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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第四章 ○●神々編●○ 第百八話 力と覚醒のこと

 穂琥の口から薪が仭狛へと帰ったことが伝えられる。それに大勢がショックの声を上げた。一言言ってくれてもよかったのにと落ち込んでいる者も大勢いたが時間がなく急ぎの用があったらしいという籐下のフォローをしていた。それでもどよめきは勿論おさまらない。


「眞匏祗のほうで仕事があってね?それの期限が切れかけていんだよ」


儒楠が少し面倒くさそうにそう答えた。そんなギリギリになってしまうようなことが、と声がする。それに儒楠が冷めた表情で返した。


「こっちにはこっちの事情があるんだよ。テメーら人間にわかるかよ」


表情こそ、笑みではあったがどこか嘲笑的にも取れたその笑みに全員がさすがに押し黙った。穂琥はその様子をみて不安を覚える。儒楠は確か、人間を嫌ってはいなかったはず。なのになぜ。


「とにかく、薪は帰ってしまっ・・・え、嘘だろう・・・?」


突然儒楠が驚いた声であらぬほうを見た。首をかしげる全員。


【何かあったのか・・・?】


周囲には聞こえにくい小さな声で儒楠が言ったのを隣にいた籐下は聞き取った。その慣れない声の響きからして綺邑が気配を放ったのだと気づいた。


【さぁ】


綺邑の回答に儒楠は眉間に力を入れた。


「え?何?お姉ちゃん、来ているの?」

「え・・・・?何を言っているの、穂琥ちゃん」


穂琥がしどろもどろしがならそんな事を言うものだから籐下とて驚いた。綺邑の気配には結構敏感に反応していた穂琥がここまで反応に鈍くなっているなんて。それを悟ってか儒楠は穂琥の腕を掴んで来いといって連行していく。その際に籐下の腕まで掴んだ。


「来い、籐下隼人」

「え、あ、はい!」


慌てて着いて行く。そうして人気のない屋上まで行くとやっと儒楠が歩みを止めて振り向いた。


「穂琥は綺邑の気配を感じられないのか?!」

「え・・・」


儒楠の驚いたような声にむしろ穂琥のほうが驚いていた。


【やはりか。今のこの声とて届いてはいまい】

「何だって?!」

「お、オレも聞こえるよ・・・?」


籐下は一度、綺邑と共に境にて活動をしていたために同調率は高い。故に多少なら綺邑の気配と声を感知することが出来るために多少は察知できる。しかし眞匏祗であり、常に綺邑を感じていた穂琥がそれに一切反応できなくなっている。


「力が消失したか」


ついと顕現した綺邑の姿。しかし穂琥の瞳はそれすらも映す事が出来なかった。いくつかの段階に分けての顕現が存在する。神々にしか見えないもの、眞匏祗まで見えるもの、特例の人間、今回で言う籐下のような存在まで見えるもの、常人まで見えるもの、損だ官界を踏んでこの世界に身を投じることができる。今の段階ではわかるように特例の人間まで。


「つまりは今の段階だと常人レベルかそれ以下だな。奴と離したのは不正解だったのかもな」

「何だって?!」

「そんなこと!?穂琥ちゃんの力は薪が・・・!?」

「何を話しているの・・・!?」


綺邑の声も姿も一切捉えることの出来ない穂琥は不安げに声を上げた。


「お前のことだ」


常人でも見えるであろうレベルまで落とした綺邑がそういう。穂琥はぽかんと口を開けて固まった。


「はっきり言う。お前仭狛へ帰れ」


穂琥は目を大きく見開く。要するに、穂琥の眞稀は全て薪が保護し管理していた。故に膨張することも、萎縮することもなかった。しかし薪と離れたことで極端にそれが減少してしまった。つまり、簡単に言えば薪がいなければ穂琥の力がうまく作用しないということ。綺邑はそう説明した。


「でもそれっておかしくない?」


籐下が首をかしげた。綺邑は無言で籐下を見た。その圧力に若干萎縮する籐下。その代わりに儒楠がその疑問をあける。


「普通に考えて薪のそう言った作用がないというだけで機能しなくなるはずがないだろう?」

「・・・。ふん、面倒だな」


綺邑はそっぽを向きながら本気で面倒くさそうに言う。


「仭狛から地球へと移動する術は上級者でも難しい術だろう?」


綺邑の言葉を聞いて儒楠は合点の言った顔をした。


 愨夸といえど何もない状態から地球と仭狛を繋ぐパイプを作るのは容易なことではない。普段はそう言ったパイプがもとより存在しそこをルートとして行き来するようになっている。薪の地下室にあった長夸や役夸に連絡するべくしていたアレがそうだが。そう言った愨夸ですら難しいそのパイプを毅邏で腕を刺し、意識が朦朧としている状態の、ましてや生まれて間もないただの子供の眞匏祗がやったのだから。その対象となった者の眞稀が狂ってもおかしくはない。


 まともな状態ではないのに生かすために、穂琥を護るために無理に地球へと送り届けた。そのせいで穂琥は今でも眞稀のコントロールがうまくいかず苦労する羽目になっている。そしてその負い目を感じているからこそ、薪は穂琥を保護し、そばにい続けたということ。


 既に今の穂琥は人間と大して代わることのない力まで低下してしまっているだろう。眞稀を使うことが出来なくなり始めているということ。試しに術を行使しようと意識を集中させると手のひらで出来た小さな光の球はすぐに形を保っていられずはじけてしまった。


 眞匏祗が人間レベルまで低下してしまうという事例はない事はない。しかし、儒楠も綺邑も納得が行かない理由は穂琥という存在にある。あの『愨夸』の妹がそんな現象に陥るなんてことがあるのか、ということ。


「じゃぁ・・・私は薪が必要って言うこと?」

「まぁそういうことになるね・・・・。うん、穂琥、帰ったほうが・・・・」


儒楠は言葉を切った。穂琥は首をかしげた。儒楠ははっとした表情で固まって、ぎこちない首の動きをして綺邑へとめぐらせた。


「えと、人間レベルまで低下している・・・って言ったっけ?」

「そうだな?」

「あ~、じゃぁ、もしかしてゲート・・・」

「潜れんかもな?」

「やっぱり・・・・」


ゲートとは地球と仭狛を繋ぐパイプ。しかし、絶えず繋がっているそのパイプに人間がもし踏み入ってしまったら危険極まりない。それがため、眞稀を持たぬ人間がそれに触れても決してそのゲートが発動しないようになっている。つまり、今、人間レベルにまで低下してしまっている穂琥がそこを通ろうとしてもゲートは開いてくれない。それどころか逆に閉じてしまう。


「保護してやっても構わんが?」


綺邑が穂琥に言う。穂琥はぱっと表情を明るくした。


「私の力を貸してやっても構わん。ただし貸した分をきっちりと返すというのなら、だが」

「本当!?ちゃんと返す!お願い、お姉ちゃん!」


手を合わせて願い出る穂琥に綺邑は小さくため息のような音を洩らした。それから籐下が素で疑問そうな声を上げた。


「でもどうやるんだ?薪だって近くでないと保護しきれないんだろう?」

「貴様、私を馬鹿にしているのか?奴の力など私には到底及ばん」

「あ・・・はい・・すみません・・・」


完全に言い切った綺邑に籐下は身を小さくして謝罪する。


「とは言え、穂琥の力は元が大きいぜ?他界から保護できるのか?」


儒楠の言葉に綺邑が黙り込んだ。


「それなりに・・・」

「綺邑?言い方がおかしいよ、大丈夫?」


にこやかに笑った儒楠に綺邑は不服そうに顔を歪めた。穂琥と籐下はどんどん薪に似てきていると思うのだった。


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