第五話 「初めての外出」
「行ってっきまーす。」
「いってらっしゃいですわ、ナーリアちゃん。」
「では、行きましょうか、お嬢様。宜しくお願いします。」
ルスヴァフさんが馭者に声を掛け、ポルトゥレ連邦中心都市リグナリアへ向かう俺のこの世界での初めての旅が始まった。
晴れ渡る空。
清々しい風。
キラキラと光る目がそこにあった。
メンバーは馭者で獣族、羊のゲオルギー・シーパーレ、俺ナーリア・フェングラー、その従者獣族、狼のルスヴァフ・ローマーレこの三人。
さぁ、行こうか。
この永遠なる世界を求めて。
何つって。
てな訳で俺はルスヴァフさんと共に馬車に乗って首都リグナリアへ向かう。
サッカーボールを買うために。
ほんまは父さんと一緒に行くはずやったけど、仕事やねんて。
よう知らんけど、村でちょっとした事件があったとか。
――
燦々と地面を照らしつける太陽。
遠くの空に浮かぶ入道雲。
綺麗に整備された街道を通って行く。
うさぎが跳ねていたり、馬が群を成していたりする。
馬を休めるべく小川で水を飲み、キンキンに冷えた水が胃を刺激する。
空には鳥が百態百様で飛んでいる。
雄大な世界をちっぽけなこの馬車が走る。
と、ジ○リのみたいに彩度高く表現したけど、現実ってのは残酷なもんやな。
馬車は揺れるし、酔う。
気持ぢ悪い。
あら、いったい何を想像してるのかしら。
女の子は吐いたりしないんですわよ。
なんてな。
だが、吐いたりはせんぞ。
そして、時には馭者が声を上げる。
「シルバードッグ(銀狼)です!」
「お嬢様、出ないでくださいね。お任せください。」
狼が三匹、牙を向けてくる。
ファンタジーな感じやな。
もしかして魔物って言うんやから魔法とか使うんか?
パッと見は普通のオオカミやけど。
ルスヴァフさんは二本の短刀を逆手で持ち対峙した。
ワンパンで一匹をはね除けると、次は一斉に叩いた。
普通のオオカミやったな。
瞬殺された狼の死体は馭者さんによって回収され、今は屋根の上。
血抜きをその場でやって、あとは屋根に縛り付けるだけ。
魔物を誘き寄せたりせえへんのかな。
血の臭いとかで。
皮に、肉、シルバードッグは売れるらしい。
荷物になるけど、街へは運ぶのが行商や冒険者の常識やそうや。
運んだら行商なら自分で売るなり、解体してもらって、さらに加工品を作ったりするらしい。
冒険者なら冒険者ギルドに売るか、商人に直接かって感じらしい。
冒険者ギルドか、見てみてぇ。
異世界感パねぇ。
そんなこんなで1、2時間かけてリグナリアに到着した。
「お嬢様、見えてきましたよ。あれがこの国の首都リグナリアでございます。商業が盛んで、この国の半分の取引がここで行なわれると言っても良いほど商人の多い街ですよ。」
「おおー、すげー。」
木で組まれた櫓が街を囲っている。
街の入り口に荒くれ者とか、色々おる。
あれが冒険者か?
異世界って雰囲気やな。
めっちゃええやん。
遠くには俺たちのミレンデル村や、その他さまざまな村、町、山、湖、川、etc。
日本とはかけ離れた世界。
『異世界』、そんなことを言い出したやつは、そんな想像を最初にしたやつはこんな世界を見たんやろうか。
それとも、全く違う、地獄のようなとこやろうか。
天国やろうか。
どこから見たんやろうか。
こうして一人称なんやろうか。
鳥みたいに俯瞰して空から見るんやろうか。
飛ぶ鳥は何を見るんやろうか。
あの鳥みたいに飛べたらなぁ。
――
検問の列に着く。
検問を抜け街に入る。
なんか検査とかあったりするんやろうかとも思ったけど、特に何をすることもなく、馭者の出した紙を見て、あっさり終わった。
なんか呆気ないな。
ルスヴァフさんもよう来てるらしいしそんなもんなんやろうけど。
だいたいイベントとか起きるやろ。
初めての街やねんから。
現実にそんなこと、求めたらあかんのかな。
馬車を預け、ルスヴァフさんと共に街に降り立った。
ログハウスのような家が立ち並び、真ん中には大通りがあり、その両脇に露店が並んでいる。
スーパーってあんなに無機質やったんやな。
こんなこと思うことなんて日本に住んでたら有り得へんやろな。
考えることすら無いやろうから。
「壮観やなぁ。」
「そうでございますね。お嬢様。」
「心の声やで、読まんといて。」
「ははは、すいません。」
漏れちゃったか。
ただ、本当に圧巻。
それ以外に言葉もない。
改めて実感する。
ここは、異世界だ。
「では、行きましょうか。」
「うん。」
――
はじめは野菜とかを買うらしい。
キャベツにニンジン、トマトなどなど見たことのあるやつが多い。
一部ヤバそうなやつもあるけど…。
紫のトゲトゲした奴とか、真っ青の奴とかな。
果物も同じような感じやった。
八割のものは見知ったものやけど残り二割がヤバそうな感じやな。
もしかして植物系の魔物のかなんかな。
魔物食う系のラノベで読んだことあるかも。
知らんけど。
「ローマーレ!今日も買ってってくれ。」
「サミュエルさん、今日も元気なんですね。」
「そうよ、商人は元気が一番だからな。ってその子は?」
「えっと、フェングラー様の二人目のお子様ですよ。」
「嬢ちゃん、名前は?」
「私、ナーリア。」
「そうか、ナーリアちゃんか。今日はどうしたんだ?」
「サッカーボール、買いに来たんやで。」
「そうか、自分でなんて偉いなぁ。誰かにプレゼントか?」
「違うよ、私がするの。」
「そうか、頑張れよ。」
なんかいいおっさんやな。
うん、何で言ってええんかわわからんけどええおっさんや。
こんなやつが父さんならええのに。
あ、別に父さんが嫌いやとかじゃないで。
気持ちの問題や。
そんなことはええか。
おっさんと話してる間にルスヴァフさんは買い物を済ませた。
買い物ってのはやっぱりなかなかに長いな。
こういうのって女の特権じゃなかったのか。
多分、ルスヴァフさんは普通に買わなきゃならんもん買ってるだけやろうけど。
昼は過ぎ、今は大体12時ぐらいか。
着いたのが確か10時ぐらい。
とはいえ先に昼飯や。
ルスヴァフさんに連れられて、店に入った。
「ルスヴァフじゃねえか。見ねえ顔連れてんな。」
ルスヴァフさんはどこでも声を掛けられる。
みんな長い付き合いなんやろうか。
父さんに雇われてずっとここにおるとしたらそら長くなるんかな?
いつから雇われたんか知らんけど。
歳すら知らんし。
会話をしつつ、飯を食う。
料理を頼むが、まだまだ子どもの俺は多分全部を食べ切れないと踏んでいたのか、少量をルスヴァフさんは頼んでいた。
トマトにレタス、それと肉をパンで挟んだどっからどう見てもサンドイッチが運ばれてくる。
人目も気にせず齧り付く。
口周りに付いたソースをルスヴァフさんに拭き取られた。
舐めるつもりやったのに…。
ちゃんと美味かった。
「ご馳走様でした。」
しっかりと平らげてやった。
目を丸めたルスヴァフさんの顔が脳裏に焼きついた。
も、もう動けない。
食い過ぎた。
それはさておき、あとは服と肉魚、サッカーボールだ。
また、足を揃えて街へと繰り出した。
服
今まではほとんどがフリフリのついた服やったからな。
ただの村娘のくせに。
とは言っても、村長の子どもなだけあって、金は比較的ある方やけど。
運動しやすそうな奴を買った。
あったかくないセーターみたいな生地で、伸縮性が良く、運動しやすいらしい。
ホンマかは知らん。
もちろん靴も買った。
「後はサッカーボールやな。」
「はい、あ、最後に肉と魚もでございますね。」
肉、魚って腐らへんのか?
と思ったが、氷魔法で氷漬けにするらしい。
さすが異世界。
やることが違うぜ。
まぁ、この世界からしたら地球の方が何してんねんって感じやろうけど。
――
「おじさん、これちょうだい。」
「嬢ちゃん、オレはおじさんじゃないぞ。おにいさんだぞ。ってサッカーボールか?」
「うん。」
「お使いかな?」
「ちゃうで。お、私がするの。」
「お、そうなのか。頑張れよ。」
「ありがとう。」
「50000オルな。」
50000!?
高くないか?
50000円?
1オルは大体1円。
銀貨で25枚、金貨でも2.5枚かよ。
たっけーな。
こんなもん買っていいんかよ。
まさか、ぼられてる?
少し遠くで聞き耳を立てているであろうルスヴァフさんが出てこないってことは適正なのか?
獣族は五感に優れていて、ある程度の距離なら聞こえる。
でも、飛び出ては来ない。
確認したいとこやけど、今更逃げられへんし…。
そんなもんやってことにしとこ。
てな訳で金を渡す。
オルグニア銀貨25枚。
ルスヴァフさんにさっき渡されたやつを。
よし、目標達成。
サッカーボールは革にコーティングをかけたものだった。
革靴を丸めたような感じかな。
まぁ、そりゃ、思いつくようなもんは無いやろな。
あの白黒は。
「おっ、にいちゃん、今日はどうする?」
「ボア(豚)とホーンラビット(角兎)、シーサーペント(海蛇)を。」
「OK、了解。まいどありー。」
「いつもありがとうございます。」
「おまけでクラーケン3杯付けといたぜ。」
「ありがとうございます。では、また。」
「おう、じゃあな。」
ルスヴァフさんは仲いいんやな。
さっきからこんなんばっかや。
ええ事けどな。
てかクラーケン?
巨大な烏賊じゃなかったっけ?
それを3杯?
本気か?このオッサン。
ルスヴァフさんは収納魔法が使える。
手には何も無い。
うーむ、見てみたかったなクラーケン。
「お嬢様、買えたんですね。」
「うん、バッチリ。」
「では、帰りましょうか。」
逢魔時に俺たちは馬車置き場を目指した。
仕事帰りっぽい人やこれからハンティングに向かうであろう冒険者走り回っている子どもを横目に歩いて行く。
――
馬車置き場に戻るとさっきの馭者が手を振っている。
シーパーレさんやっけ?
俺はボールを抱えたまま馬車に乗り込んだ。
来た道をまた、1時間ぐらい掛けて戻って行く。
今回は休憩をすることもせんと直帰や。
「お嬢様、着きましたよ。」
「う、うーん。」
「おかえりなさいですわ、ナーリアちゃん。」
いつの間か寝ていたらしい。
まだこの身体では体力が少なかったか。
「ただいま、母さん。」
「おかえりなさい。」
「お風呂出来てますわよ。」
「うん、入って来る。」
服を全部脱ぎ捨てる。
風呂場に入り、体を洗う。
もちろんただのお湯プラス果物の皮で。
石鹸とか無いのかな。
いつか、作ってみるか。
超自然にいい奴を。
何で作んのかなんて知らんけど。
何で自然にいいかって?
やっぱ大切やろ。
ていうのは建前で、化学的なやつなんてどう作っていいんか分からんわ。
植物混ぜて、乾燥させて…って感じじゃないと分からん。
あ、冒険者ギルド忘れてた。
見たかったのに。
次ん時やな。
収納魔法:生活魔法の一種
使用者は限られるが、そこまで珍しいものでもない。
サイズによっては国が関わるとか。




