんて居ないさ。できたらつまらないだろう」
「薪はつまらないの?」
「オレが最初から何でも出来るみたいな言い回しは止めろ」
薪とて苦労してここまで来ている。戦鎖でありながら療蔚の技が使えるのは確かに才能かもしれない。それでもその技を使うためにどれほどの苦労をしてきた事か、穂琥にはわからないのだから。
「出来ないから苦労して頑張ってそれを手に入れるんだろう?お前は何のために今、頑張ってんだ?」
「え?」
「オレはこう見えても結構お前の意見を尊重しているつもりだぜ?桃眼の力を使いこなせるようになりたいと切に願ったのは穂琥だろう?」
薪に言った記憶はあまり無い。それでも確かに桃眼の力がちゃんと使えるようになりたいとは願った。それを薪は汲み取ってくれたのだろうとしか思えない。
「何のために今、桃眼の修行をしているんだよ。そこまではオレもわからないけど、付き合ってやってんだ。しゃきっとしろ」
「・・・うん。ありがとう。なんかすっきりした」
そうだ。自分のやりたいことのために力を得たいんだ。『果て無き力』が本当に凄いものだというのなら得たい。あの門を潜りたい。『あるもの』が自分の中にあれば。いや、そもそも穂琥はもしかしたらその『あるもの』が主体となって力を得ようとしているのではないだろうか。
わからないなりに穂琥は考える。それでも今はそれを放って置いて修行に専念する。
疲れ果てて修行部屋から出てきたら外はもう闇に覆われていた。流石にこんな長い時間やっていたら大変だろうと薪は肩を落とす。ともかく、今日はもう終わりでまた明日にしようという事になった。
どっかりとベッドに飛び込んだのは随分後だった。疲れて何も考えることが出来ない。このまま眠ってしまいそうだ。
―あるもの・・・
ふっと頭を掠めた何か。穂琥ははっと目を見開いた。そうだ。持っているのではないか?自分が求めるものこそ、その『あるもの』かもしれない。弱い。自分はなんて弱い存在。それでも思うことくらい、してもいいと思ってここまで来ているのだから。穂琥は見開いた目をゆっくりと閉じて心の底から叫ぶ。
―再びあの門の前へお連れください