表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

十一話「どうせなら住みやすく」


 村への道中、互いに簡単な自己紹介をした。


「儂はソフィア。ハーフドワーフの鍛冶師じゃ」

「ハーフ?」


 思わず聞き返す。

 言われてみれば、ドワーフにしては背が高い気がした。

 それでも小柄ではあるのだが、ゲームなんかで見るドワーフよりかなり細い。


「母親が人族なんじゃ」

「へぇ……」


 だからか。

 耳もそこまで尖っていないし、見た目は小柄な少女に近い。


「純血ほど力も出んし、背も中途半端じゃがな」

「いや、十分強かっただろ」

「どこがじゃ。岩狼(ロックウルフ)に追い回されとったのに」

「最後まで戦ってただろ?」


 あの状況で逃げずに踏ん張っていた時点で大したものだと思う。

 ソフィアは少しだけ目を丸くした。


「……変な所で褒めるの」

「そうか?」

「で、お主の名前は?」

「俺はカイトだ」

「人族なのにドワーフみたいな格好をしとるんじゃな」

「そうか?」


 俺の格好って、ドワーフの服装に近いのか。

 いや、確かに似てるか。


「………」

「どうした?」


 急にどうしたのだろうか。

 こちらを見たまま思案顔になる。


「いや、なんでもない。それよりアレかの?」

「ん? ああ、アレだ」


 話している間に、見慣れた廃村が近づいてくる。


「ほんに、こんな場所に住んどるのか?」

「そうだが」


 ソフィアが呆れたように呟く。

 その目は村全体へ向けられている。

 何となくだが、ただ廃墟を見ているだけじゃない気がした。

 ドワーフって、鍛治だけじゃなく建築にも強い種族だったはずだ。

 建物の状態を確認しているのだろうか?


「ぬう………」


 傾いた柱、崩れた屋根、ひび割れた壁。

 ソフィアは一つ一つ観察するように視線を動かしている。


「マジの廃村ではないか」

「そう言っただろ」


 半ば引き気味に言いながらも、ソフィアは周囲の観察をやめない。

 俺は苦笑しながら、よろず屋跡地へ向かった。


「ここが今の拠点だ」

「……よろず屋、か?」


 ソフィアが目を細める。

 看板は半分崩れ、壁も傷んでいる。

 それでも他の建物よりは状態が良く、雨風は十分防げていた。

 瓦礫を押し除け、店内へ入る。

 棚、木箱、藁を積んだ寝床、壁際へ寄せた荷物。

 一応、生活感はある。


「…………」


 だが、それを見たソフィアが無言になった。


「何だよ」

「お主、本当にここで寝泊まりしとるんか?」

「してるけど?」


 ソフィアは藁の山を見る。


「それ、寝床ではなく藁置き場では?」

「ちゃんと寝れるぞ?」

「腰を壊すわ」


 即答だった。

 肩の上でスノーが「にゃっ」と鳴く。


「しかも床板浮いとるし、柱も歪んどる……」

「生き延びるので精一杯だったんだよ」


 転生してまだ数日だ。

 むしろ頑張った方だと思いたい。

 ソフィアは呆れたように溜息を吐くと、店内を歩き始めた。

 壁を叩く、床を踏む、柱を見上げる。


「……ふむ」


 真面目な顔だ。


「建物自体はまだ使える。じゃが、長くは持たんの」

「……やっぱそう見えるか」


 俺も前から気にはなっていた。

 床板は所々浮いているし、柱も微妙に傾いている。

 屋根も一部傷んでいて、雨が続けば怪しい場所が何ヶ所かあった。

 今すぐ崩れる程じゃない。

 だが、長く住める建物じゃないのは分かっていた。


「補修だけでは厳しい」

「だよなぁ……」


 俺は天井を見上げる。


「その内どっか駄目になりそうなんだよな」

「素人でも分かるレベルじゃ」

「やっぱりか……」


 何となくは思っていたが、はっきり言われてしまった。

 その時、ソフィアの視線が部屋の隅で止まった。


「……ん?」


 積み上げられた鉱石類。

 鉄鉱石、銀鉱石、洞窟で回収した素材。

 その中でも、異様な存在感を放っているのがミスリル鉱石だ。

 薄暗い室内でも、淡い白金の光を発している。

 さらに、その隣。

 赤黒く存在を主張する巨大な結晶、女王核石。


「…………」


 ソフィアがゆっくり近付いていく。


「……これ」


 恐る恐る、ミスリル鉱石へ触れる。

 指先が僅かに震えていた。


「本物、なのか……?」


 掠れた声だった。


「やっぱ、そうなるよな」


 俺がハマっていたゲームでも、ミスリルは定番の希少金属だった。

 軽く、硬く、魔力伝導にも優れる。

 大抵の作品では『高級装備枠』の素材だ。

 オリハルコンやアダマンタイトみたいな、更に上位扱いの金属も知ってはいる。

 だが、それでもミスリルが別格なのは変わらない。

 まして実物だ。

 こうして目の前へ積まれている光景は、未だに現実感が薄かった。


「ドワーフの鍛冶師なら、一度は夢見る金属じゃ」


 ソフィアは目を離せないまま呟く。


「こんな純度、里でも滅多に出回らん」


 その声には、隠しきれない熱が混じっていた。

 次に視線が向いたのは、女王核石だった。


「しかも高純度の魔核まで……」

「偶然、拾った」

「拾ったで済ませるな!!」


 即座に怒鳴られた。


「国宝級じゃぞ!?」

「マ、マジで?」

「マジじゃ!!」


 ソフィアは頭を抱える。

 まさか、国宝級とは………まあ、かなり激戦だったからな。

 そのくらいの価値はいくか。


「何なんじゃお主……」

「う、運が良かったんだよ」


 女王核石については誤魔化すしかない。

 正直に言うと、洞窟崩落の原因が俺だとバレる。


「豪運にも程があるぞい…」


 ぶつぶつ言いながらも、ソフィアの目は完全に職人のそれだった。

 素材を前にした鍛冶師の目。

 その時だった。


「にゃ〜」


 スノーがミスリル鉱石へ前脚を乗せた。


「あ、スノー! 傷付くかもだから」

「にゃふ」


 慌ててスノーを持ち上げる。


「くく、お主でも慌てる事があるんじゃな」

「そりゃあるさ」

「まあ、安心せい。傷が付いたくらいで価値は落ちん」


 ソフィアの言葉でホッと安心する。

 そんなソフィアは俺とスノーのやり取りを見てくつくつと笑う。

 改めて店内を見回す。


「……これだけの素材があるなら、ちゃんとした拠点を作った方が良いの」

「だな」


 今までは寝る場所さえあれば良かった。

 だが、ミスリルまで手に入った今、この建物に保管し続けるのは普通に怖い。


「補修しても、結局どっか駄目になりそうなんだよな」

「その通りじゃ」

「なら」


 俺は軽く肩を回す。


「いっそ建て直すか」

「む?」


 ソフィアがこちらを見る。


「この建物を?」

「ああ」


 探索して、素材集めて、拠点を作る。

 考えてみれば結構面白そうだ。


「どうせなら、ちゃんと住みやすくしたいしな」

「……嫌ではないんじゃな」

「むしろ嫌いじゃない」


 俺はその辺へ落ちていた木の枝を拾う。

 そして地面へ線を引いた。


「ここを入口にして」


 一本線を書く。


「こっちが作業場」

「ふむ」

「炉はここ」


 さらに線を追加。

 作業場と炉は広めに取る。もしソフィアが残ってくれるなら、その方が使いやすいだろうし。


「鉱石置き場は隣」

「……炉のすぐ横か?」

「近い方が運ぶの楽だろ」


 ソフィアが顎へ手を当てる。


「確かに動線は悪くない。じゃが、鉱石粉や熱が流れ込むぞ?」

「換気はちゃんと作るつもりだ」

「そこまで考えとるんか……」


 次の線を書き足していく。


「寝床はこっち。炉から少し離す」

「え? 何故じゃ?」

「火事防止」


 ソフィアが目を丸くした。


「……そこまで考えるのか?」

「いや、普通だろ?」

「普通じゃないから言っとるんじゃ」


 ソフィアが地面を指差す。


「作業場、収納、寝床……全部移動しやすい位置になっとる」

「動きやすい方が楽だからな」

「何故そんな発想がポンっと出てくるんじゃ?」


 ソフィアは驚いているのか、目を見開いて俺をみている。

 真正面から感心されると、なんとなく落ち着かない。

 俺は照れ隠しに鼻の頭を掻きつつ答える。


「ま、まぁ、前の仕事で見てたし」

「職人だったのか?」

「まぁ、似た感じのな」


 設計士ではない。

 ただ、使いにくい現場がどれだけ面倒かは知っている。


「使いやすい形ってのは、何となく分かる」

「……なるほどの」

「あと、ここ」


 俺は図面の端を指差した。


「炉の近くに小部屋作れないか?」

「資材置き場ならもうあるぞ?」

「違う。冷やす部屋」


 ソフィアが眉を寄せる。


「……何じゃそれは」

「鍛冶って熱いだろ。作業終わった後に身体冷やせる場所あれば楽じゃないか?」

「冷やす……?」

「もし、冷気を発する石とかあれば即席の冷蔵庫みたいになるし」

「冷気を発する石と言うと『氷結石』じゃな」

「お、あるんだな」


 一瞬沈黙。

 ソフィアが図面を見る。

 また俺を見る。

 もう一度図面を見る。


「……お主」

「ん?」

「妙な所だけ生活力が高いの」

「前の仕事でも夏場は休憩所無いと倒れる奴いたしな」

「…………」


 返事が無い。

 見るとソフィアは妙な顔で図面を見ていた。


「ドワーフは基本そのまま酒飲んで寝るが……」

「まあ、要らねえなら作んなくても良いぞ。でも次の日具合悪くなってもしらねぇからな」

「おい、待て。何故、ドワーフの欠点を知っておる?」

「欠点?」

「儂らドワーフは鉄を打った次の日は動けんのじゃよ」

「…熱中症だろソレ」

「ねっちゅーしょー?」

「病気の一つだ」

「なんじゃと!?」

「取り敢えず、騙されたと思って追加しとけ」


 ソフィアは納得いかない顔をしていたが、俺の指示に従う。


「それと、鍛冶場の隣だか台所を追加しておくといいぞ」

「台所?」

「飯作る場所」

「それは知っとる」

「間に小窓作れば便利だろ」


 ソフィアが止まった。


「……小窓?」

「作業中って手離せない時あるだろ? 飯だけ渡せれば楽だ」


 前世でも現場はそんな感じだった。

 忙しい時ほど、すぐ飲める水や飯が近い方が助かる。


「鉄を打っとる最中は飯なぞ食わんぞ?」

「それで集中力が続くのか? 間に飯を挟んだほうが、良い物ができるんじゃねぇか?」

「___!」


 そう伝えると、目を見開いて驚くソフィア。

 そして感心した様な表情で呟いた。


「儂らはなカイトよ。良い鉄を打つ為なら寝る事も食う事も削る」


 指先が小窓の位置をなぞる。


「じゃが、お主は先に『作る者』の身体を考えるのか」

「壊れた職人は、良い物を作れんだろ」


 何気なく返した言葉だった。

 だが、ソフィアは何処か心当たりがあるのか頷いた。


「………そうじゃな。ほんに、その通りじゃ」


 そして、改めて地面に書いた図面に視線を落とす。


「しかし、風の流れまで考えておるとはの…」

「煙くなるのは嫌だろ?」

「カイトよ、ドワーフはそれが『日常』なんじゃよ。じゃからさっきの冷やし部屋も含め、その発想に驚いたんじゃ」


 そう言って嬉しそうに笑う。


「なはは! うむ、なんかじっとしてられんくなってきた!」


 すると、ソフィアにも熱が入ったのか、目の色が変わった。

 新しい発想に触発されたようだ。


「木材、石材、鉱石、氷結石……やる事は山ほどあるの!」

「探索のしがいがあるな」

「普通の人族は素材集めは嫌いじゃと聞くが?」

「俺は好きなの!」


 そう言うと、ソフィアは小さく吹き出した。


「変な奴じゃの」

「全く、失敬な」


 そう言って冗談混じりにツンと顔をそらすと、その反応がツボだったのか、ソフィアは声をあげて笑う。


「くく、なはははははっ! 良い! 良いぞカイトよ!」


 なんで笑うんだ。

 素材集め良いじゃないか。

 どうせなら住みやすくしたいだろ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ