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5人目の魔女の異世界攻略  作者: 歩くアスパラガス
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1.千年後のフリージラ大森林にて

「ようこそ。終焉へ」

 そう言い放った人物の顔には影が掛かっていて、よく見えなかった。ただその手元には大剣が握られていた。私はその終焉の日、命を落とした。不鮮明な記憶の中で、唯一私を庇ってくれたその背中だけは鮮明に覚えていた。私を庇おうが庇わまいがどちらにしても死は避けられないというのに彼はなぜ私を救おうとしたのだろうか。

 

1.千年後のフリージラ大森林にて


 目を開けると私は闇の中で一人突っ立っていた。周りにはどこまでも闇だけが続いていた。

「そうだ。私、死んじゃったのか」

 思い出した。私は戦いに敗れ、命を落としたのだ。

「となるとここは死後の世界的な?」

 思っていたよりもあっさりと自身の死は受け入れられた。

 生前の私は人一倍の努力家であった。そんなある日、王都に住んでいた私の元に一人の騎士が訪ねてきた。彼は近いうちに敵対している勢力が私達の住んでいる王都まで攻め込んでくると言う。その際に王都側の勢力へ加わり、敵対勢力を討つために力を貸して欲しいと言った。その時の私は自身の努力を過信しており、まさかその戦いの末に命を落とすとは一切思っていなかった。そのため私は騎士の頼みを承諾した。

 そしていよいよ敵勢力が攻めてくるその日、私は前衛の騎士の後衛として加勢した。私達魔法使いは敵勢力の魔法使いの放つ魔法を相殺する役割を担っていた。本来、攻撃魔法は相手の放った魔法と正反対の属性の魔法を繰り出し、魔力を相殺するのだが、相手の魔力が想像の遥か上だったため、相殺しきれずに私達魔法使いの後衛は壊滅状態だった。虫の息だった私は敵勢力の騎士にその首を落とされそうになっていた。その時に横から自勢力の騎士が私を庇ってくれたのだ。彼の背中だけは鮮明に覚えている。だが、それも虚しく敵勢力後衛の魔法使いにより私達二人は急所を貫かれてしまった。

「全く。あいつは死に急ぐ馬鹿だよ本当に」

 人が人を助ける理由を全く理解できなかった。ましてや自分の命と引き換えになんて以ての外だ。

『そんなお前にやり直すことを許そう』

「え、誰?」

 闇の中をただ一人で歩いていた私に男の声が聞こえた。実態は見えないが確かに声がしたのだ。

『もう一度人についてよく学ぶのだ』

 そう言い終わるや否や私の周りの闇は晴れ、それと同時に私の身体を眩い光が覆った。私は思わず目を閉じた。

「お前は永遠に等しい命をどう使う」

 最後にその男は私にそう問いかけた。

 ――永遠と同等の命。



「おいお前!大丈夫か?目を開けるんだ」

 意識が覚醒した。私を呼ぶ声がする。

「お、生きてた。良かった良かった」

 目を開けるとそこには私に乗りかかった青年がいた。彼は綺麗な短い赤髪をオールバックにしており、瞳はまるで炎を連想させる綺麗な透き通った赤色をしていた。その男が私に馬乗りになって頬を叩いている。状況が全く掴めない。

「きゃ」

「おい叫ぼうとするなよ。俺は悪者じゃないぜ」

 状況が掴めず怪しい男が馬乗りになっていたので私は叫んで助けを呼ぼうとしたが慌てて口を塞がれたので叫べなかった。一体この青年は何なのだろうか。ただの変態ではないだろうか。

「そんな目で見るなよ。人が倒れてたから助けようと思ったんだよ」

 倒れていたとはどういうことだろうか。確か闇の中で突然声がしてその後強烈な光が私を包んだのだ。そこまでは覚えている。周りを見るとどうやら森の中らしい。

「とりあえずもう叫ぶなよ」

 そう言って馬乗りになっていた青年は私の口元から手を離した。

「きゃー!助けてー!」

「おい!だから叫ぶなって」

 また口を塞がれてしまった。今の私の悲鳴を聞いて誰かが助けに来てくれるだろうと思ったがここは森の中だった。木が生えまくり、私が寝転んでいる場所には雑草まで生えていた。当然誰かが急いで駆けつけてくれるはずもなく。

「何もしねえよ。頼むから叫ばないでくれ」

 (らち)が明かなかったので私は渋々頷いた。すると再び口を塞いでいた手をのけてくれた。

「また叫ばれたくなかったらとりあえず私の上から降りてください」

 そう言うと赤髪の青年は慌てて私の上から降りた。聞き分けは良さそうだ。私は身体を起こしてその場に座った。なぜか脚が短い気がするがそれはさて置き。

「ここってどこですか?」

 私はまず気になっていたことを向かい合って座っている青年に聞いた。闇の中で突然聞こえた男の声は、『もう一度人について学べ』と言っていた。

「ここは俺の家の近くのフリージラ大森林のど真ん中だ。そんな中でエルフのガキが一人で倒れてたら普通は心配するぜ」

 フリージラ大森林。生前聞いたことがある。私が住んでいた王都グラダルトから北に少し歩いた場所に同じ名前の森があった。にしてもなぜ一度死んだ私が再びこの世界で生きているのだろう。そういえば先程、この赤髪の青年は私のことをガキと言った。私は生前、王都に住む子供からはよくお姉さんと呼ばれて親しまれていた。ガキに見える年齢ではなかったはずだ。お姉さんの私からすれば目の前の青年の方がガキだと思う。少し盛って同い年くらいだ。それに私はエルフとかいう希少な一族ではなかった。

「あなたの方がガキでしょ」

「いや、どうみてもお前の方がガキだろ。もしかして頭でも打ったのか?」

 なぜだろう。一言一言が頭にくる。そういえば起き上がる時に脚が短くなっているような気がした。私はもしかしてと思い、急いで立ち上がった。

「おお、急にどうしたんだ?」

 青年が仰け反って驚いた。

「し、視界が低い……」

 驚いたことに生前の私から見えていた景色より一回り低いのだ。予想が的中した。闇の中で聞こえた男の声は要するに、私にもう一度人生を歩み直せということを伝えていたということだ。つまり私は。

「生まれ変わってる?」

 そうとしか考えられないではないか。確かに私はあの戦いの日に命を落とした。そして現状は明らかに夢ではない。だとすれば再び同じ世界に生まれ変わりとして存在しているとしか考えられない。

「ところでさ、お前こんな森の中で何してたんだ?」

 座り込んでいる青年がそう聞いた。

「ね、寝てたのです」

 明らかにおかしな言い訳だ。フリージラ大森林はマリュアという森の魔獣が沢山いる。その魔獣は冒険者を見つけた瞬間にこちらに向かって勢いよく突進して吹っ飛ばし、意識を失わせた後にその遺体を食すのだ。そんな魔獣がいる森の中、一人で寝ていたなんて流石に怪しまれてしまう。案の定青年は目を細めて私の全身を舐め回すように見ていた。

「ふーん。お母さんとかは?」

 恐らくいないはずだ。

「いないです」

 ますます怪しい目で見られているが仕方がない。両親がいないとなるとこれからどう生きていこうか。まず、王都グラダルトまで向かってそこで私の住んでいた家に行く。当分の食料はあったが問題は衣服だ。今着ている服は土が沢山ついていて汚い上にこの簡素な白のワンピース一着でこれから過ごすのは嫌だ。となると買い出しに行くしかない。これで衣食住の確保は問題ない。思い立ったら即行動だ。方向はわからないが確かフリージラ大森林からは王都にあるベイルド城がどこかから見えるはずだ。問題ない。

「いきなり立ち上がったと思ったら今度はどこ行くんだ?」

 歩き出した私を赤髪の青年がつけてきた。もしかすると本当に危ない人なのかもしれない。早く巻かなければ。

「グラダルトまで行く」

 行き先を言ってしまったので、しまったと思ったが。

「グラダルトってお前。千年前の戦いでもうないだろ」

「え?どういうこと?」

 私の住んでいた王都グラダルトがもうないとはどういうことだろうか。生前の記憶では私が命を落とす前までは王都グラダルトはまだ存在していた。確かあの戦いで私達の勢力はかなり劣勢だった。もしグラダルトの騎士や魔法使いが全滅した後、敵勢力が王都を侵略していたとすれば恐らくもう王都グラダルトは残っていないであろう。だがあの戦いが千年も前とはどういうことなのだろうか。冗談が行き過ぎている。

「グラダルトってヘレボレスと戦ったとこだろ?」

 確かに敵勢力はヘレボレスだった。王都グラダルトから西の方にある地名である。

「えっと、もしかして本当にグラダルトってもうない?」

 私は冷や汗をかきながら隣を歩く青年にそう聞いた。

「とっくの前に更地だぜ。前までは向こうの方角にでっかい城が見えてたらしいんだけどもう今はもうないんだ」

 そう言いながら青年は立ち止まって斜め後ろを指さした。あんなに栄えていた王都が今はもう更地になっている。信じたくはない。だが生まれ変わった今、その可能性もある。もし仮に更地になっていたとすれば私はこれから先、帰る家のないただの冒険者になってしまう。冷や汗が止まらなくなってきた。

「お前行くとこないなら俺の家来いよ。ここから少し歩けばあるからさ」

 なんて優しい青年なのだろうか。危ない人だと思っていたことが申し訳なくなってきた。

「い、良いんですか?」

 私は目に涙を浮かべながら聞き返した。

「お前怒ったり泣いたり騒がしいな。まあ着いてきな」

 そう言って青年は歩いてきた道を戻りだした。私はその後を着いていくことにした。

 そういえば属性魔法の他に、俗にいう便利魔法の転送魔法があったはずだ。本来ならば転送魔法は人以外の物体にのみしか使えないが、私はこう見えても生前とても努力家であった。努力の末に他の魔法使いが成し得ない沢山の便利魔法や攻撃魔法の派生系を生み出していた。転送魔法も同様だ。転移させる対象の物体を人に入れ替えて脳内で想像するのだ。『努力は才能だ』と私に魔法を教えてくれた兄は何度も言っていた。私は青年の横に並び服を引っ張った。

「どうしたんだ?」

「わざわざ歩かなくても魔法あるじゃん」

 青年は背が低くなった私を上から見下ろしながら笑った。

「ま、魔法だってさ。笑かすぜ。魔法なんてとっくの昔に四大魔法使い共が封じただろ」

 青年は笑いながら馬鹿にしてきた。やはり鬱陶しいかもしれない。だが魔法が封印されたなんて全くの嘘ではないか。現に先程から私の小さな体内から微量な魔力を感じる。それに四大魔法使いとは何だろうか。私が命を落とした後の千年間にそのような存在が出来ていたとは驚きである。千年前であれば皆が魔法を使い、狩やダンジョンの攻略や冒険、そして争いあっていたのだ。私も同様である。その魔法を封印した四大魔法使いという者達が気になるが、今はこの短い足で森を歩き回る方が疲れるので私の努力の賜物を見せることにしよう。

「うわ、びっくりした。なんだよ急に」

 私は隣を歩く青年の手を握った。二人以上の転移は、転移させる対象全てに魔法を使う本人が触れていないと、触れられていない対象はその場に取り残されてしまうのだ。青年はいきなり手を握られて驚いた顔をしている。

「あなたの家の方向と距離を教えなさい」

 私の記憶の中にある場所であればどこにでも転移出来るが、記憶にない場所は教えてもらわないと全く知らない場所に転移してしまう。青年は訳が分からないといった表情だが、家がある方向と距離を教えてくれた。となれば後は心の中で詠唱するのだ。『リューム・シトラ』と。

「おいおいおいおい。まじかよ。訳わかんねえよ。なんでさっきまで森のど真ん中だったのに家の真ん前なんだよ」

 どうやら成功したようだ。四大魔法使いの施した封印は大したものではなさそうだ。身体が幼いせいか魔力は生前より劣るが努力すれば魔力量も増えていくだろう。

「ここがあなたの家?」

 目の前には木々に囲まれた中に木製の家が建っていた。私の住んでいた家よりは小さいなと心の中で思う。

「そうだけど、お前が魔法使えることにびっくりした。エルフだからか?ガキかと思ってたけど何年生きてるんだよ」

 青年は目を見開いて質問攻めをしてきた。私が握っていた手を力強く握り返してきたので勢いよく振りほどく。そしてエルフが長寿なのは知っていたがそもそも私はエルフなのだろうか。そう思い振りほどいた手で自分の耳を触る。尖っていた。間違いなくエルフの特徴的な耳であった。驚いた。エルフは私が生きていた頃には数える程しかいなかったはずだが、暗闇の中の男の声は私の身体が光に包まれると同時に永遠に等しい命と言っていた。なるほど。エルフとはそういうことか。それはさて置き。

「それよりお腹空いた」

 歩いている時からずっとお腹から音が鳴っている。

「あ、ああ。もうそろそろ夜だし飯作るよ。とりあえず中に入ろう」

 今日は実質、私の誕生日だから腕を奮ってご馳走を作っていただきたい。

 そして私達はドアを開け、青年の家へ入った。家の中は小窓が入って左右に一つづつあり、真ん中にはテーブルがあって椅子が向かい合うように置かれていた。部屋の右端には石で作られた大きな釜戸があり、その隣には木製の食器棚があった。壁には肉などを捌くために木の板が固定されており、床に取っ手が付いているので、恐らく食料を床下に保存しているのだろう。部屋の左端にはもう一つドアがあった。何が隠されているのか気になった。

「一人暮らしなの?」

「そうだよ。幼い頃から冒険者になりたくて家を飛び出してね。そっから最初は商人として頑張って今はこの家を建てて魔獣狩りの毎日だぜ」

 千年という時を経ても人々の夢は変わっていないらしい。私も幼い頃は冒険者になってダンジョンを探索し、お宝を手に入れたりなど一攫千金を狙っていた。そのために魔法使いであった兄に魔法を教えてもらっていたのだ。一時期は冒険者として一人で旅をしていたが、やはり前衛の騎士がいなければ魔法使い一人での冒険は難しかった。そして兄の元を離れ、冒険をしていた私は魔獣に襲われ命からがら、今は更地になっている王都グラダルトに辿り着いたのだ。そこからの日々は退屈ではあったものの平和な毎日だった。その終焉が来たるまでは。

「今飯作るからそこ座ってな」

 そう言って青年は真ん中に置いてある椅子を指さした。私は椅子に腰掛け、小窓に目を向けた。外はもう夕暮れであった。この世界で私は再び生を授かった。これから一体どんな生活が待っているのだろうか。

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