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魔王も学校も大嫌いだ。  作者: えにぐま
0.始まりによる終わり
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プロローグ of fast

 人生というのは時に不運で幸運で。そんな二つの繰り返しである。たしか、絶対的な運を持っている者がそんなことを言っていた。

 そうならば、俺にとって今現在は不運か幸運か。たぶん前者であろう。

 AC学園。全生徒数100万にも達する異常な学校だ。ま、魔技を作る者に扱う者が揃えば生徒数なんてそんなものになるらしいが。

 ともあれ、そんな異常な学校に入学してしまった俺は不幸であると言いたいわけである。


「はぁ…」

「ため息をつくと女運が逃げていくと聞きますが」

「元からないだろ」

 ルクレール・ウサミ。それが俺の名前…だったりするのだが。

 何かが間違えている気がしてならない。そんな風に思っている者が多いだろうがこれで正常なのだ。

 俺の母、と言っても”育ての”が付いてしまうが…まぁ、その母-宇佐美うさみ 順子じゅんこは俺が5,6歳の頃に俺を養子にと申し出たそうだ。

 昔はどうか知らないが、今現在において魔王の子供は養育施設という名ばかりの実験施設で管理されている。養子は受け付けているがそれを行ったものは俺の母以外知らない。ま、その実験施設の決まりで名前はそのまま使うこと、なんていうふざけた決まりのせいでこの名前になってしまったわけだ。

「…マスター、男運もないですね」

「要らんな、その運」

 そしてさっきからうろちょろと俺の周りを飛び回り、話しかけてくる妖精のような姿をした監視員-Code Number002ことイヴは文字通り俺の監視をするためにここにいる。赤い髪に赤い羽根を羽ばたかせてうろちょろする落着きがない奴だ。そして、疲れると俺の頭や肩に乗る癖があったりする。

 イヴの目的は俺の身体の監視。つまりは健康状態チェックである。俺の手首に巻かれた白いブレスレットによって俺の心拍数や血中酸素濃度なんてものを計ったり、感覚リンク魔法とかいうふざけた物で俺の見たもの聞いたことなどを知ることが出来る。そしてそれを録音、録画出来たりするわけだ。

 まぁ、一番異常な機能はその性格である。

 イヴみたいな人工知能を持たせた魔技はある一定以上普及している。この学園の3割程度は持っているはずだ。ただ、そのほとんどは無駄なことは喋らず機械的である。逆にそれがいいとほざいている馬鹿もいたりするが、今はどうでもいい。

 イヴのように無駄口を叩く魔技は世界で3体しかいないらしい。試験体であったCode Number000と第一実用機であったCode Number001、後はイヴである。ともあれ試験体の000は消息不明、001は盗まれ闇市場に出回っていると噂がある。ともあれ、無駄口を叩く魔技はイヴだけ場所が分かっているという状態である。

「それで始業式には出ないのですか」

 魔技作成実験施設付近の木陰(始業式の現場から一番遠い場所)で休んでいるというのに出るわけがない。

「出ないな」

「そうですか」

 イヴは俺の周りをくるくると回りながらトンボが木の枝に止まるように俺の頭の上で着陸しそのまま座った。

「先ほどから私が何をしているのかご存じで動かないのですか?」

「動いても追跡されるだけだろ。それにこねぇよ」

 イヴはそうですか。とだけ言い頭から降りて肩に乗った。ばたばたと足をばたつかせて暇だと訴えてくる。

「あーはいはい。動けばいいんだろ」

 俺はそのまま立ち上がって場所を変えることにした。実験施設から数m離れた所にカフェがある。生徒数100万であるこの学校は一つの街としてその存在を成している。先生や事務員、その他運営を行うものなどを含めると400万程度の大都市となる。ま、そんなわけで始業式中でも活動している店というのは存在する。

 実際、疲れるだけの始業式をサボる者は少なくない。出席を義務付けられているのは1年だけである。ただ、卒業を控えた3年などは出ることが多い。つまり、サボるのは2年である。

 と、そんな学校事情はどうでもいいことではある。流石にサボってカフェでお茶なんてしてる奴なんているはずがないからだ。大抵のものは家だとか部室何かで引きこもっている。

カランカラン

 カフェに入るとレトロという感じが似合う鈴の音が聞こえた。内装も茶色をメインに古めかしい感じのいかにも雰囲気のあるカフェである。カウンター…なのかは分らないがその付近にいる給仕であるギャルソンが「いらっしゃいませ」と頭を下げた。

 ギャルソンが頭を上げた後で俺の姿を見たのか少し驚いて席へ案内された。男が一人でカフェに来たことか、魔王と類似する容姿にか、周りで飛び回っているイヴに驚いたのかは俺には判断することは出来なかったがあまり歓迎されてはいないことは分かった。

「さて」

 カフェになど来ることなどない俺にはメニューを見て即座に決められるような即決力は持ち合わせていない。とりあえずといった物を選ぶのがベターな選択だ。時間的にもサンドイッチとブレンドコーヒーあたりがいいだろうか。後はイヴ用に焼きプリンか。

 などと考えているとイヴが机の上に座って一方だけを熱心に見ていた。

 そんなに欲しいものがあるのかと思いながらもそちらを向くと異質な光景がその場に出来上がっていた。ぼさぼさの髪をきにすることなく、作業着のままで数十皿はあるだろう料理の山を胃の中に収めていく一人の女性の姿が…そこにはあった。

「あ、すみませーん。クリームパスタと五目チャーハン追加で」

 まだ頼むのかと感心して見ているとイヴが「マスター」と呼んだ。

「学園内でそんないやらしい目つきで女性を見ていると公然わいせつ罪で捕まります」

「捕まらねぇよ!?つかそんな目で見てねぇよ!」

 イヴは満足そうにニヤニヤとこちらを見ている。まぁ、しまったと思うよりも先に不幸というものは訪れてしまうもので。

 ドンという音と共に不幸は俺の元にやってきた。

「ふぃみふぁわふぁふぃ-」

「とりあえずその口の中にあるものを片づけてから喋ってくれ」

 先ほどまで別のテーブルでいた暴食女は俺のテーブルまで足を伸ばしてきた。手には大盛りであろうピラフかチャーハンか分からないものを持って。

 女性の髪の色は金色でぼさぼさでありながら煌びやかに光っている。元はストレートか後ろで束ねたポニーテイルということが髪の癖で分かった。ま、ぼさぼさ過ぎてどちらかは分かりかねるが。そして、研究者らしくメガネを…かけてはいなかった。

 それはそうと、女性は別に食べることを止めることなく大盛りであったピラフを平らげようとしていた。俺と話がしたかったんじゃないのか、と思いつつも変な人に絡まれたと複雑な気持ちで食べるのを見ているといつもの通りにイヴが絡んでくるはずだ。

「絡みませんよ?」

「人の思考を読むんじゃねぇ」

 申し訳ありません。とイヴは言うと羽ばたいて俺の頭の上に乗った。飛んでくる米が嫌だったようだ。

 それから数分後。というかあの量を数分で片づけられるこの女性が恐ろしいのだが突っ込まないことにしよう。

「失敬失敬。ここ最近まともな食事を取ってなくてねぇ」

 女性は口の周りをハンカチでぬぐった。こういうのはレディの嗜みだ。とかどこかの誰かが言っていたがこの女性にそんな物があるとは到底思えない。

「さて、本題に入りたいのだが-」

 女性は目を鋭くして俺を直視する。それは蛇に睨まれているような鋭いものだったがなぜか慣れてしまっている自分がいる。慣れというものは恐ろしい。

「-君が”名だけの魔王”だな」

 ”名だけの魔王”この学校では一年の最後に実践訓練としてトーナメント形式の戦闘に全生徒が招待されたりする。その戦闘において俺は色々とやらかしてしまったわけで…そんな名が付いてしまっている。

 と、回想に浸っている場合ではないので女性の返答として首を縦に振った。

「ふふふ、私もアレを見たが中々にヘタレて面白かったぞ」

「そりゃどーも」

 別にヘタレてたわけじゃないんだがなーと言っても相手にされないことは分かっているので諦める。

「まぁ、実は君のことは夏くらいには知っていたんだがな?」

「…」

 あぁ、そうか。この人は。

「察しが早くて助かる。じゃあ頼むよ、君の一年間の報告を…さ」

 女性はにっこりと笑うとギャルソンを呼んで追加注文したものの催促をした。

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