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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第百話 偽の狙う理由と本拠を割り当てろ

 その女のことを学校にいる転入眞匏祗組へと報告する。対処するように言ってきたのはそちらだし、念のための報告を済ませた。その転入眞匏祗組の中に霧醒も混ざっておりにへらと笑っていた。


「というより、そもそもそちらは一体何が目的でわざわざこんなところへ?」


穂琥が尋ねると小刃が細かいことはいえないが、といいながら小さな声で言う。


「愨夸のご命令だ」


その言葉を聞いて威嚇体制に入る穂琥と儒楠。


「あら?疑っているのかしら?愨夸と密接に関わることがそこまでかしら?」

「何を。当たり前だろう、栗依。オレらが特別なんだから」


栗依の言った言葉に笠來が笑い声をかぶせた。


「それで?その愨夸が一体何を望んでこんなことを?」


普通に驚いた風もなく会話を進める薪に穂琥と儒楠は凝視する。しかし薪は何も構うことなく勝手に話を進めていく。


「それは言ってはいけないの。だって内密のことですから」


紫火が語る。薪がそうかと短く答える。そしてその愨夸の名を尋ねるとなぜそれを聞くと疑問で帰ってきた。薪はそれにため息をついて仕方ないように答える。


「相手は愨夸だろう?眞匏祗が愨夸の話を聞いて興味を示さないものがいるわけがないだろう?それに前代とは違って随分慕われている様子だから」

「それもそうだな」


派棟がそれに答える。そのまま派棟がその愨夸の名は『希衛』だと教えてくれた。薪は少しだけ考えた風な表情を見せてから報告はしたといってその場を立ち去ることを決めた。それに習って穂琥と儒楠もその場を引く。


 自分たちの教室に籐下を残していたのでそれを拾う。その間に儒楠がそっと薪に耳打ちをした。


「愨夸、名誉を汚されて悔しくないか?」

「悪いな、オレは愨夸であることを名誉と思った事はないんで」

「あぁ、そうでした」


儒楠はふっと笑って薪より一歩前に出た。


 教室に行くと誰もいない。流石にこの時間になればみんな下校を済ませるのだろう。一人寂しそうに残っていた籐下が薪たちの帰還を嬉しそうな顔で出迎える。


「よう。どうだったんだ?」

「ん~。いまいちよくわからん連中だな。まぁ、いいさ、そんな事は。それよりも」


薪はささっと籐下の前に移動し、彼の肩をガシッと俯きながら掴んだ。その行為に籐下は困惑しながらどうしたのかと尋ねる。すると薪は掴んでいる手に力を少しだけ入れてちいさな声で言う。


「そろそろ籐下に動いてもらおうかと思うんだ。オレのやりたいことの一つを手伝ってほしいんだ」

「え・・?何を?まぁ、薪の頼みならオレは出来る限り・・・」


薪はガバッと顔を上げて籐下と目線を合わせて強く言う。


「綺邑と一緒に」

「・・・・・・・・」


籐下は先ほどまで言おうとしていた言葉を切って無言で薪を見詰めた。その瞳はどこか否定的なものを感じる。


「いや、大丈夫!安心しろ!うん!アイツがきついのはオレに対してだけだから!たぶん!」

「最後の一言、余計!!」


薪の言葉に籐下が突っ込みを入れる。その最中綺邑が教室内に顕現した。


「お、おっす」

「ふん。下らん話をするつもり無い。全てが地表に出た。どうする?」

「わかった。じゃぁ籐下と組んで回収に回ってほしいんだ。出来るか?」

「その餓鬼次第だろう。・・・・お前、壊したいのか?」

「まさか。コイツは大丈夫だ。オレがちゃんと護る」

「・・・・ほう」


綺邑とそう会話を終えたのちに、籐下に向き直り、今度はひどく真剣な目で向かう。


「いいか、籐下。今から言うことをしっかり理解してほしい」

「おう・・・」


急な薪の真面目な顔に少しだけ圧迫されて戸惑いを見せた籐下だがあまりの真剣具合にただ事ではない事は理解した。


「な、なぁ、薪。いくら何でも人間に綺邑とは・・・」

「オレの判断だ、黙れ」

「・・・っ。わかった」


珍しく押し黙った儒楠に反撃をしないのかと籐下は驚いた。しかし、実質、愨夸である薪が本気で言えばそれに従わざるを得ない、いや、愨夸だろうがそれは関係のないことかもしれない。儒楠自身が『薪』という存在を認めているからこそ、今ここでそうやって押し黙ったのだから。


「いいか、籐下。今からお前をこことは全く別の世界に飛ばす」

「眞匏祗の・・・?」

「そことも違う。もっと言えば眞匏祗ですら知らない世界だ」

「え?!」

「綺邑たちの住まう世界、生と死の狭間の世界、神々の世界だ」


薪の言葉に既にオーバーヒートを起こしそうな籐下の頭を何とか冷静に保たせて薪は説明を続ける。


「いずれはちゃんと話をする。ただ今はとにかく動いてくれ」


薪の真面目なその目と言葉。籐下はそれを見て全てをこの薪という存在に委ねようと覚悟した。故にその薪の言葉に深くそして強く頷いた。


「詳しい事は向こうで綺邑から聞いてくれ。それじゃ送るぞ」

「わかった」


頷いた籐下に薪はしっかりとしたまなざしを送る。絶対に壊さないように。


 薪の眞稀により籐下の身体はふわっと宙に浮きそのまま周りの空間がどんどんと歪んでいくのが見て取れた。あたりの風景がそのままうっすらと消え去っていき白い霧がかったところに来ていた。


「ここは・・・?」

「本来なら死んだときに来る可能性のある場所だ」


後ろからした声に振り向くとそこには黒い服に身をすっぽりと包んだ姿があった。


「一度しか言わん、しっかり聞けよ」

「あ、はい・・・!」


綺邑の鋭い目に圧倒されつつも話しを聞くために体制を整える籐下だった。


 籐下を送ったあと、薪はふっと屈むと脱力した様子を見せた。その後儒楠のほうを向いてどうにも切なげな表情を見せた。


「さっきは悪かった・・・・変な言い方した・・・」

「ん・・・?何だよ・・・別にいいって」


あんまりの萎らしい薪の姿に面を食らった儒楠はどもりながら薪へと言葉を返す。それを受けて軽く頷くとそのままさっと立ち上がった薪の目つきは普段とは少し異なっていた。コレは・・・。


「・・・仕事か・・?」

「まぁ、仕事、というか軽く私用だが。ただ結構一刻を争う状況になり始めているんだよ・・・少し急ぐ」


薪はどこか焦ったようなどこか疲れているようなそんな表情をしながら説明を始めた。


 前にも綺邑が何かの数が地表に出たどうのと話をしていることがあったが、それはあるものの動きを綺邑によって観察してもらっていたのだ。それが『魂魄』。ここは地球だからその魂魄の多くは恐らく人間のもの。そしての魂魄を利用してあの愨夸と名乗っていた希衛という眞匏祗が何かをしでかそうとしている事は事実。


 地表に出た、とあったが、実際は綺邑が受け持つ生と死の狭間、つまりは神々の世界かあるいは死後の世界、俗に言うあの世という世界に存在するはずのもの。それがこの地球上の地表に徐々に集まりつつあるのは相当の危険信号といえる。


 綺邑がその魂魄を全て集め、あの世へと帰す作業を請け負ってくれている。ただ、綺邑だけの力ではこの量の魂魄は集めきることが出来ない。故に籐下を綺邑の手伝いに派遣した。


「人間なんか、って思うかも知れないけど・・・・。魂魄が人間である以上は相手方も人間であるほうが綺邑の力も行使しやすい。それは神々も納得しているし何より当事者の綺邑が一番わかっている」


ただ問題は、籐下という人間の集中力が何処まで持つか、ということだが。しかしそこは籐下を信じるという薪の言葉に頷くことしかできなかった。


「とにかく。こっちはこっちで出来ることをやる。根本の問題を解決しないとな。だから愨夸を見つける」

「愨夸は見つけられないよ」


突然した声に驚いてそちらを見ると小刃がそこにいた。


「愨夸、と聞こえたから耳を傾けてみたいんだが、何を話していたのかな?」

「はん。敵かも知れないあんたらに言えるかいな」


小刃の言葉を薪が否定する。そして愨夸の居場所を素直に尋ねる薪の姿に穂琥も儒楠もどこか感心すら覚えた。


「ん~・・・。お前、霧醒より強かったよな?笠來より強いか?」

「さ?やり合ったことないから知らないな。だけど強いといえる自信はある」


事実だが。それがどうやら小刃のスイッチを入れたらしく嬉しそうな顔をした。


「よし、じゃぁオレと戦って勝ったら教えてやるよ」

「武力行使、か。争うくらいなら教えてもらわなくていい。好まない」

「なんだぁ~。・・・そっちは?」


小刃は儒楠へと話の基点をずらした。儒楠はまさか尋ねられるとは、といった様子だったが小刃の質問に否定を述べる。


「生憎、オレもあんまり戦闘は好まないよ。弱いの知っているし」

「強いだ・・」

「弱い」

「・・・」


薪の横槍を無理やりへし折る。小刃はそのやり取りにどこか不満を持ったようだが仕方ないといった様子で一度穂琥を見てから視線をずらした。


「なぜそこまで争おうとする?無傷ですむほうがいいだろう?」

「それこそが全てだからさ。自分という存在を知らしめる全て。弱い奴を叩いてもそれは単なる自己満足だろう。意味ないな。強い奴を潰してこそ、自分という存在を確立するのさ。な?お前強いんだろう?やろうぜ?」

「だから・・・オレは争いは好・・」


薪の言葉を切って小刃が畳み掛ける。薪はそれを素早く避けると小刃を鋭く睨む。教室の床がひどく抉れてしまっている。小刃はその薪の反応の速さにさらに悦びを感じたらしく次いで攻撃を仕掛けようと刀を構えた。


「命令違反だぞ、無駄な争いはするな」


冷静な声が聞こえて小刃がびくっとして刀を納めた。


「すまない事をした。だが愨夸に挑もうとしているような奴が小刃の攻撃を防ごうと刀を抜かないとはどうなんだ?やる気はあるのか?」


どこか挑発されているようなその言い方に薪はどう返答するか少しだけ悩んだようだった。


「それ、答えないといけないか?」

「・・・いや、別にいいが」


派棟は少し不服そうにそう答えた。それから薪に対し、争いを好まない理由を尋ねた。薪はそれに答えようとはしなかったが小刃の催促で結局答える羽目になった。


「強いから、かな」

「ふーん?誤りはないな?」

「あぁ、ないよ。なぁ?」

「・・・・。え?オレ?!突然振るなよ」


若干ぼうっとしていたらしく儒楠が慌てて会話に参戦した。それから薪は強いということを弁護したが、どうにも曖昧にとられたらしい。


「正直オレは薪が全力で戦っているところ一度も見たことないんだよね~」


儒楠のその言葉に派棟と小刃が疑問そうな顔をした。


「なんだよ、オレはいつでも本気だぞ?」


抗議するように薪が言うが、儒楠がそれに呆れたように付け加えた。


「そらな。本気はわかるよ、ただそれが全力ではないだけだって事だよ」


その言葉に納得する薪。派棟はそれを聞いてさらに怪しげな目つきになった。それでもこれ以上話をしても無駄だと判断したらしく諦めたような表情をした。


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