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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第百二十話 神と賭けのこと

 色々ありはしたが、穂琥は結局のところ学校へ向かう。薪は休息のため家に残る。穂琥は颯爽と学校へ向かう。


 儒楠の姿がないと学校では少し騒ぎになった。家にはいるが・・・と面倒な説明を省きつつ穂琥が言うとなぜかどういう経緯でそうなったか覚えていないが家に見舞いに行く流れになってしまった。よって、学校が終わるとどんなにがんばっても穂琥の力でついてくる人たちを撒くことが出来ず諦めて連れて行く羽目となった。薪に怒られなければいいけど。


 家を開けるとひょこっと薪が顔を覗かせてお帰りというが後ろに数人引き連れているのを見て少し表情を強張らせた。


「よぉ!穂琥ちゃんが療養中って言うから心配だったんだけど?」

「儒楠、何したんだ?」

「でも元気そうでよかった」


数人が嬉しそうに微笑む。それを見て薪の表情はどこか嬉しそうに笑った。穂琥はそれが少し意外だった。


「あぁ、心配かけてすまないね。でも大丈夫だから」


薪がそういうと安心したといった風だった。療養中だから長居はマズだろうということで帰宅をする数人。バラバラと帰っていく中、籐下だけが玄関前で足を止めて再び中に戻った。


「籐下君・・・?」


戻ってきたことに少し驚いたように穂琥が声を出す。その声に反応して奥に引っ込んでいた薪が戻ってくる。


「籐下隼人?どうした?」

「ちょっと、聞きたくて・・・」

「何を?」

「ん~・・・。あまり自信ないんだけどさ・・・・。療養しているのって、儒楠じゃなくて薪、だよね?っていうことで、お前・・・薪、だろう・・・?」

「へぇ?なんで?」


にやりと笑った薪の顔を見てどこか籐下は自信をなくしたような表情をしたが一応自分の意見を言う。


「目が・・・少し違う気がする。もし本人だったらすげー申し訳なくて気まずいんだけど薪だと信じて言うわ・・・。儒楠はオレの名前を呼ぶとき、もっとなんというか・・・嘲笑気味なんだよ・・・。でも今のはなかったのが・・・決め手・・・なんだけ・・・ど・・・」


上目遣いで不安そうな表情をする籐下。薪はしばらく黙った後、ふっと笑う。


「ほう。大した洞察力だね。まぁ元からお前を騙せるとは思っていなかったけど」

「あぁ、やっぱり薪か・・・」


心底安心したような表情で籐下は言う。


 それよりも、薪が療養中と考えると少しだけおぞましい気がする。あの薪が、療養しなければならないという事実をどうしても受け入れにくい。


「まぁ、療養って言っても少し意味が違うんだけどな。回復は殆どしているんだけどちょっと『魂』が中になくてね」


ぽかんと間抜けな顔をする籐下を少し笑って中に入るように促す。穂琥と一緒に中に入ってリビングでくつろぐ。そうして綺邑の話を耳にする。そしてその『療養』のために薪の魂石を渡しているため予想以上に消耗が激しいということ。それを伝える。


「お前なんかいつも災難だな・・・」

「そういう星の元に生まれているんだろう~」


薪はからからと笑う。


「まぁ、オレが死ぬ事はないよ。綺邑さえ無事なら。今回のことでオレが死ぬようなことになるとすると『要因』は神々になるから死なないと思うんだよね」

「「もう少しわかりやすく!」」


穂琥と籐下が声を重ねて文句を言うが薪は説明が面倒なのかはぐらかした。とにかく大丈夫だという。二週間という猶予を言ったが案外それは危ないかもしれないと薪は洩らしているが本当に大丈夫なのだろうか・・・。そんな不安から口を開こうとしたその直後、声を発することを止められた。


「すまぬが、急ぎの用だ。手短に話す」


ふっと現れて簾乃神に籐下が硬直した。眞匏祗とも死神とも違うこの妙な存在感に籐下は圧倒されていた。しかしどこかで、この感じを知っているような気もした。


「死神の子の様子がおかしい。力を保つことができずに今昏睡状態にある。ひどく危険な状態だ。このままでは『新たなる出生』もあり得る」

「しかし、それに貴女方が関与することではないのでは・・・?自然の摂理・・」

「何処にも自然などない。不自然だらけだ。そして今あの死神の子が消えればこの世界の秩序が崩落してしまう」


簾乃神は声こそ落ち着いていたがその気配から尋常ではない焦りを感じさせた。しかし、死神がそこまで神々に影響を与えることができるのか。


「ふむ。死神の子には言わぬと信じ伝えよう。奴は死神の・・・前代の力を超える」


神々が綺邑を『子』と呼ぶのには未だにその力が前代である死神を超えていないが故。あるいは新たに生まれてから間もないが故。しかし、超えることで神々からも『死神』と扱われることになるのだが。そして今の『死神』の力を次の代が超えるかどうかは定かではない。故に今の『死神』に消えては欲しくないということだ。


「・・・死神にすがりつくとは、落ちたものですね」

「ふん。言ってくれるな、眞匏祗風情が」


別段、怒っている様子はなく簾乃神はむしろ笑っている。自嘲するように。薪の言ったことを確実に自覚している証拠だ。


「とにかく。今は失うわけにはいかぬのだよ。そこで我らで思案したが、一つ賭けをしようと思うだが」

「賭け・・・?」


このまま天界にて回復を待っても結局あれは新たなる出生が起こる。これは死神にしか起こらない特殊な現象。この世には必ず死神と呼ばれる存在がいなければならない。それと同時にこの世界に二つの死神が存在してはならない。つまり現在いる死神死んだとき、それとほぼ同時に新たに死神がこの世に生まれ出る。もし、生きている間に新しい死神が生まれた場合、弱いほうどちらかが消えることとなる。それが死神の生まれ変わりの方法。


「このまま行けばそれ故に確実にあの子は死ぬ」


簾乃神の言葉は確実に言い切っている。だからこそ『賭け』をするという。死神という大事な存在を一度『人』にする。そしてその身を・・・。


「お前に託す」


薪を指して簾乃神は断言した。


「申し訳ないが了承を得るつもりはない。強制的においてく。しかしお前ならば断る事はしないだろう?シン=フォア=エンドよ」


あえて簾乃神がそう呼んだことで薪は押し黙った。


「えぇ。するつもりはありません。しかしオレの魂石は・・・?」

「無論、返す」


薪はそれに深く頭を下げた。それを得て簾乃神が消えようとした直後、薪がふっと頭を上げて若干睨むように簾乃神を見た。


「その判断、よろしいのですか?」

「ふふ。言ったであろう。『賭け』だと」

「そう、ですか」



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