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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第百四話 真相を弾き出せ

「大丈夫か?」

「生きている?」


息を切らす儒楠に籐下と穂琥が声を掛ける。かすれた声で大丈夫、辛うじて生きていると答えた儒楠に対し、剣を肩に乗せて上々、と笑う薪。この差は一体なんだ。


「つうか、少し気に入らないのはお前が本気で来ないことかな?」

「は、よく言うぜ・・・。こちとら全力だっつーの・・」


息が上がりながら薪の言葉に文句を言うが薪の目はどこかそれすらも否定して笑っていた。


「こっちの調整が出来次第、叩こうとは思うが。やるならあの空染派棟、って奴だな。たぶんアイツだけが『愨夸』と直接会話をしていると思うから。他のやつはきっと一度もしていないと思うんだよね」

「ふん・・・。全員愨夸とは話しているよ・・・」

「グレるな・・・」


穂琥が口を尖らせているので薪は困ったような笑みで答える。


「まーしばらくはこのまま訓練かな?」

「いやだぁぁぁぁ!!」


珍しい儒楠の絶叫に穂琥と籐下は肩を揺らして笑った。薪はぶんぶんと刀を振って確実に第二回戦を催そうとしていることが見て取れた。


「絶対もうやらないいい!!」

「よろしく♪」

「いやああああ!!!」


その絶叫は鳴り響いた。


 後日、薪、欠席の元、なぜか筋肉痛だらけの儒楠とその様子を笑う穂琥が学校へと登校する。


「オレ・・・まさかこの年になって筋肉痛起こすとは思わなかった・・・」

「え?地球じゃ普通だけどね?」

「おいおい・・・。オレたち眞匏祗って言うのは常に体動かしているんだぜ・・・?」

「そうでした!」


笑い声を立てる穂琥にため息をつく儒楠。教室についてダウンしている儒楠を放って穂琥はクラスの仲間と会話を楽しんでいると紫火に声を掛けられた。


「穂琥ちゃん、でいいかな?」

「いいよ、五木さん!何か用事かな?」

「うん」


紫火はこぼれる笑みで穂琥に向かう。穂琥もそれに答える。


 紫火の質問は薪のことだった。一体彼が何を考え、何を臨んでいるのか。そう尋ねられたが穂琥はそれに答えなかった。正確には答えられない。いや、はぐらかすとかそういう問題ではない。普通に、単にわからないのだ。


「薪は独断で動いていて、私たちに動きが必要なときにのみ声を掛けてくるから一体何をしたくて何を求めているのかなんて私にも・・・たぶん儒楠君にもわからないことだと思うよ」


紫火はそれを聞いて不思議そうな顔をした。それから一瞬だけ表情を曇らせてからぱっと明るい顔になってもっと話がしたいから放課後、ここにいてほしいと穂琥に願い出てきた。否定する必要もないので穂琥はそれを受け止めた。


 放課後、薪の呼び出しを喰らった儒楠が逃走するように何処かへ走り去っていった。穂琥はそれを追いかけようとしたが儒楠を相手に追いつけるわけもなく諦めて紫火の言っていた約束を果たそうと教室へと戻った。


「あ、五木さん。用事はな・・・。あぁ、そういうこと?」


教室にいた紫火に声を掛けたが後ろにいる影を見て穂琥は言葉を変えた。


「愨夸の命令なんだ、許してよ。一祇になった所を狙うなんてひどいかもしれないけどさ」

「いいやり方ではないかもしれないけどこれしかないからさ」

「いつもどちらかに保護されていて手が出せないからね」


笠來、栗依、小刃が順に語る。しかし穂琥はそれに小さく笑う。それに怪訝な顔をする四祇。


「バカなの?」


穂琥の言葉に栗依が眉を寄せた。


「は?そっちでしょ、それは。この状況で笑うって、何考えているの?悪いけど、ここにいるの、紫火を覗いてみんな戦鎖だからね?勝てるわけないでしょ、あんたに」


栗依の言葉。しかし穂琥はそれを気にしない。


「本気で思っているの?薪が私から保護をはずすときがあるって」

「え?」


穂琥は真剣な表情で相手へ向かう。


「私は一祇じゃない。いつもちゃんと誰かと一緒にいる、共にいる」


穂琥のその台詞がどうやら癇に障ったらしく小刃が刀を構えた。そして穂琥に向かって物凄いスピードで近づく。


「今は確実に一祇だろうが!」

「あら、そんな事ないよ。止めたほうがいいのに。ねぇ、薪」

「だなぁ」


ガキン。


小刃の刀が弾き上がる。突然の防御に小刃は少し戸惑っているようだった。


「つっても、少しは自分で何とかしようとしろ」

「うん、するつもりはあるよ?でも3祇の戦鎖前に私に何が出来るの?」

「色々できるだろ~。お前、思っているほど弱くねぇんだから」

「えへへ。それ、ウケる」

「冗談じゃねぇよ、ばか」

「ひどいなっ!バカはないよぉ!」


薪と穂琥は会話を終えて相手を見据える。薪は刀をしまう。


「ふーん。まぁ、策略どおり、だけどね?」


栗依が楽しそうに言う。


「そうだな。しょうがないから直に言うか」


小刃がそういうので笠來が口を開こうとしたそのとき、その場にはいなかった派棟が姿を見せ、そして笠來の言葉の先を封じた。


「よせ、それは『薪』に言うべきものだ。これ言うべきじゃない」

「はは。見破ったのはお見事だけど、『これ』はひどいいいようだな」


その場にいたのは薪ではなく儒楠。会話は思念派を通じて直接薪がしていたのだが。その状況でそれを見破った派棟に儒楠は感心する。


「しかしまぁ、今回は忠告で終える。だからここにいるのがオレなんだけど。だけど次はないと思えよ。怒りを買うぜ?怖いよ~、こっ・・薪の怒りを買ったら大変だぜ」


儒楠はふっとおかしそうな顔をした。穂琥はそれ見て肩を落とした。確実に今、愨夸といおうとした。


「何を・・・言おうとした?」

「ん?別に?」

「・・・・・何を?」

「しつこちなぁ?案外ねっちりタイプか?お、なぁ薪。そう思うわねぇか?」

「知るか、あほ」


窓からさっと現れた薪の顔を見たとき、穂琥は少しだけぞっとした。


「さっき、儒楠も言ったが忠告する。例え、オレをおびき出すためだとは言え、傷つけるつもりがないとは言え、穂琥に手は出すな。大抵の事は目を瞑るがそれだけは許さない。いいな?」

「ふふふ・・・。了解しよう。しかし、愨夸のご命令とあらば話は別だがな」

「ったく・・・」


派棟の言葉に薪が肩を落とした。その愨夸、希衛とは一体何を求めているのか。そんな折。


【ここは引け】


響くような声。綺邑が顕現しない状態で話すときと似た頭の中に直接聞こえるようなその声に目の前の眞匏祗たちが少し震えた。


「あぁ、愨夸よ・・・」


小刃がそんな声を洩らした。


「ほう、あなたが愨夸ですか。名は希衛、でしたね。お言葉ですが希衛様。オレはあなたとやり合うつもりはありません。ですからそれなりの・・」

【気にすることじゃない。此方とてお前と戦うつもりはないさ。そちらが手を出さないというのなら此方もやらんよ】

「・・・・」


希衛の回答に薪が黙した。穂琥と儒楠はそれに不安を覚えた。大丈夫かと不安な表情を浮かべたが、薪は至って普通の表情だった。


「そう、言うのであればなぜあなたはオレの妹に手を出したのでしょう?」

【出すつもりはなかったさ。そこの小刃が勝手な行動をしたまで。灸をすえる必要がありそうだな。いや、言い訳はいい。すまなかったと素直に言っておこう】

「・・・そうですか」


薪が目を伏せる。それと同時に声が聞こえなくなった。この状況に儒楠が不服そうに顔を歪めた。名目上、愨夸と愨夸が会話をしたことになる。そして何より薪の敬語なんてあまり聞いたことのない儒楠にしてみれば不可解と同時にどこか気持ち悪さを感じた。恐らくそれは薪が本気でそれを使っていないから、それが『嘘』だからなのかもしれないと思う儒楠だった。


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