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余命マイナス王女のバフ係 ―寿命口座チートの俺が選ぶのは、最悪じゃない地獄―  作者: のだめの神様


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2/5

第一話 寿命口座と余命マイナスの王女②

「……起きた?」


 聞き慣れない女の声で、目が覚めた。


 白い天井。

 木と石で組まれた梁。

 窓の外には、見たことのない青い空と、ぐるりと砦の壁。


 俺は、粗末な木のベッドの上に寝かされていた。


「大丈夫? 頭、痛くない?」


 視界に影が差す。

 栗色の髪を後ろでまとめた女の人が、心配そうに覗き込んでいた。


 服装は看護師でも白衣でもない。

 布と革でできた、シンプルだけど実用的な服。胸元の布地には見慣れない紋章の刺繍。


「……ここ、どこですか」


「《ルーミア辺境砦》の医務室。南の街道から運ばれてきたって聞いたけど、覚えてない?」


 ルーミア? 辺境砦?

 地図帳で見た覚えのない単語がさらっと出てくる。


「……すみません。あんまり」


「そっか。記憶が曖昧なら、下手に追いかけない方がいいよ。

 名前は? 呼び方困るし」


「……春日悠真です。カスガ・ユウマ」


「ユウマね。私はメイラ。この砦の医務係。よろしく」


 メイラ、と名乗った彼女の頭の上に、白い数字が浮かんでいる。


 ──二九・七年。


(やっぱり見えるのか、こっちでも)


 日本のオフィスと同じ数字。

 ただ、雰囲気はまるで違う。


 なんかのゲームのチュートリアルに放り込まれたみたいだな、と、現実感のないことを思う。


「顔色はそんなに悪くないね。お腹は? 何か入る?」


「……正直、減ってる気はします」


 冗談めかして返すと、メイラはふっと笑った。


「減ってるくらいがちょうどいいよ、この砦じゃ。

 とりあえずスープ持ってくるから、ちょっと待ってて」


 彼女が離れた瞬間、俺はこっそり自分の頭上に意識を向ける。


 青いウィンドウが、当たり前みたいな顔をして開いた。


 ──《寿命口座システム》

 ──《所有者:春日悠真》

 ──《寿命残高 五・〇〇年》


「……増えてる」


 オフィスでゼロになったはずの数字が、「五」に増えていた。


(転生? 転移? どっちにしろ、“二周目”ってことか)


 うっすら笑ってしまう。

 人生、やり直し。ゲームだったら喜んでるところだ。


(でも、五年か。

 思ったより、安いな)


 そこに、追加のウィンドウが重なる。


 ──《周辺個体の寿命残高を参照できます》

 ──《再配分機能は有効です》


「……だよな」


 さっきのオフィスと同じ。

 俺は、寿命を見るだけじゃなく、動かせる。


 人生二周目。五年分。

 それをどう使うか。


(前の世界みたいに、誰かの都合で削られるのはもうごめんだ。

 今度こそ、自分で使い切ってやる)


 そう決意しかけたところで、扉がノックされた。


「ユウマ、入るよ」


 メイラが盆を持って戻ってくる。

 木の器に入ったスープと、固そうなパン。


「とりあえずこれ。具は少ないけど、温かいだけマシ」


「……いただきます」


 スプーンを持つ手を、自分でも苦笑いするくらい震えさせながら、口に運ぶ。

 しょっぱい。けれど、胃がそれを必死で受け止めているのが分かる。


「ねえ、ユウマ」


 メイラが、少しだけ真面目な声になる。


「ここは辺境砦。魔物も盗賊も来るし、食料事情も良くない。

 元気になるまで無理はさせないけど……いずれは、何かしら手伝ってもらうことになると思う」


(結局、働くのか)


 心の中で苦笑しながら、俺は頷く。


「できる範囲で、なら」


「うん。それで十分」


 メイラの頭上の数字が、ほんの少しだけ揺れた気がした。

 二九・七年から、二九・八年へ。

 俺が「できる」と言った瞬間だ。


(……俺が関わると、寿命がちょっと増える?)


 まだ確信はない。

 もっと検証が必要だ。


 だけど、その前に。


 砦じゅうに、甲高い鐘の音が鳴り響いた。

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