・2-9 第19話:「内部」
・2-9 第19話:「内部」
今までまったく開く気配などなかったのに、どういうわけか、突然開いた隔壁。
その向こう側、[星屑]の内部は真っ暗で、無限の空間が広がっているのかと思える程に見通しがきかなかった。
しかし、散弾銃をかまえたステラが、そろり、そろりと、半歩ずつゆっくりと近づいていくと、扉が開いた時と同様に突然、一斉に明かりが灯った。
「わへぁっ!!? 」
彼女はまた素っ頓狂な悲鳴をあげ、ひっくり返って尻もちをつく。もし引き金に指をかけていたら、貴重な弾薬を暴発させて無駄にしてしまっていたことだろう。
明かりがついた時にどこかから電子的に合成された女性の声でなんらかのアナウンスがなされていたから、ちゃんと聞いていればどうして明るくなったのかもわかったかもしれない。しかしその声は少女があげた悲鳴で打ち消され、よく聞き取ることが出来なかった。
「う、う~っ……」
尻もちをついてしまった痛みで眦に涙を浮かべつつ、ステラは銃をかまえ直し、危険がないかどうか、視線と銃口をそろえて向けながら確かめる。
外部がこれだけ頑強なのだから、内部にもきっと、無事なままで過去の文明の遺産があるのに違いない。
このキャンプ地にいた星屑拾いたちは自身の願望と合わせてそのように予想していたが、その考えは、的中していた。
隔壁の向こうには、かつて天上人たちが利用していたと思われる施設が広がっている。
金属質でブルーグレーの壁面。床にはふかふかの赤い絨毯が敷かれ、天井には光源となる埋め込み式のライトが整然と並び、辺りを照らし出している。左側にはテーブルを挟んで向かい合わせに配置されたソファが数組。正面の奥の方には来客を出迎えるためのカウンターと、コンピュータ端末があるようだ。右側には一面のガラス張りの中に自然の植生が再現された、おそらくは来訪者の目を楽しませる目的のビオトープがあったが、そこに植え込まれていたものはすっかり枯れ果てている。
もちろん、墜落の衝撃によるダメージはあった。天上の飾り板が剥がれ落ち床に散乱しているし、空いた穴からは配線が垂れ下がっている。いくつかの照明は落下した衝撃で外れて床に落ち、砕け散っているし、ビオトープを区切っていたガラス張りも倒れて割れて、絨毯の上に破片を盛大にぶちまけている。
それでもその空間は、ステラがこの終末世界でこれまでに目にして来たどんな[屋内]よりも、居心地が良く、快適そうだった。壁も床も天井も構造がしっかりとしているし、ソファはふかふか、絨毯だってある。
そしてなにより、どこに行ってもつきまとって来る砂がなかった。
手間はかかるが、ガラス片をどけ、キレイに掃除をしたらいい住処になりそうだ。
「……すごい」
少女は呆けてしまって、そう呟く。
寝物語に聞いた、[楽園]の話。
それが実体となって目の前にあらわれたように思えたのだ。
カクカクと、脚が震え出す。
恐怖ではない。あまりにも喜び過ぎて、驚き過ぎて、身体が言うことを聞いてくれない。
だが何度か深呼吸をくり返すと、ステラはまた立ち上がって、銃をかまえたまま、星屑の内部へと足を踏み入れて行った。
目で見るだけではなく、直接手で触れて、確かめなければ。
逸る気持ちをなんとか抑え込みつつ、彼女は油断することなく警戒しながら奥へと進んでいく。
異常は、ない。
恐れていた、隔壁が突然締まり出すということも起こらなかったし、星屑の内部はとても静かで、緊張して荒くなった自分の呼吸、トクントクンと脈打つ鼓動の音だけが聞こえてくる。そこに、ジャリ、とブーツでガラス片を踏みしめる音が加わった。
自分以外には誰もいない。
そう確信しつつあったが、まだ見渡すことのできていない場所もある。
カウンターの奥。死角となっていたそこを確認するためにのぞき込むと、ステラは「わっ!? 」と小さく悲鳴を漏らし、咄嗟に散弾銃の引き金に指をかけていた。
そこには、二体の人型の物体が倒れ伏していたからだ。
この過酷な荒野では、遺体はありふれたものだ。少女も、もう何十体と、哀れな末路を迎えたのに違いない、生き残りだったモノを目にしたことがある。
慣れてはいるが、それでも死を忌避する気持ちはあるから、怖いと思ってしまうのだ。
だが、どやらそれは人間の亡骸ではなさそうだった。
むき出しになった金属の外装と、墜落の衝撃で損傷したらしく、内部のフレームや配線がむき出しになった、非生物的な物体。
それは、二体のアンドロイドだった。
かつての文明社会では、機械技術と人工知能が高度に発達した結果、あちこちでアンドロイドたちが活動していた。軌道上居留地はもちろん、地球上でだって、ありふれた存在だった。
中には、今でも稼働している機体もある。生き残りたちが集まって暮らしている街でまだ動いているものをステラは目にしたことがあったし、荒野や廃墟で、過去に与えられた命令を忠実に実行し続けているものや、制御を失ってなすこともなくさまよっているものなども、決して珍しい存在ではなかった。
中には内戦の道具、生身の兵士の代わりに運用されていた軍用の個体もあり、そういったものには特に注意が必要であった。もしそれらが未だに稼働状態にあれば、地球に生き残っている人間であれば誰でも見境なく襲いかかって来るからだ。
しかし、カウンターの向こうで折り重なって倒れ伏していた二体のアンドロイドたちは、完全に壊れてしまっている様子だった。外見からして破損が激しく、そもそも腕や足が千切れたりしているし、頭部の単眼のカメラ・アイも砕けてしまっている。
———その、かつて存在した高度な技術のなれの果てを見つけた少女の口元が、にま~っ、と微笑んでいく。
「お宝! おったから~っ!!! 」
銃口を下げた彼女は、喜び勇んで壊れたアンドロイドに駆けよっていた。
こうした機械は、非常に高値で売れるのだ。
部材を構成している素材はどれも今となっては手に入らない高品質なものばかり。電子部品などはそれ単体でも買い手がいくらでもつくし、もし、腕や脚など、まだそのまま使えたり、修理すれば機能を取り戻せるようなものがあったりすれば、高値がつく。
昨日落ちて来た星屑で拾った通信機など、まったく、比較にもならない。
これから先数か月も安泰になる、それだけの収入になるのだ。
物言わぬ機械の残骸に飛びつき、しゃがみこんでさっそく物色を始めるステラ。
しかし彼女は、左側の耳元、カウンターに設置されたコンピュータ端末からピー、という電子音が聞こえてきたためにまた驚かされてしまい、ビクン、と身体を飛び跳ねさせていた。
「うひゃぁっ!? 」




