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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第百十三話 真と戦闘のこと

 薪が怒りに震えている。それがどこか恐怖で穂琥は言葉が詰まった。


「お前らだけが幸せなんだろう?元から裏の世界で生活していたお前らだけが!表の者たちは苦痛の下に生活を余儀なくされる」

「へぇ。知っているんだ。来たことあったかな?」

「あるわけないだろう」


死ぬより恐ろしいことがもしかしたらこの裏の世界に行くことかもしれない。想像の世界に過ぎないがもしかすればこの裏の世界こそ、地獄と呼ばれる世界なのかもしれない。しかし、薪にしてみれば死というものを恐怖としては捕らえていない。この命は全て大切な存在に預けている。大切な妹に託した。


「この命、いついかなるときでも尽きて構わない。しかし、間違ってもオレのせいでこの命を途絶えさせてはいけないんだよ」

「ふーん・・・・そういうのがムカつくんだよ。表の理屈だ」


男は不機嫌そうに薪を見る。そして男が薪に突進する。薪は刀を抜く構えを取ってそれを抜く前に驚きで固まった。そんな薪とは裏腹に、男は悲惨な声を上げて遠くまで吹っ飛んだ。


「な、なぜ・・・・綺邑・・・?」


綺邑の蹴りが男を飛ばした。綺邑からは苛烈な気配が漂っている。しかしその気配は決して戦闘に向けられたものではない。


「お前、その状態で戦うつもりか?」


綺邑の冷たい声に薪がびくりと反応をする。


「怒りに任せて戦うつもりだというのか。貴様らしくもない」


綺邑の言葉に薪は悔しそうに俯いた。穂琥がそっと綺邑に尋ねる。一体何を言っているのか。綺邑は薪の力が暴走寸前まで来ていることを説明する。途中、薪がそれを止めようとしたが綺邑がそれすらも却下したため、薪は大人しく話を聞いていた。


「暴発、といった方が正解かも知れないが」


綺邑の言葉にいつもとは違う何か感情のようなものが乗っているような気がした。


 命繋線で魂石同士が繋がっている薪と穂琥。そして今暴発の末に肉体が壊れる寸前まで来てしまっている薪が無理してまで穂琥が裏へ行かないようにここまで駆けつけたのには理由がある。例え、この暴発で肉体が消し飛んだとしても魂石は無傷、むしろより強固にこの世に存在することとなる。故に魂石のみで生きることとなってしまう。それを聞いて穂琥は焦ったような顔で綺邑の言葉を否定する。


「何を焦る」

「当たり前じゃない!いなくなっちゃうんでしょう?!そんなの・・」

「いいだろう?裏へ行くのなら関係などないじゃないか」


穂琥ははっとする。自分は一体今まで何を考えていたのだろうか。違う、決してそんなつもりではなかった。そもそも裏へ行くなんて、そんな意識は何処にも・・・。


「周囲のものが自分よりも秀でていることに嫌気でもさしたか?」

「違う・・・!そんな事じゃない!」


穂琥が強く言い切る。裏から来た男がぐっと奥歯を噛み締めた。


―あぁ、これは失敗だな・・・・対象を間違えた・・・


そんな風に思った。裏の世界は表の世界のものを惑わす力を持っている。その力で少し弱くなっている心を押してやれば簡単に裏まで誘い出すことが出来る。そのために絶えず裏に来させるものを吟味している。しかし、今回はどうやらその対象を見誤った、ということらしい。


「全く、参ったな・・・。そっちのそれはなんだ?眞匏祗風情が裏の『惑い』を切り払えるとは思えないんだよねぇ~?何もんだい、その黒いのはさ」


男が唸るように聞く。それに答える義理が何処にある。綺邑はただ只管押し黙った。


「そうかい、言うつもりはないかい。まぁ、いいや。そこの女の子、ちょっと無理やり連れて行かせてもらうわ」


男が右手に光の筒のようなものを握った。そしてそれが地面に触れると簡単にその地面が抉れてしまった。薪が刀を抜き取ろうと構える。


「何をしている」

「自分の妹だ。オレが護る。目の前で他のやつに護られる所なんて・・・・」

「貴様、一体どうした?」


綺邑の怪訝な表情に薪は視線を動かした。


「そこまでしてなぜ冷静さを欠く。今までの貴様がこの程度でそうなったか?」

「オレは別に・・・」

「あぁ、いい、わかった、わかった。あまり騒ぐな。力を使うな。暴走したら止めることなどできないのだから」

「え・・・・・・?綺邑・・・?」


何もこの発言に驚いたのは薪だけではない。穂琥だって同じ様に驚いた。綺邑がこんな喋り方をすることなど今までに一度もない。ただひたすら静かにそれでいて苛烈で。それがなんとも言いがたいこの喋りに戸惑いを隠せないのは仕方のないことかもしれない。


―ドクンッ


「ぐっ・・・・」


男が物凄い勢いで襲い掛かってきたので刀を抜き取ろうとした瞬間、体の中を何か得体の知れないものが物凄い勢いで駆け巡っていくのを感じた。そのあまりの不快感に薪は膝を突いた。男が寸前まで迫っているというのに。


「ったく、面倒な」


綺邑が男を蹴り飛ばす。流石に今度は男も用心していたらしく、その持っていた光の筒で防ぎ、宙を舞って地面に着地した。


「とんでもない力だなぁ」


男は構えを取る。一度誘ったからには無理にでも裏へ連れて行かなくては色々と問題が起こってしまう。男は少し焦り始めていた。それあって手段など考えている場合ではない。男は一目散に穂琥へ突進する。それを防ごうとした綺邑が彼女にしては珍しい驚きの色で埋めた。


「薪!?」


穂琥が目の前で男を弾き飛ばした背中を見て声を洩らした。



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