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眞匏祗’  作者: ノノギ
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第一章 ○●痲臨捜索編●○ 第一話 地球に逃れた逃亡者達

 地球についてからのこの数日、良い事と言えばホテルのカウンターの女性と仲良くなったことくらいではないだろうか。そんな事を考えながらいつものように帰ってくるのを待っていた。そしてドアのノック音が聞こえて勢いよく開ける、筈だが。今日は少しいつもと違うことが起こる。


 いつものようにドアのノック音がして嬉しさで飛び上がった穂琥はドアを勢いよく開け放ち目の前に立つものを確認して一度ドアを閉める。


「・・・知らんぞ、こんなヤツ」


怪訝な表情をして穂琥は再びドアを開ける。今度はゆっくりと。やはりどう見ても知らない顔の男だった。首をかしげている穂琥にその男は少し困った笑みで尋ねたいことがあると申し出てきたので穂琥がそれを聞くことにする。


「眞匏祗、ですよね?」


男がそう言った瞬間、穂琥ははっとしてドアをバタンと閉めて部屋の奥へと走った。男は何食わぬ顔で部屋の中に入ってくる。


「逃げても構わないよ。だってここは最上階だ。逃げられない」

「あら?最上階だもの」


男の言葉に穂琥は返す。すると男は理解しかねた表情をしたが気にせずに穂琥に近寄ってくる。


 男のことなどまるで無視するように慌てる様子もなく穂琥は窓を開けた。そしてその上の淵に手をかけて外へ身を放り出した。その行為に男は舌打ちをして走り出した。穂琥を捕まえるために。


 放り出した身体は勢いと腕力で上に向かい屋上に着地する。それから辺りを見回してから追ってきた男のほうへと目を送る。


「そんなひ弱な力で俺に勝てると思っているのか?」

「え?私?無理よ!戦う力なんてもの!相手をするのは私じゃない。こいつ」


穂琥はさっと身体を翻した。するとそこには少年が着地していた。男としては辺りには一切気配がなかったためにそれの登場には至極驚いているようだった。


「はい、お願いします!薪♪」

「はいよ」


穂琥の言葉に薪が反応する。男は驚いた表情で薪を観察していた。一体何者かと尋ねてきたが薪はそれをかわした。己の正体を見ず知らずのものに簡単に明かすことなど出来ない。それだけではない。薪の身分をそう簡単には言うことが出来るわけがない。


 薪は素早く移動する。一瞬にして男の足元に身を置き男のあごを捕らえて蹴り上げる。男はその痛みで声を漏らす。相手がただの人間であればこんな横暴な真似を薪はしない。でも相手は人間ではない。眞匏祗なのだから。屈んでいるその男に薪はさっと近寄ると男の額に手を当てる。


「じゃ、向こうで頑張れ」


薪の掌から眞稀が発せられる。その大きさときたら相変わらず目を釘付けにさせられる。しかし周囲には一切漏れていないのだから本当に大したものだ。


 薪の眞稀によって男はその場からぱっと消えた。転送、といえば簡単だろう。地球から眞匏祗の世界へと返す行為。こうして地球にてこちらに敵意を向けて襲ってくるものは皆、眞匏祗の世界を追われた者たち。とはいっても決して薪が行った行為ではない。


 薪は愨夸だ。眞匏祗の全土を支配する力を有した絶大なる存在。でもそれを薪はあまりいいようには思っていない。しかしこういう時にはそういう力を大いに使わせてもらっているわけだ。


 というのも、この地球に存在する眞匏祗たちは先にも述べたが眞匏祗の地を追われた者、つまりは愨夸によって迫害を受けたことになる。愨夸によって追い出されたものは愨夸によって受け入れを受理される。薪が愨夸でなければ眞匏祗の世界へこのものたちを返すことが出来ないのだ。前代の愨夸、つまりは薪の父親が行ったことを今、返そうとしているということ。


 男を転送してから薪は一息つくと穂琥に向き直って移動のことを伝えた。


「痲臨の情報が入った」


手短に薪は言うと部屋のほうにさっさと戻っていった。穂琥もその後に続いた。移動先を聞いて穂琥は嬉しくてはしゃいだ。


「また皆と会えるんだね!?」


薪はため息混じりに笑った。


 今度移動する先は前に穂琥や薪が通っていた学校の付近。また中間達と会えるんだとはしゃいでいる穂琥を鎮圧して薪はホテルを出る準備を整えるのだった。



 ホテルを出て移動先に到着してから薪は泊まれそうなところを探していたが、穂琥の目はまったく別のものを映し出してキラキラと輝いていた。


「薪!こっち!アレが見たい!」

「は!?ちょ、待っ・・」

「こっち!」

「うわっ」


穂琥に強制的に腕を引かれ声が漏れる薪だった。別にここに遊びに来たわけではないと訴える薪ではあったが穂琥の上がったテンションを抑えるには少し弱すぎたらしく、そのまま流される薪であった。


 穂琥のゴリ押しで店に入った薪はため息をついて穂琥に付き合っていた。大抵女子という生き物が好むような場所に薪が飽きずにいられるわけもなく、半ば魂が抜けたように諦めてふらふらと穂琥の後を着いて行っていた。


「これ、どう!?」


突然穂琥が振り向いて自分の首にかかっているものを見せてきた。


「あーにあってます」

「なに、その棒読み!」


薪の反応に穂琥は少しむくれながら首にかけていたものを元の位置に戻す。さもどうでも良いと言いたげな薪に文句を言うべく振り返りその薪の肩越しに見覚えのある顔を見つけて固まった。


「・・・ん?どうした?」


その様子を悟った薪が穂琥に尋ねたので穂琥は後ろを示す。薪はそれに習って振り返る。


「し、薪!?」


後ろにいたそれは驚いた声を上げて駆け寄ってきた。


「あれ?籐下?」


久しぶりだと嬉しそうな表情を浮かべながら籐下が薪の前に歩み寄る。後ろに穂琥がいることに気がつくとにやりと笑う籐下だった。


「何だ?薪、穂琥ちゃんとデートですかい?」


「あるわけねぇだろ」


嫌そうな軽蔑したような、そんな顔をしながら籐下に言い放ったその言葉に籐下は苦笑いを浮かべた。


「おーい、籐下!先に行くなんてひど・・・あれ!?」


籐下を追いかけてきたもう一人が籐下と同じ様に薪と穂琥を見て驚く。


「獅場!薪と穂琥ちゃんだよ!久しぶりにこっちに帰ってきたみたいだ!」

「ぅおっほぉ!?そうだったのか!久しぶりだなぁ~!」


薪と穂琥が学校に通っていた時、同じクラスだった籐下と獅場。薪と籐下、獅場は久しぶりの再会を噛み締めていると、ふと気づいたように薪が穂琥の所在を確認した。


「あれ?」


すぐそこにいたはずの穂琥がいないので辺りを見回して籐下が出口付近に既に移動済みだということを伝えると薪の表情が凍った。それに籐下も獅場もぞっとして笑みのまま固まってしまった。


「勝手に出歩くなって言ってあるはずだけどぉ?」

「す、すみません!!」


薪の叱責をみて籐下はふっと眉を寄せた。


 旧友と出会って穂琥のテンションも最高潮に近づき楽しそうに歩いているのを薪は呆れてみていた、が。突然表情を険しくして足を止めたので籐下も獅場も足を止めて薪の様子を窺った。


「どうした?」

「大丈夫か?なんかあったのか?」


二人の質問に薪は答えなかった。その代わりその険しい表情のまま穂琥の腕を鷲掴みして駆け出してしまった。置いていかれた二人は呆然としながら顔を見合わせた。


 腕を引っ張る薪に文句を言う穂琥を無視し続ける薪に流石の穂琥も抵抗を見せる。引く薪の手を振りほどいて額に力を篭める。


「なにするの!二人がいちゃダメだっていうの!?」

「お前は一回、頭を改良しなさい!」


警戒の色を載せたまま薪が言う。穂琥はそれを言われて初めて薪が走り出した意味を考えた。そしてふっと自分に対する殺気に似た眞稀を感じ取ってぞっとした。人がいてはそれらに危害を及ぼす可能性があるから薪は走り出したのだ。


「人気がないところまで移動するぞ」

「う、うん!」


薪に言われて穂琥も全力を以って走り出した。


 誰もいない寂れた公園で薪は足を止めた。穂琥は軽く息を上げて辺りを警戒した。


「出て来いよ」


挑発するような薪の言い方にどこからともなく笑い声が聞こえた。周囲に反響して響くその声はどこからしているのかわからなかった。


「姿を晒す気は無いですね」


丁寧な言葉とは裏腹にそれに篭められた感情はまるで嘲り。薪の表情が警戒の色をなくした。


「そうか。余分に眞稀を使ってオレに勝てると思うなよ」


薪の言葉に未だ姿を見せない眞匏祗は嘲笑う。しかし穂琥は内心で思うのだ。どんなに全力を出しても勝てる気がしないと。


 そうこう考えている間に薪が穂琥の視界から消えた。別に驚くことじゃない。薪なら普通のことだ。しかし相手のほうはそうでもないらしく驚いた雰囲気を醸し出していた。姿が見えないと高を括っていたのが間違いだ。薪なら眞稀を感知してどこに隠れているかなどすぐにわかる。そんなわけで簡単に引きずり出して薪は男を蹴り上げる。


「オレをやるつもりで来るのなら別にそこまでするつもりは無いけれど、穂琥を狙っているって言うなら話は別だ。少し、本気を出させてもらうよ」


地面に叩きつけられた男はうめき声を上げる。しかし別に薪に蹴り上げられたことであげたわけではない。むしろ蹴られたというのに痛みなどどこにも無かったための疑問の呻き声だ。


「まぁ、傷付けやしないよ」


薪のその言葉にどうやら甘く見られていると怒りを覚えたらしくその男は薪を鋭くにらみつけた。


「わかった、いいでしょう。貴様の言ったとおり本気でくとしましょう」

「来い」


男の言葉に対して薪は身体を半身にして右手を前に出して構えを取った。その態度に男は怪訝そうな表情をした。


「先程までとは違うのがわからないのですか?」


姿を隠すために使っていた眞稀を解除して攻撃のほうに注ぐ事でその力を増大させる、のだろう。そういうことだとは思うが、穂琥には全くそれがわからなかった。きっとそれを露見したら殺されるかもしれない、薪に。そんな事を思っていると薪は男の言葉に答えて姿を変えると言い、話を進めていた。姿を変える、といっても別に鬼のように形相が変わるというわけではない。服装の転換といったほうがきっとわかりやすい。普段は地球に住んでいる人間と同じ、つまりは洋服を身につけているがこういう戦闘においては眞匏祗としての服装でなければ戦うにも戦いづらい。


 そもそも服装の転換はただ単に動きやすいとか慣れているとかそんな小もないことではない。普段、地球にいるときは地球の服装に合わせるのはまぁ、当然のことだろう。しかし、その地球での衣服の場合は制御が大幅に成されている状態になる。つまり、服装の転換をすることでその制限している力を解放するということだ。ちなみにこの服装の転換、つまりは力の解放を替装ていしょうと呼んでいる。そうやって替装によって眞匏祗の世界にいるときと同じ格好をすることで相手を熨す力を有するのだ。


 そうして薪が替装を終えてふっと落ち着いたのを見て穂琥は自分の目を疑う。普段、眞匏祗の世界にいるときに着ている服装ではない。そのことを疑問に声を漏らすと薪が凄まじい勢いで睨んできて穂琥は苦笑いをして身を引くのだった。


 男が勢いよく薪に刀を振り下ろした。薪はそれを後ろに飛び跳ねて避けると舌打ちをした。


「いきなり突っ込んでくるなよな」

「そんなに甘くは無い世界でしょう?それに貴様、替装したにも関わらず力に変化が無いではないか?もとより弱ったのですか?それなのにあんなに豪語するとは愚かですね」


男の言葉に薪は僅かに嘲るように笑った。その笑みに男は酷く怒りを覚えたようだったが薪の次の行動にその怒りも一気に冷めるのだった。


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