プロローグfrom NEXT END
俺は魔王、であるらしい。
その昔に魔王が大暴れしていた時代があるらしい。が、今は昔のなんとかってやつで今では魔王なんて名だけの存在になり下がってしまっている。
魔技システムと呼ばれる…まぁ、ただの武器に魔力コンバートさせて強力な武器に変える仕組みが出来上がってからは魔王は狩る存在になってしまったらしい。
あ、といっても世界のほとんどの魔王が消息不明か消失してしまったらしく会う機会など全くと言っていいほどにないが。会うとすれば俺のように幼少の頃から”人に飼われている”者だけだ。
そして現在。俺は何の境遇なのか、または何の嫌がらせなのかその魔技を作る武具錬成学校、そして魔技を使う修錬生訓練学校の二つの顔を持つ学校に所属している。
名は…B(Berka)C(Conoment)学園とかなんとか。人の名前が由来の学校名らしいが詳しくは知らない。
「独り言はお済ですか、マスター」
不意に声が聞こえた。空耳だ。無視するのが妥当な判断と言える。
「無視ですか。仕方有りません、マスターが隠し持っている秘蔵映像を学校中に晒してくるとします」
無視だ。そんな物を隠し持っている記憶などないのだから。
「…私はマスターの見たものを全て映像化出来ることをお忘れではないですか」
「…お前、本当に魔技とは思えないほど人間じみてるよなぁ…」
「恐縮です」
褒めてねぇよ。と突っ込みを入れつつ俺は目の前に居る小さな小さな妖精のような監視員を見た。
魔技というのは何も武器だけではなく機械、特にこういう何かを観測させるための機械にもその技術を使う。そうするとあら不思議、なぜか話せるようになったではないか。というのは嘘のようで本当の話なのだ。で何故そうなるのか、不具合は出ないのかなどと色々分かっていないことが山積みだそうだ。
ま、そんな事とは関係なく学問やら技術っていうのは進歩していく。進歩した結果が目の前にいるこの小さな妖精というわけなのだが…。
「失礼なことをお考えではないですか?」
「いや、小さいなとしか考えてない」
「そうですか、てっきり欲情したのかと」
「お前は俺の心拍数とか見てるものが分かるんだろうが…」
「…日々欲情されると困ります…」
「いや、もういいよ」
俺はため息をついてその場に寝っ転がった。修練場のすぐ近くの木陰で空を見ながら思った。
「平和だなぁ」
「…マスターはドMなのですか」
時たま、この妖精が考えていることが分からなくなる。そんな日々すら平和で、凡庸なただの名無しの魔王の記録された一日にすぎないのだ。そして今日も平穏な日々は-
「おーい」
-壊されるものである。
「…」
「マスター、呼ばれてますが」
「いや…空耳だろう。俺に話しかける生徒などいる筈がないだろう」
「2,3人ほど知っているのは私の記憶違いでしょうか」
そうだ。という前に声の主は近くまで走ってきたのか息を切らしてズイと黒い箱のようなものを差し出してきた。
「昨日…っ完成し…たんだ」
とりあえず落ち着いて息を整えろ。とは思ったが無視することにした。
「これで君も魔技が使えるはずさ!」
そのセリフは聞き飽きた。という俺の内心を読み取ったのか近くを飛び回っている妖精がはぁ、とため息をついた。
ついでに言っておくと魔技は強力故にリミッターと呼ばれる制限機をつける。でないと使用者の魔力が暴走して爆発。酷い時は死んでしまうらしい。だから、リミッターの研究開発というのは真っ先に行われ、今となっては研究が完全に終了している学問だったりする。が、なくてはならない物ではあるため学問自体はなくならない。
そして…俺みたいな異常な魔力を有した使い手に合うリミッターなど市販されているわけもなく2年で唯一の魔技を持たない生徒となってしまっている俺がここにいる。
それでだ。リミッターを専攻している者としては俺みたいな存在に合うリミッター開発という名目で研究を始めた生徒も出る始末。そして、先ほど走って来たのは同学年のリミッターを専攻している生徒だ。
「あのだな…今までそれに騙されて何度死にかけたと」
「今度は大丈夫だから!」
顔の近くに黒い箱を差し出してはさぁ、さぁ!と急かしてくる。
あぁ、また暴走するんだろうな。と思いつつも手に取ってしまうあたり、俺はお人好しなのかもしれない。いや、押しに弱いだけなのか。
「さぁさ!修練場へレッツゴー!」
袖を引っ張られながら修練場へと誘導されていく。後ろからはゆらゆらと妖精がついてくる。
日常っていうのは慣れるものだと教わったが、どうにもこの学校は慣れそうにもない。