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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第百一話 魂魄を解き放て

 さて、問題はなぜ彼らの上に『愨夸』が存在しているのかということ。


「仕方ないだろう。最近の愨夸は留守がちで威厳もクソもなくなってきていうるからその隙をつかれても仕方のないことだろう」

「おい・・・それ、自分のことだぞ・・・」

「はは」


儒楠の突っ込みに乾いた笑いを乗せて薪は遠くを見詰める。その視線の先に一体何があるのかは誰にもわからない。


「回収が終わった」


低く威圧するような声が薪たちの耳に届いた。薪は即座に安否を確認する。


「綺邑!籐下は・・・?籐下は・・・」

「ふん。無事さ。ただ疲労で倒れたがな」

「そうか・・・よかった・・・」


薪は安堵の表情で埋め尽くされた。しかしそれもつかの間であっという間に薪は表情を険しくさせた。魂魄の回収が終わったのだ。ならばそれを帰す作業をしなければならない。それは人間である籐下には到底助力できないこと。無論、普通の眞匏祗にも出来ることではない。一度、その狭間に足を踏み入れた薪であるから助力できるというもの。


 綺邑は校庭へと目を向ける。そこにうごめく信じられない数の魂魄。その数の多さに儒楠が驚いた声を上げていた。


「さぁ、眞匏祗諸君、仕事の時間だよ」


滅多に言わない台詞に穂琥と儒楠は変に背筋が伸びた。


「今は綺邑のおかげで魂魄がここに留まっているがほかの事をするからそれを解除する。よって、儒楠。全体にシールドを張って魂魄がここより動かないように止めておいてくれ」

「了解!」

「穂琥!お前は桃眼を開けて援助しろ」

「ラジャ!」


薪の指示に穂琥も儒楠も動く。儒楠は窓から飛び出して宙で止まるとシールドを張る。それに伴い、綺邑の張っていた結界が消失するのを感じて取れた。穂琥は開眼の準備を整える。


「・・・・。あの人間の小僧は回復するまでなら面倒を見てやる。ただそれ以降は知らん。叩き落すぞ」

「はい・・・しっかり受け止めます」


綺邑の言葉に苦笑いを浮かべながら薪は承諾する。それを聞いて綺邑はその場から消えた。


「穂琥、準備いいな?」

「うん」

「よし」


薪の合図で穂琥は開眼する。儒楠の眞稀の関係もあって長い事はかけていられない。コレだけ大きなシールドを張り続けるのは薪とて容易なことではないのだから。


 彷徨える魂魄たち。それらを全て一つ一つ丁寧に綺邑の元へと送る。そうして送られた魂魄たちは地上の穢れを落とし黄泉の世界へと綺邑によって葬られる。その作業がどれだけ時間を要したことか。


 そうしている間にも薪の中で不安は募る。魂魄の動きに合わせて傷つかぬよう、シールドを変幻させている儒楠は相当の労力を必要としている。また穂琥のほうも桃眼とは療蔚の中でも上位クラスの大技であり、慣れないものが長時間使用すれば眞稀が際限なく減り命を落とす事だってある。あまり使っていない穂琥に一体何処まで桃眼を開けさせていて平気か。そして何より自分自身。薪も穂琥同様桃眼を開眼している。戦鎖である薪が療蔚の最高峰の技を長時間使うのはあまりにも危険すぎる。故に本当に長い事は出来ない、やってはいけない。とにかく焦る作業だった。


「コレで最後!?」


穂琥が声を張る。魂魄の逝く路を示す。薪がそこへと送り込む。そして魂魄で溢れかえっていた校庭ががらんとすっきりとした。


「うわっ」


誰ともいえない声が校庭の中に聞こえて土埃が俟った。その砂埃がおさまるのを待って儒楠はその中心へと手を伸ばす。


「大丈夫か?」

「あ、うん・・・。なんとか・・・・あ~、薪、平気か・・・・?」

「あ~~~何とか生きてる~」


土埃の中から現れた籐下に手を差し出して立たせる儒楠。立ち上がった籐下は地面に直撃しないようにカバーしてくれた薪に無事を尋ねた。


「そうとうな疲労具合だな?」

「当たり前だろ~。桃眼、どんだけあけていたと思ってんだー。一瞬綺邑の姿が見えた気がしたー」


地面に座る薪はいつもと違い全く覇気のない言葉に何だかおかしくなって小さく笑う三人。


「あははっ。死んだら薪はお姉ちゃんのところに行くもんね~?」

「世話になるのはごめんだろう~?」


穂琥と儒楠にからかわれているような薪がどこか面白くて籐下はまた小さく笑った。


「さて、疲れた!ちょっと休憩~!」


薪は諸手を挙げてそのまま後ろに倒れた。その様子に籐下が慌てて安否を尋ねたが薪はなんとも悠長な間延びした言葉で大丈夫だと伝えた。そしてそのまますっかり眠ってしまった。


「仕方ない奴だな」


どこか楽しそうに儒楠は笑うと薪を抱えて立ち上がった。


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