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星屑拾いのステラ ~文明が崩壊した終末世界。楽園を探す少女は、今日も[星屑]を拾う~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
:第三章 「遭遇」

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・3-7 第27話:「自由の味」

・3-7 第27話:「自由の味」


 終始上機嫌な様子のステラに案内された[家]。

 上から見下ろした時の光景からすでにわかってはいたが、それは、あまりにも粗末なものだった。


(これじゃ本当に、掘っ立て小屋ね……)


 導かれるままに屋内に入り、外観だけでなく内部まで確かめたカナエは、その惨状に口をへの字にする。

 壁も柱も屋根も、あり合わせの材料で作られたつぎはぎ。細かな隙間や穴などは探そうと思えばいくらでも見つけることができる。

 それだけでなく、床も一部しか張られていなかった。おそらくは寝床に使っていると思われる場所だけ廃材が敷かれており、他は土間になっていて、砂地がむき出しだ。


(これじゃ、お掃除してもどうしようもないわね)


 職業柄、この状態から清潔で快適な居住空間になるまで清掃するには、どんな手順で、どれほどの手間と時間がかかるのかをざっくりと計算しようとしてみたが、途中でさじを投げざるを得なかった。

 過去の文明世界を知っている者の基準で[快適]と呼べる状態にするためには、根本的に小屋ごと建て直した方が手っ取り早かったからだ。


「それじゃ、お姉さんはここで休んでて! ここね、[じぃじ]が寝てた場所! 特別に使わせてあげるね! 」

「あら、ステラ。ここにはあなただけではなく、大人の方もいらっしゃるのですか? 」

「んーん。今はいないよ? じぃじ、一年前に死んじゃったから」


 もしかするともっと詳しい話のできる大人がいるのかもしれない。

 そう思ってたずねたのだが、さっと曇った少女の表情を目にしたメイドは、そうしたことを酷く後悔していた。


「ゆっくり休んでね! あ、お水、飲みたくなったら、外に給水機があるから。大きいからすぐに分かると思う」

「は、はい。ありがとうございます、ステラさん。ところで、貴女はどこかへ行ってしまうのですか? 」

「もちろん、星屑拾いに行くんだよ! 」


 にかっ、と屈託なく笑うと、ステラは小屋の中からぼろ布で作ったリュックのようなものを持ち出し、元気に駆け去って行ってしまった。

 悪いことを聞いてしまったかな、と、謝った方がいいのかと思っていたカナエだったが、そうする暇もない。


「う~ん。とにかく、少し休ませてもらおうかな」


 ほしくずひろい、というのがどういうものなのか、メイドにはまだわからなかったが、足場を下りてくる際に主に精神的に激しく疲労していたため、ありがたく横にならせてもらうことにした。

 埃っぽいマットを手で払い、払い、払って、どんなにやってもきれいにはなりそうにないと観念した彼女は、その上にぼすんと寝転がり、穴だらけの屋根を見上げる。


「どうしよう……、あたし」


 生き延びたのは幸運ラッキーだったが、途方に暮れる他はなかった。

 目覚める前の世界は彼女にとっては紛れもなく地獄だった。しかし、目覚めた後のこの終末世界も、どうやら過酷な場所のようだ。

 だが、少なくともここには、かつての自分が欲しくてたまらなかった、[自由]はありそうだった。

 目覚めて、働きに行き、[上流階級ロクデナシ]たちにへこへこと頭を下げ、そしてまた、冷凍睡眠ポッドに戻って来る。

 そんな生活。

 いつか借金を返済し、本当の意味で自分自身の人生を歩むことだけが、生きる目的となっていた日々。

 ———もうここには、金持ちも、企業も存在しない。

 そもそも軌道上居留地自体が木っ端みじんに破壊されてしまって、宇宙空間に漂っているか、地表に墜落して朽ち果てていくだけとなっているのだ。

 世界はどうしようもなく壊れてしまってはいるが、自分を縛っていたモノもまた、失われた。

 今のカナエには、これからどうしようかと、途方に暮れることができる。

 誰かに命じられるまま、拒否権もなく働かされることもない。

 その一方で、自身の選んだ結果がどうなるのか、その運命は受け入れなければならないだろう。

 すべては、自分次第。

 自分がどうしたいかで決められるし、決めなくてもいい。ただし、その結果に文句を言うことはできない、そんな世界。


「ずっと眠っていたはずなのに……。おかしなの」


 寝返りを打ち、左半身を下側にして横向きに寝そべりながら微笑んだカナエは、黒い厚縁の眼鏡をはずし、つるを丁寧に畳んで枕元に置くと、まずは睡眠を楽しむという自由を満喫することにしてまぶたを閉じていた。

 こんな風に、人間らしく[眠る]のなんて、いつぶりだろうか。

 まだ学校に通わされていた時以来だろうか。あの時は、自分と同じような境遇の大勢の子供たちと一緒に[寮]に集められ、カプセルホテルのような場所で暮らしていた。

 せいぜい寝返りをうつことしかできない、まるで棺桶かんおけの中に閉じ込められているような狭い空間。

 それがカナエにとっての居住空間のすべてであり、安らげる場所だった。

 その狭苦しさが、懐かしいような気さえする。

 あの場所で読書をすることが好きだった。誰にも邪魔をされず、現実を忘れて、空想の世界を思う存分に楽しみ、時折、自分ならばああしてみたい、こうしてみたいと、想像の翼を羽ばたかせる。

 携行型ディスプレイの見過ぎで視力が悪くなってしまったが、当時の自分は、どうせ目が良くても、金持ち連中に「売ってくれ」とせがまれるだけだからと、気にも留めていなかった。

 しかし、こうなってみると、少し早まってしまったかなとも思う。

 せっかくなにも束縛されることがなくなったというのに、自身の肉眼で目の前の世界を見ることができないのが、少し残念に思えたのだ。


(これが、自由の味……)


 今さら過去の行いを悔やんでもどうにもなりはしない。

 だが自分には、悔やむか、悔やまずに前に進むかを決めることのできる、[自由]がある。

 そのことがなによりも嬉しく、カナエはどこか幸福な気持ちで、久しぶりの、本物の眠りに落ちて行った。


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