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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第百二十二話 体と偽りのこと

 何とかクラスメイトを帰宅させ一息ついたところ。


「つうかさー、お前さ~。人間なんだぜ、身体は?なんでそんなに動けるんだよ、おかしいだろ・・・」

「貴様の知ったことか」

「はい・・すみません・・・」


身体が人間になってしまっている以上、今までどおりに動く事は出来ない・・・はずなのだが。


「まぁ、最初だけ、だとは思うけど。どうなんだ?」

「・・・」

「・・・やっぱりか」


綺邑は不機嫌そうにそっぽを向いた。


「まぁ。重いな」

「重い?あぁ、そうか、重力の影響を受けるのか」


無体である綺邑はこの地球および仭狛、さらにはその外においてその外界の影響を受けない。だからこそ、こうして人の身体に成ったとき、重力を得て身体がずっしりと重くなるのだ。


「この身体は不便だな。何も感じない。こんな不便でよく人間は生きていけるものだな」

「はは。あったものがなくなるのは辛いことさ。もとより持っていない人間はそのために一生懸命努力するんだろう?」

「ふん」


綺邑はそれきり黙りきってしまった。薪はその様子を確認してから魂石を抜いていた分の回復に勤しむといって部屋に戻っていった。


「お姉ちゃんはいいの?」

「構わない」


綺邑は静かにそう言ってソファに腰を下ろした。穂琥がじっと見詰めていたのが原因かふっと穂琥のほうを見て何か用かと聞かれる。


「あ・・・いや・・・・。お姉ちゃんって薪に冷たいね?どうして?」

「別にあれだけ特別なわけではない」

「でも・・・私には優しいでしょう?」


綺邑は小さくため息をついて穂琥を見る。


「お前、自分が特別だとは思わないのか?」


穂琥はその言葉に驚いて目を見開いた。


「そ、そうなんだ・・・私てっきり・・・」

「なんだ?」

「いや・・・なんでもない・・・・」


穂琥はそれから黙り込んだ。綺邑も別段、自分から話す様なタイプではないので静かな部屋になる。穂琥がそっと綺邑を見詰める。そしてふっと沸いた疑問。


「どうして回復できないの?」


力がそがれてしまった理由はなんとなくわかった。しかし、ならば展開へ戻って神々の保護の下、回復するのが普通だろう。しかし、綺邑は一切回復をしなかった。その理由がわからない。


「時間切れ、が簡単な言い方だろう」


綺邑はどこか切なげな表情でそう答えた。綺邑は己の右目の話を持ち出した。


 この綺邑の右目は綺邑のものではない。この『眼』が綺邑を絶えず蝕み続けている。そして最後には・・・。


「喰われて終わり、それだけだ」

「それだけって!」

「ならどうにか出来るか?出来はしないのだよ。これは私の定めだ。誰にも・・・どうすることもできないのだよ」


綺邑はそう言って僅かに俯いた。そんな綺邑にどう声をかけていいのか迷っている穂琥の耳に声が届く。


「へぇ、それで早くここから立ち去ろうとしていたわけか」

「立ち聞きとはいい度胸だな」

「悪いとは思ったけどオレがいたら話を進めてくれそうにない話だったんでね」


綺邑は薪から視線を外し不機嫌そうにしていた。


「貴様等にできることなどありはしない」


ドアの前に立っていた薪がさっと歩み寄って綺邑の前に行くと、その綺邑の両手を地面に押さえつけて顔を覗き込んだ。


「な、何をする。放せ」

「嫌だね。話をする。誤魔化さずにちゃんと」


薪のその瞳は真っ直ぐに綺邑を捕らえた。


「なぁ綺邑。その右目はお前の父親のもの。そしてそれが今お前を破滅へと向かわせている。神々の均衡を崩すために。違うか?」


綺邑は黙って視線を落としていた。しかし薪はそれでもそのまま話しつづける。


「お前をそれを知っていて黙っていた。神々の均衡が崩れてもいいと思っているのか?そんな無責任な奴では・・・ないよな?」

「お前に・・・・何がわかる・・・」


俯いたまま苦しそうにそう言った綺邑の姿を見て穂琥はひどく胸が痛んだ。わかるかと問われて何も答えられない。穂琥はそれに失望した。しかし、薪の答えはもっとも単純だった。


「何も。お前の気持ちなんて欠片もわからない。だって別の生き物だしそもそも心だって同じじゃない。それに加えてお前は自分の気持ち、感情を一切言ってはくれない。そんなのでわかるわけ無いだろう?」


薪の言葉が今、どれだけ綺邑に重く圧し掛かっているか解らない。それでも薪が言葉を続ける理由は・・・。


「違うか?そうだろう?それなりに知りたいとこちらがアプローチしてもお前はそれをことごとく却下する。そんなのでお前の何を知ることが出来る?何もできやしないさ」


薪は未だに綺邑を押さえつけている。人間になってしまっている綺邑にはどうすることも出来ない。


「まぁ、別にお前に素直になれてって言っている訳じゃねぇよ。ただ、オレの立てた仮説を聞いてもらえるだけで良い」

「貴様が立てた仮説?ふざけるな。そんな下らないものを聞いている暇など・・・」

「そうやって逃げるのか?」


薪の威嚇するような言葉に綺邑がギッと薪を睨んだ。


「お前はいつもそうやってオレ達の言葉から回避しているんだ。でも今はそんな事させない。しっかり聞いてもらう。そのためにこうして押さえつけているんだから」


薪の手に力が入る。別に眞稀を込めているわけではないが今の綺邑ならこれだけで十分。しかし、なんだか責めているようで穂琥は辛かった。


「薪・・・あの・・・もう・・・」


穂琥が小さな声をだすと薪はすっと穂琥を見上げた。


「なぁ。もし、自分が今、綺邑をたすけることが出来るとしたら、穂琥、どうする?」

「え?そんなのたすけるに決まっているじゃない!?」

「その方法が確かなものではなかったら?」

「それは・・・勿論がんばって確かめる努力をするけど・・・」

「今、それをしているんだよ」


薪は何かを得るために綺邑から回答を導き出そうとしている。それが知れて穂琥はぐっと押し黙った。それを悟った薪も綺邑のほうに向き直って再び視線を合わせる。


「なぁ、綺邑。オレは心配なんだ。こんな、眞匏祗風情に心配なんかされたら屈辱かもしれないけど、別に弱い者が強い奴を心配したっていいだろう?」


その言葉に穂琥は強く頷いた。そうだ、そうなんだ。弱いからって心配しちゃいけないなんて理由は何処にもない。気兼ねなく心配していいんだ。信じているとかいないとかそういうのは関係なくして。


 薪は仮説を上げる。


 綺邑の父、名は確か邑頴といったはず。特別な死神。そしてそれから生まれた綺邑もまた、特別。そして邑頴が綺邑の力を制御し、一時であれど役立たずにまで力を落としてしまった。そしてその邑頴の力が今、綺邑の力を壊そうと動き出している。


「それを止められるのは・・・」

「もういい!お前の戯言に付き合っていられるか!」


突然綺邑が怒鳴り声を上げたので驚いた穂琥だが、薪は大方予測していたようでさして変化はなかった。


「そんなに怒るなよ。まぁ今の反応で理解は出来た。オレにはお前を手助けできる。それが確信できたよ」


薪はそう言ってやっと綺邑から離れた。綺邑は結局その場から動かなかった。


「替装・・・・」


薪が呟いた。そしてふっと服装が変わる。


「え?」


穂琥はそれを見て少し驚いた。地球にいるときは制限のため、少し変わった衣服を身につけたが、今薪が替装したのは仭狛での格好。無論、髪も仭狛のときのもの。


「少し出かける。本気で・・・ちょっとね」


薪はくすりと笑った。


「ふざけるな!貴様の力など借りたくもない!」


綺邑が叫ぶ。それを薪はそっと見る。


「何度、だったかな」

「は・・・?」


薪が綺邑にたすけられたのは一体何度あったことだろうか。それの恩返しをただ単にしたいだけなのだ。


「お前・・・死ぬぞ・・・」

「ねぇよ」


薪は言い切る。穂琥に二階にある薪の愛刀、風舞を持ってくるように頼んだ。穂琥は少し悩んだ後、さっととりに部屋を出て行った。


「貴様、死にに行くというなら許さんぞ!」

「大丈夫だって死にやしない。穂琥のこともあるしな」


薪が妙に自信を持ってそういう根拠が見当たらない綺邑にとってとにかくその行動をなんとしても止めたかった。本当に・・・たかが眞匏祗風情がこんなことをして・・・。


「絶対にお前を一人にはしないから」

「は?!」


綺邑が絶えず独りで踏ん張っていたことを知っている。そして薪たちがどうすることもできないこともちゃんと知っている。それででも。できることがあるというのならやりたいのだ。それが本望だ。


「私みたいな化け物に!掛けるものなど何もない!」


声が震えていたので綺邑を見るとこちらを睨む綺邑の瞳に今までに見たこともないものが溜まっていた。それを見て薪は一瞬硬直したがそっと綺邑の前に腰を下ろしそれを拭う。


「お前に涙は似合わねぇよ」

「な、何を・・・」

「待っていろ。お前は普通の女だよ、化け物なんていうな」

「な・・・おま・・・」

「とってきたよ?」


綺邑の言葉を区切って穂琥が部屋に入ってきた。さっと立ち上がって穂琥から刀を受け取る。


「行って来るけど別に問題はないからすぐに戻ってくる」

「本当・・・?」

「あぁ、心配するな」


薪はにこやかに笑って風舞で空を切った。そしてそこに出来た亀裂に薪は飛び込んだ。その薪へ綺邑が声を張った。


「絶対に帰って来い!」

「勿論!」


薪はそう言って姿を消した。亀裂も綺麗に消えた。しばらく沈黙流れた。


「なぜ・・・。アイツはなぜあーも馬鹿なんだ・・・・」

「薪?だってそういう性格だもん」

「・・・そうか」



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