第八話 「入れ替わり」
犬っころ、犬っころなんかちゃうけどに会った散歩から一ヶ月半が経ち、母さんのお腹は相当大きくなって来た。
一匹ではあったけど、銀狼を村の中に入れてしまったために、父さんら警邏隊は母さんが大変な時期であるにも関わらず毎日、毎日村の警備をしている。
母さんは本格的に動くのも大変やから、家事はルスヴァフさんがメインで俺も少し手伝って回している。
とは言っても俺の仕事なんてほぼ無いんやけど。
ルスヴァフさんが買い物なんかでおらん時にご飯作るとか、ちょっと風呂洗うとかその程度で、俺はほぼいつも通りの生活をしていた。
俺はというと、一応頭の中とか、紙に書いたりとかして科学を思い出したり、暗算を鍛えたりしている。
学校どんなとこなんやろな。
写真とかあったらええのに。
まぁ、あるわけ無いんやけど。
文明の発展具合は地球で言うとどれぐらいなんやろ。
そういえばこの村と首都の市場街しか行ったことないな。
この村自体は日本で言うと、えーっと建物とか武器とか考えてまぁ鎌倉とかその辺かな?知らんけど。
モンゴルとかアフリカとかやった現代ですらあるレベルかも?
もちろん行ったことないし分からんけど。
もちろん鎌倉時代すらちゃんとは知らんねんけどな。
市場街に行っただけとはいえ、首都ですらあれやったからな。
単純にこの国が金無いだけかも?
嫌やねんけど、そんな国。
変えようとかは思いはせんけど。
たぶん無理やし。
父さんも一応貴族ってことを考えると、どうせテンプレ通りで国家運系とかは貴族がやってるんやろ。
父さんはだいぶ弱小貴族らしいからその子供なだけでは国変えるとかできるわけ無いと思うし。
いつの間に歴史?地理?の授業が始まったんやろか。
それも誰かが教えてくれるわけでも無く、俺自身の記憶だけが正解のゴミみたいな授業。
こんなん嫌や。
誰か教えてくれー。
この世界にそんなこと知ってるやつはおるわけ無いんやけどな。
ここどう考えても地球じゃ無いし。
雪の積もった白銀の世界が窓に映る。
ってもしかして時、遡ってたりする?
なんか生まれた時、三年前にもこんなこと考えてた気がする。
まさか、母さんの孕腹を見る。
至って普通の妊婦のお腹。
これぞ妊婦って言わんとするお腹。
俺も多分普通やったんやろうけど、こんなこと考えてると、弟?妹?も俺と同じく転生者なんかもとか思ってまう。Sureそんなことないんやろうけど。
それに、もしそうやったとして、何で俺の思考に入ってくんねん。出ていけ、これは俺の体なんや。
そういえば、俺ってと言うかナーリアの本当の意識って高階浩也の意識でええんか?本当に産まれるはずやったナーリアの意識を追い遣って俺が今あるとか言わんよな?
・・・いや、やめよう。
そんなこと考えても何も始まらんし終わらんから。
――
気分変えて、魔法の練習でもやるか。
思い立ったが吉日ってな。
いや、数時間程度の話やねんから日はおかしいか。
思いたったが吉時?何でもええか。
でかい木でも立ててみよかな。
なんか木生えたらオモロいやん。
どうやったら立つかな?
木の形は作れると思う。
根っこをいい感じに土に突き刺せばええか?
土魔法でやらかくした土に刺して、再度固めればいけるんかな。
やってみよ。
とりあえず木の形からやな。
「アルブルヴックス(成木)!」
季節に見合わない濃緑の木が、髪をふわふわと揺らしながら手足を広げ、どんどんと成長していく。
うん、絶対間違えたな。
先、土やるべきやったな。
魔法って同時に使えるんか?
やってみる?
いやでも、この木落ちたらどうすんねん。
魔法でものを創り出したときなんでか知らんけど、生み出したもんは重力を無視して空中に浮かぶ。
でもそれが制御を外れると、当然地面に吸われる。
木の枝を作る時もそうやったように気を抜くとこの木は落ちる。
これが落ちてきたら一溜りも無いんやけどどうしたもんかね。
・・・、・・・。
「ルートランス(根槍)!」
地面に槍の雨が降る。
俺は魔法で作った木を使って地面を耕した。
おんなじもの使えばずっと魔法が発動してる判定であるらしく、違う魔法を使っても重力は受けないらしい。
実は魔法を使っている間浮かぶのは魔力の消費によるもので、その魔力消費は重さによって増減するので普通こんな木をずっと持ち上げたり、そのまま魔法を使うことは出来ないのだが、かなり増えた魔力によってナーリアはその事実に気づいてはいない。
ある意味安全マージンがこの事実の認識を阻止した。
無意識ではあるものの働いていた安全マージンが徐々に安全の基準をナーリアの力に合わせて減殺していたのである。
耕し柔らかくなった地面に根を差し込み、木を手から離した。
まぁもちろん魔法で作った木やから元から手は付けてないんやけど。
とはいえこのままでは強風がもし吹けば木が倒れる。
土魔法で固め、少しだけ水を撒いた。
これでええかな。
うん、多分大丈夫。
念押しに木の周りでヒップドロップをかましておいた。
ケツは痛そうなので足にしておいたけど。
こういうのはめっちゃオモロい。
最近なんかこんな感じの魔法の応用ってゆうか、魔法を使った遊びをようしてる。
オモロいし、考えなあかんから頭も使えるし、何よりオモロい。
結局オモロないとできることも続かんしな。
それを続けることを努力って言うんかもしれんけど、それでもオモロいに越したことないしな。
――
木陰で休んでいると懐かしい気もする童声が響いた。
「ナーリアーー!ただいまー。」
「お姉ちゃん、おかえり。」
声の主は俺にボーっとしていた俺に上から覆い被さった。
垂れた後ろ髪が俺の視界を塞ぐ。
長いポニーテールを顔から外し、返事をした。
そういえば朝、ルスヴァフさんが『スザーナ様を迎えに行って来ます。』とか言ってたっけか。
そのルスヴァフさんはっていうと緑を揺らす木に惚れ込んでしもたらしい。
ずっと目をパチパチとさせ、銅像かのように動きを止めてもうた。
そんな、熱心に見つめられたら恥ずかしなって紅潮するかもしれんやんか木が。
いやまあ流石にせんと思うんやけど、もしかしてすんのか?
確かに、広葉樹ではあるから、紅葉はすんのかもしれんけど。
なんでもええんやけどな。
靴を脱ぎ、家に入った。
なんで俺、このあったかい家ん中で休まんかったんやろ。
「お母さん、ただいま。」
「うん、お帰りなさいですわ。スザーナ。」
「夏休み明けからも学校は楽しく過ごせましたか?」
「うん、色々行事もあって、忙しかったけど楽しかった。」
「それは良かったですわ。」
「お母さんは大丈夫?」
「もちろん、心配ないですわ。この子ももうすぐ産まれますからね。」
「ほら、このようなお話をしておりましたら、またわたくしのお腹を蹴っておられますわよ。」
ナーリアはそんな会話を遠目に見ながら黙考していた。
名前っていつ決めんねやろ。
俺は意識が覚醒したときには「ナーリア」って呼ばれてたけど。
でも、未だ「この子」とか「お腹の子」とは言うものの、名前を考えてる風は二人には無いよな。
科学なんてないし、男女すら分からんねんから付けようもないんかもしれんけど。
この世界の人にとっては、腹が透けて見えるとか言う方が何言ってんねんって感じやろうけど。
でも、いつ名前付けんねやろ?
ちょうどええし聞いてみよかな。
「母さん、その子の名前って何にすんの?」
「ナーリア、お名前は神様が決めてくださるのよ。」
「か、神様?」
「そうですわ。みんな生まれたときに神様がお名前を与えて下さるのよ。」
「うん、え、どうやって?」
何を言ってるんやろ?
神様が与えて下さる?
異世界やし、神様ぐらいはおってええと思うけど、毎日毎日生まれる子供の名前全部この世界の神様が決めんの?
大変やな。
てか、どうやって知らせんねや?
『この子の名前は〇〇です。』って神様がわざわざ顕現して教えてくれんのか?
「生まれたとき周囲にいる人に、神様が教えてくださるんですよ。」
「・・・へ、へー。」
マジかよ。
神様スゲーな。
――
姉さんが帰って来て二週間、ついに来たらしい、陣痛が。
速く動け俺の脚。
太陽に向かって走る。
急いては事を仕損じる?そんなこと言ってられへんやろ。
ドアを叩きながら、叫ぶ。
「リッコさーん。フェングラーでーす。早く来てー。」
「はい、はーい。偉いわね、一人でちゃんと呼びに来て。」
「そんなこと言ってんと、早くー。」
「はい、はーい。」
走れば1分も掛からない距離に待機しながら住んでくれている、リッコさんを呼ぶ、後は大人に任せて家で静かにしている。
これがこのお産の日の俺とお姉ちゃんの仕事や。
確かに俺の生まれたときの記憶にお姉ちゃんの姿はない。
前回と同じなんやろう。
リッコさんは60代のおばあちゃんで、この村で子供が生まれる時はよく、産婆としてそれを支えるらしい。
その時はいつも、妊婦の家の近くに住み、いつでも対応できるように待機するらしい。
病院なんてない村ではこれが普通らしい。
なかなか大変な仕事である。
歌うルスヴァフさんの声が聞こえる。
陣痛初期は歌とか聞くのがええって聞いたこともある気もするけど、それ実践してるんか?
俺に部屋に居るよう言ってから、父さんはドアの向こうへ消えた。
ベッドに横たわる母さんと、その横で歓喜と恐怖が入り混じる顔をした父さんがイスに座わるのが見えた。
――
あれから数時間。
そろそろお腹が空いて来る時間。
母さんの叫ぶ声やリッコさんらしき声が一頻りした後、大人たちの会話をする声が聞こえる。
二階におるから、何喋ってるかは分からんけど、なんとなく想像はできる。
ルスヴァフさんが俺らを呼びに階段を上がってくる。
フサフサとした足ではそんなに音も立たないが、なんとなく分かる。
「終わったみたいだね。」
「せやな。」
「弟かな?妹かな?」
「じゃあ、賭けしよや。弟か妹か。勝ったら、何か言うことを一回だけ相手に強制できる券な。」
「良いよー。わたしは妹。美少女三姉妹になるんだー。」
「弟か。よし、覚えといてな。忘れたらあかんで。」
俺らの会話を待っていたのか、話が切れるとルスヴァフさんがドアを開けて口を開く。
「お二人とも、下へ行きましょうか。お生まれになりましたよ。アンヘラ様を気遣ってあげて下さいね。」
「はーい。」
お姉ちゃんと声を合わせて返事して、階段を降りて行く。
そういえば、結局名前ってどうなるんや。
よう分からん説明されたけど。
『全員揃ったようですので、』
「は?え?何?頭ん中に喋りかけてくんの?マジかよこれ。」
思わず日本語で言ってしまった。
全員の目がこちらを向く。
日本語は気にしなかったらしい。
耐えたな、・・・。
視線を逡巡させる。
気まず。
「ご、ごめんなさい。」
『では、もう一度。全員揃ったようですので、この子のお名前をお教え致します。命名【アルバン・フェングラー】これがこの子の名前です。ご健勝を祈ります。』
てか、こんな感じで伝えられんねやったら、俺のときも分かってええ気もするけど。
いや、あん時じゃこっちの言葉分からんか。
そこは神様やからなんとかしてくれるんかな?
もうええか。
考えても無駄やな。
アルバン。
これが弟か。
前世は二人姉弟やったからな。
弟が出来んのは初めてか。
俺自身は弟やってんけど。
学校も行かなあかんし、ちゃんと関わり合いがあんのはまだまだ先の話やろうけど。
良い妹かつ、頼れるお姉ちゃんになるぞー。
新しい目標誕生やな。
良妻賢母ならぬ良妹賢姉ってか。
目標なぁ。
流石に変えなあかんよな。
いつまでも『魔法使えるように…。』とか言ってたら、前世の二の舞やんな。
創ろ、新しく。
でも、今考えるのは空気読まれへん奴やから、とりま、『学校での目標を学校までに考える』とかにしとこ。
ーー
「・・・アルバン、これから宜しくお願いいたしますわね。健やかに育って下さいね。」
「そうだな。」
「ええ、そうでございます。よろしくお願いします、アルバン様。」
「わたしもっとお姉ちゃんとして頑張らなきゃ。」
「私も・・・。」
まだ安臥するアルバンに語り掛ける家族であった。
すやすやと眠るその耳に何が届いたのだろうか。
きっと何も届かないであろう。
――
アルバンの生誕から数日。
まだまだ大変な時期やけど、学校へ向けて本格的に準備しなあかん。
一週間ほどかかる学校への道。
そして、俺の引っ越し準備。
もう後一ヶ月半に迫った、入学式。
そう考えれば当然やねんけど。
入学式を考えると、一週間もせんうちに出なあかんらしい。
忙しないな。
因みにアルバンが起きてるときにちょっとだけ日本語話してみたけど、反応は無かった。
目見開いたりすればオモロかったのに。
・・・。
俺はアルバンの顔から視線を逸らした。
あうあうと喃語を喋り続けるアルバン。
壊してはいけない俺の弟へ心からの慚愧を感じる。
俺は生まれ変わっても赤ちゃんが嫌いやったらしい。
たった三週間でこの子とこの赤子と別れれるんは暁光にしか思えへんかった。
俺が最低な奴であることは知ってる。
でも好き嫌いはやっぱあるよな。
用意は意外とすぐ終わった。
着替えやら、下着やらの衣服。
制服は入学前に現地でもらうらしい。
あとは、本とペン。
でも、こんなもんは向こうで買った方が安くてええらしい。
そして、細々とした日用品ぐらい。
適当に見繕った鞄に詰め込めばそれで終わり。
学校へ行く時は、通学バスならぬ通学馬車があるらしいから、ラグナリアからそれに乗って行くだけ。
移動の一週間分も、お金を払えばご飯とかは当然大丈夫。
鞄片手に出掛けるだけやねんて。
お姉ちゃんはもう少しここにいるらしく、同じ馬車には乗らんらしい。
一週間かけて来て、三週間足らずで出戻りは可哀想やし、しゃあないかな。
――
「それじゃあ行ってきます。」
「忘れ物はないな。また、入学式でな。」
「うん。また一ヶ月ちょい後に。」
「ルスヴァフ、頼んだぞ。」
「はい。では行きましょうか。」
ルスヴァフさんがいつもの馭者に合図をし、アグナリアへ向かって行く。
目標「学校での目標を学校までに考える。」
「良妹賢姉」
第1章 ミレンデル村編ついに終焉です。
次話からは第2章をお楽しみください。




